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| 光の向こうに 〜ブラインドサッカー 07/08/09 (木) | <前へ|次へ|indexへ> |
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歓喜の男 取材・文/杵川希(キネカワ イツカ) |
前半23分、スペインのパスをカットした落合啓士選手がドリブルで持ち上がる。相手DF二人に寄せられ、その間を抜けようと試みる。直後、2人に挟まれる格好で倒されファウル。日本がFKを得た。ゴール左45度、約8m。キッカーポジションに立った落合選手はコーラーの声を聞いて状況をイメージする。スペインの壁はニアを切っている。GKはファーサイドに立っている。どうするか。
「去年のワールドカップで、ブラジルに決められたFKを思い出してた」
彼の頭の中は、"裏をかく"ことしかなかった。世界のGKは皆巧い。ストレートに蹴りこんでもゴールは難しい。ならば・・・
去年11月、ブラジルが日本戦で見せたのと同じように、落合選手はリスタートをサイドライン方向へ持ち出した。一旦中へボールを動かし、すぐさま切り返して外へふくらむ。前方に開けたスペースを感じ取ると、すかさずスピードを上げてえぐる。左足を振りかぶり、トゥキックで蹴りだされたボールは、意表を突かれた相手GKが見送る中、ファーサイドネットに突き刺さった。
「動いていないかのような11秒だった」
1−0のまま試合終了が近づく。終盤、足をつった落合選手はベンチで時間を数え、祈った。立て続けに日本がファウルを犯しスペインに第2PKが与えられる。1度目、エースFWホセ・ロペスがゴール左に外す。2度目、今度はGK田中重雄選手が右足1本で阻止。キャッチして立ち上がり、前方へゴールスローを投げる。数秒後、ホイッスルと共に落合選手はベンチで仲間と抱き合った。ブラインドサッカー発祥国スペインからもぎ取った、歴史的初勝利となった。
彼には一つ、期するものがあった。
6月26日、京都プリティウェルのGK阪田選手の友人が勤める尼崎の小学校を訪れた。「是非、ブラインドサッカーの話を生徒に聞かせてあげてほしい」との依頼を受け、講演を開いた。
しんと静まり返る体育館。
「誰もいないの?」。彼が手引きの人間に聞く。
「みんな座って待ってます。オッチーさんをじっと見てますよ」。小学5年生、全3クラス90名の生徒が彼を待っていた。
50分ほどの講演で、ブラインドサッカー体験とスピーチを半分ずつという予定だったが、子供達の熱心な姿勢と、無垢な心が体験時間を引き延ばした。結局、スピーチは10分足らず。それでも伝えたいことだけは伝えた。
「多少、形は違っても、気持ちさえ変わらなかったら夢は叶う」。もし視力があり、サッカー選手になっていたら、こんな機会は訪れなかっただろう。ブラインドサッカー選手だったからこそめぐり合えた生徒達であり、機会であった。
その反響はすさまじいものだった。終了後、四方八方から「オッチーさん」と呼ばれ囲まれ、握手、写真撮影、さらにはランドセル、ノート、シューズなどにサインを求められた。全てが新鮮で、意外で、衝撃的だった。それから数日後、生徒90名から感想文をもらった。クラス毎に分けられた冊子が三つ。みんなの心を知った。「嬉しいやら、恥ずかしいやら、こそばゆい感じだったよ(笑)」
日の丸を背負って旅立ったブラジル、サン・パウロ。気温7度という異常に冷え込んだ気候に驚きながらも、落合選手は先発選手としてプレーし、4か国中最下位に終わったものの、かけがえのない勝利と自信と経験を手にした。
みんなと一緒にホテルのバイキングレストランへ向かう。誰が確保したのか、店の中央の円卓に座る。スペインに勝利した8月2日の夜。歴史的な勝利を改めてチームメイトと振り返る。デザートを食べ、ほっと一息つく。
とそのとき、「HAPPY BIRTHDAY TO YOU♪〜」。どこからともなくはじまったバースデイソングを聞いて、はっとした。チームメイトだけでなく、レストランに居合わせたあらゆる国の選手も同調する。歌声はしだいに拡大していく。
「おめでとう!!」
日本を勝利に導く、忘れられないバースデイゴールを決めた男は、驚きで照れるしかなかった。
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