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| 光の向こうに 〜ブラインドサッカー 07/05/17 (木) | <前へ|次へ|indexへ> |
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次なる設計図 文/杵川希(キネカワ イツカ) |
キッカケは、大阪ダイバンズの主将山口選手のプレーに感銘を受けたからだった。
「俺もダイレクトでボールを蹴れるようになりたい」
ブラインドサッカーをはじめた当初は、ボールに触ることさえままならなかった。しかしたった一つ、他の誰にも負けないものを追求した結果、ダイバンズのストライカー井上選手は、日本屈指のダイレクトシューターとしてその名を轟かせた。
横から転がってくるボールは、自分が前後に動けばいずれどこかで直角に交わる。その接点を探すところから始めた。振りぬいた右足は幾度となく空を切った。ボールの軌道を読む力がまだまだ未熟だった。横からのボールがまだ無理ならば、と正面から転がってくるボールをダイレクトで返す練習を繰り返した。一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月・・・。約一年間、片時も休まず、通っていた学校の体育館の壁と相対し、転がってきては蹴り返すということを続けた。
サッカーについては無知だった。足のどの部分で蹴るのが良いのかもわからなかった。だから初めはトゥキックで練習をこなした。しかし、ボールに当る面積が小さいトゥキックでは、何度やってもズレが生じた。チームメイトである福本選手と練習を続けるうちに、インサイドキックを覚えた。これが最大のヒントになった。ボールに当る表面積が4、5cmから15cm程度に広がったことで、ダイレクトシュートの可能性と確率が飛躍的に向上した。そこから約3ヶ月。壁と足の内側の間でボールは休むことなく往復することとなった。
石森選手(現兵庫サムライスターズのコーラー)との出会いも大きかった。多少ダイレクトシュートに慣れてきた井上選手は、石森選手と二人で、仕事終わりに体育館や近くの公園で練習に励んだ。
「ゴール、ゴール・・・」
石森選手の声に向かってボールを蹴り続け、声の幅を知った。ゴールの大きさを考え、声の中心点からすこし左右にずらした場所を狙って蹴り続けた。ゴールのサイドネットへシュートを叩き込むイメージで。
2005年11月、埼玉レッズランドでのブラインドサッカー日本選手権。井上選手は不動のエースとしてダイバンズを引っ張った。いまだかつて、彼ほど正確かつ俊敏にダイレクトシュートを打つ選手などいなかった。そのため、対戦相手は彼を止めるのに苦労した。決勝では1−2のビハインドで迎えた後半、一人で4ゴールを叩き込み、チームを5−2の逆転優勝へ導いた。そのうち3つがダイレクトシュートだった。チームメイトのプレーから発見し、チームメイトと打ち込み、チームメイトの声に導かれ、井上選手のダイレクトシュートの設計図は、ひとまず完成を見た。
「コツ? 最初はボールの音を聞いて、それから頭の中でボールの転がり方とか方向とかを読んでイメージします。これは、直線のイメージね。それから、このへんに転がってくるなぁって思う場所に自分が動いて、ボールが来たら軸足をボールに当てる感じで前に出す。そうやって堰き止める感じで出した軸足に、シュートを打つ足を平べったく沿わせる感じで、言ってみればゴルフのパターみたいな感じでスライドさせるんです」
さらに、
「ボールにあたる直前、シュートを打つ足の踵をボールに向けて押し出すようにすると、これが結構な威力になるんです」
ダイレクトシュートをほぼ完璧に自分のものにした井上選手は、そこからもう一歩踏み出して、シュートの上下のコントロールも出来るようになった。振り下ろすようにゴールの下隅を狙い、踵で浮き飛ばすようにゴールの上隅を狙えるようになった。GKにしてみれば、シュートを打つタイミングは比較的わかりやすい。しかし、それがわかっていても止めることが出来ない。シュートの威力もそうだが、その寸分違わぬコントロールスキルに、その職人気質に、天を仰ぐしかない。
2006年10月の日本選手権。井上選手のダイレクトシュートは昨年ほどの威力を見せられなかった。対戦相手が徹底的に対策を取ってきた。井上選手を挟み込むような形で終始マンマークディフェンスを敢行したため、ボールが届く前に相手にカットされるというシーンが目立った。選手間の距離が極端に広くなる傾向にあるダイバンズにとって、これは致命的だった。零れたボールを拾えず、攻撃は散発になってしまった。最大の武器を取り上げられたダイバンズは苦しみぬいた末、3位。しかし三位決定戦のPK戦による勝利を除いて、正規の時間内で勝利することは一度もできなかった。
現在のダイバンズは、コーラーが変わった。ボールも、ワールドカップで使用されたあまり音のしないボールに変わった。チームと個人がうまくなればなるほど、対戦相手もそれに比例してうまくなっている。
追求した個人としてだけでなく、チームとしての大きな武器。
その新しい武器。
設計図を新しく作りかえるときが来ている。
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