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 光の向こうに 〜ブラインドサッカー 07/02/11 (日) <前へ次へindexへ>

 理想のスラローム
 

 文/杵川希(キネカワ イツカ)
 まるで蝶のようにひらひらと舞い、陽炎のようにゆらゆらと存在する。かと思えば唸りをあげて風のようにすり抜けていき、その直後に後方のネットがたわんでシュッと鳴る。ブラインドサッカー・ブラジル代表選手たちのドリブルは、皆一様に柔らかい。足の裏でボールを受けて止め、インサイドで持ち出し、両足のインサイド間でキャッチボールをするようにボールを揺らしながら、鼻歌を歌うように滑らかなドリブルをする。どこへいっても、どんな局面でも、彼らのドリブルは重心がぶれない。

 日本人選手とブラジル人選手のドリブルを比べてみると、一つ違いがある。ドリブルが描くスラロームの曲線の滑らかさの違い。両足の使い方が決定的に違う。日本人選手のドリブルには体を支える足と、ボールを運ぶ足の二つがある。重心を片足に乗せ、その体の回りにあるボールを抱え込み、離れないようにしてもう一方の足がボールを運ぶ。ドリブルをするための軸足と、ボールを確保し修正するための補助的な足のふたつが存在する。そのためボールが体から離れてしまうとそのたびに自分のドリブル方向を修正しなおさなければならなくなる。

 ブラジル人選手のドリブルが速くて滑らかで高精度に見えるのは、体重移動がスムースで、体のどの方向にも偏っていないから。彼らは両足のあらゆるところでボールの感触を確かめ、それを体の一部にして両足に挟んで、付かず離れず前進する。前方に敵がいれば、体ごと抜きにかかる。ボールがルーズになり膨らんでしまっても、足先で探すことはせず、体ごと先回りして自分の懐に収めなおす。

 また、意識の違いもあるだろう。日本人選手は、マイボールをルーズボールにしてはならない、という気持ちが働き、どうしても敵の動きをかわしながら進むドリブルをする。一方ブラジル人選手は、ドリブルで相手を抜くにはどうボールを運べばいいか、を考える。ボールを保持することで神経の大部分を使うのと、そうでないのとの違いで、ワンプレーの意識が全く変わる。

「毎日、ボールを触るしかない」

 アルゼンチンでのワールドカップから帰国した日本代表選手たちは、口々にそう話す。現地で、片言のスペイン語で彼らは直接ブラジル人選手に聞いた。「どうすれば綺麗なドリブルができるのか?」。しばらくして、上の言葉が返ってきた。

 重心は低く、されど耳は上向きに、腰を浮かさず背を丸めず、迷いのない大胆かつ慎重な歩幅で進む。ボールを持つ、ボールを守る、という感覚ではなく、ボールと散歩するような優雅な心でスラロームを描く。ドリブルの世界基準。新たに手にしたイメージ。

「打倒、ブラジル」

 そのために、敵を知る。そして真似る。そこからまた一つ超越したイメージを学ぶ。
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