topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink
 光の向こうに 〜ブラインドサッカー 07/04/05 (木) <前へ次へindexへ>

 ヴォイスリレー
 

 文/杵川希(キネカワ イツカ)
 試合が始まれば、ピッチは声で覆いつくされ、情報の嵐が巻き起こる。ピッチを三分割した真ん中は監督の声、自陣ゴール側はGKの声、そして敵陣ゴール側からはコーラーと呼ばれるポジションの選手が情報を発信する。敵陣ゴール裏から声を出し、味方の、特にトップの選手(フットサルで言えばピヴォの位置)に向けて、ゴールの方向や距離を知らせるコーラーというポジションは、サポーターではない。紛れもなく「選手」である。

 コーラーには体の動きはほとんどいらない。ゴール裏に立っていればそれでいい。しかし、頭と口は誰よりも働いていないと務まらない。コーラーに求められるものは、量ではなく質である。自分の声をより遠く、よりすっきりと響かせるには、地声の一億ターブ高い声が良いとされているが、それ以上に大切なのは連携である。味方選手がどういうプレーをし、どのタイミングで情報を欲しているか、長く時間を共にしないと決して詰められない部分が、コーラーと選手とチームの出来を左右する。



 2005年の第4回日本選手権で大阪ダイバンズのコーラーとして優勝を経験し、今春から兵庫の新チーム「兵庫サムライスターズ」へ移った石森大介選手は言う。
「コーラーに求められるものは、そのチームによって変わってくる。成熟度合いによって、仕事は増えたり減ったりする。僕の場合は、(ゴール、シュート、距離などの)基本的な声を出すというところから始めて、声を出し続けて選手と少しずつ信頼関係を築いていって、選手間で必要な知識や決め事を作っていきます。トップが何をしようとしているか、何を知りたがっているかをある程度把握できれば、正直言って、僕は何もしなくていいと思っています。必要最低限の意識と声だけで事足りるようになるんです」

 石森選手はこれまで、サッカーどころか、スポーツさえほとんどしたことがなかったという。知人に誘われダイバンズのサポーターになり、半ば知人の強制でコーラーになった。今でも、彼からはさほどの熱意は感じられない。悪い意味ではない。継続することへの素直でひたむきな姿勢が彼にはある。その根気がコーラーとしての資質を高めている。

 ダイバンズで本格的にコーラーを始めた当初、チームメイトからは大いに叩かれた。 味方がボールを持ってゴールへ向かってくる。コーラーは声を出し、距離と方向を叫ぶ。しかし、ズレてしまう。コーラーが「8m」と叫ぶも、選手に伝わった頃にはもう「8m」ではない。「シュート」と叫ぶも、伝わった頃にはシュートチャンスが過ぎた後。ピンポイントで伝えるには、サッカーの知識がなさすぎた。しかし彼は解決策を見出した。練習のたびに選手から要求され、改善し、声の質を高めていった。



「ゴール、ゴール」
 これまでは細切れの声を出していた。だがこれでは息継ぎをしている一瞬の空白が味方にとって足かせになってしまっていた。声のない一瞬で試合がズレてしまい、選手が頭に描いたイメージを実行するタイミングを見失ってしまう。両者、お互いの癖を知っているからこそ、そこにやりにくさが生まれた。さらにチーム力をあげるにはどうすればいいか・・・。

 日本選手権終了後、石森選手のスタイルが変わった。
「ゴーーーール」
 現在の彼は、声を伸ばせるだけ伸ばす。どこかに息継ぎの場所は当然生まれてくるが、これが奏功した。
「(伸ばしてくれると)声の波に乗りながらプレーできて、タイミングにズレもないし、ミスをしても素早く立て直せる」
 チームメイトからも全幅の信頼を得た。これまでの細切れの声は、言ってみれば「数打ちゃ当たる」声だった。現在は「シュート」とはほとんど言わなくなった。ひたすら味方の攻撃時に「ゴーーーール」と一本の情報を絶え間なく流すだけ。

 コーラーというポジションは難しい。自分の方向に向かってくる味方に対して、時に左右を逆に伝えてしまったりもする。しかし、貢献を継続すれば、監督やGKとも連動した勝利への発信源になり得る。

 敵陣ゴール裏。ネット越しに戦うコーラーは、「選手」である。ピッチの一歩外で戦う異色の戦士。声による貢献の継続。それさえあれば、絆のバトンは勝利へと繋げることができる。
<前へ次へindexへ>
topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink