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 光の向こうに 〜ブラインドサッカー 07/05/05 (土) <前へ次へindexへ>

 見えるものを信じる勇気
 

 文/杵川希(キネカワ イツカ)
 目の見えない選手が撃つシュートを、見の見える選手が止めようとする。
 そんなシーン、どちらが優位だと思いますか?

 ピッチ中央、相手選手がドリブルで攻め上がってくる。味方選手が体を寄せる。ボールが少し前にこぼれルーズになる。ゴール前10m、ボールを保持しなおした相手選手が体をこちらへ向ける。口が渇き、唾が喉を落ちていく。ゴール前8m、守備網を突破した相手選手がギアを上げて向かってくる。こちらは相手選手を見て考える。あのアイマスクの向こう側にあるイメージはなにか。足捌きとボールの位置はどうか。腰を落とし、股間を閉じ、両手を地面すれすれまで張り、シュートに対する姿勢をとる。

 ゴールまでの距離が6mをきった。背後のコーラーの声が一層大きく聞こえる。それに合わせて心がざわつく。何を信じればいい。しかしとにかく今は体を張るだけ。それしかできない。相手選手の足運びは変わらない。ドリブルでボールを運び突進してくる。いつだ、いつ来る。姿勢を保ったままその時をただ待つ。

 ゴール前3m、もはややぶれかぶれに近い。相手の足がわずかに振り上げられた。エリアぎりぎりまで出張って、ボールから片時も目を離さないよう心がける。準備は万端・・・。その刹那、いつ蹴りだされたのかも判別できないシュートが、体の横をあっさりと抜けてゴールネットを叩いた。



 ブラインドサッカーのゴールキーパーは他のGKとはまるで違う。目の見えない選手が何を考え、どういうタイミングでシュートを打ってくるのか。背後のネットにボールが転がり込んでも、それだけは永遠にわからない。GKはただただ体を張り、体のどこかにボールがあたれば御の字という、およそ選手とも呼べないようなレベルで闘わなくてはならない。ブラインドサッカーのGKが動ける範囲は縦2m、横5mの小さなハコでしかない。ここにアクションはない。シュートに対する完全なるリアクションしか存在しない。

 「目が見えるんやったらできるやろう」
 多くの人がそう思うだろう。しかし実際はまるで逆。むしろ、見えるから難しい。

 磔にされたかのような気分に陥ることが多々ある。GKは自分から何かを仕掛けることができない。動ける範囲が小さいうえに、目が見えない選手にフェイントを繰り出してもまるで意味がない。ほかにも、無駄に動いてしまうと相手の思う壺。なぜか相手に伝わってしまう。心の隙というか、これまでほとんど意識したことがないような自分の慣性というか、間合いを感じ取られ、そこを突いてくる。失点を繰り返すたびに信じるものが一つずつ消えていくような気持ちになる。

 相手の狙いがわからないのなら、自分を信じるしかない。恐怖感や痛みをかなぐり捨てて、ただ壁となり、視覚世界でただ一人戦う。

 目が見えるのならそれを活かさない手はない。多くの場合それは逆効果となってしまうが、視覚世界では次を予測することができる。ボールと相手選手と足の角度から一瞬先のボールを読み対処する。しかし予測に頼りすぎると痛い目にあう。予測は頭の中で無意識のうちに枠で囲まれ、想定外の事態に対応できなくなってしまうからだ。サッカー以上に偶発的なシーンが多いブラインドサッカーでは、ミスキックの多くがGKを悩ませる。故意的にしているのかと思ってしまうほどの空振りもある。本人にとってはミスでも、GKにとっては厄介極まりないものになる。

 聴覚世界から視覚世界へボールが飛んでくる。視界に映る現実を見てから、そのシーンの後追いで守るしかないGK。行動は常に後手だ。主導権はこちらにない。



 ボールも鈴や金板が使われているため、サッカーやフットサルと比べて数段重く、強烈なシュートが足に直撃すれば、翌朝には目を疑ってしまうような色に変わっていたりする。痛いし怖い。しかしその感覚の向こう側を知ってしまうと、もうゴール前から離れることは出来ない。真性のマゾと言われても構わない。シュートを止めること以上の魅力に気付いてしまったが最後、目が見える限り戦う気になるだろう。

 目の見える人間にとって、何をどうやっても知りえない世界から飛んでくるシュート。それに手を伸ばす。見えるなら、見える世界を信じなければならない。それがどんなに的外れな現実であっても、それを信じる心を持った己を、ただ信じるだけだ。

 目の見えない選手が撃つシュートを、見の見える選手が止めようとする。
 どちらが優位か。答えは明らかだ。
 攻めている側が優位だ。
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