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| 光の向こうに 〜ブラインドサッカー 07/09/20 (木) | <前へ|次へ|indexへ> |
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彗星 取材・文/杵川希(キネカワ イツカ) |
溶け込むか、はじき出されるか。個性的なうえに猛者揃いの大阪ダイバンズは、これまで幾度となくその壁に泣かされてきた。正規のメンバーがたったの4人。5人で行うブラインドサッカーの試合に出られない、という危機感が常にあった。新しいメンバーを連れてきても、他の選手のレベルの高さに気おされ、強すぎる既存の連帯感の前にぶつかっては消えていく選手が多かった。
だがようやく見つけた。ダイバンズは最後のピースを手に入れた。中尾謙一、19歳。ブラインドサッカー初心者。ともすれば過去に消えていった選手以上に心もとないニューカマーだった。しかしながら、その印象はわずか40分、一試合で正反対の評価に変わった。週3日のチーム練習にも顔を出し、決して口数は多くないものの、きっぱり「楽しい」と言い、確たる課題と目標も持っている。
「期待の超新星」。その証拠に、2007年ブラインドサッカー西日本フレンドリーカップの新人賞に輝いた。ダイバンズが逆転優勝を決めた最終節・兵庫サムライスターズ戦で初出場し、その一戦で大衆を唸らせる見事なプレーを披露した。相手の攻撃をすべて弾き返し、鮮烈な印象を残して彼のデビュー戦は大成功に終わった。
「ブラインドサッカーは中学生の頃から知っていました。」
和歌山盲学校に通っていた当時、学校に鈴の入ったボールがあった。何度かそれを使ってクラスメイト達と転がして遊んだりしていた。ゆるりと蹴っては走り、壁パスの要領でなんとなく遊んでいただけだった。それはそれで完結した遊びでしかなかった。
「大学に入って、何かスポーツをやりたいなと思っていたんです。」
19歳の春、彼はスポーツを探すべく、盲学校の先生に相談した。そこで先生からもらった連絡先が、ダイバンズの10番落合選手の友人のものだった。通話ボタンを押したその瞬間、物語は急速に進み始めることとなった。
「想像していたものとは全然違いました(笑)。ほとんど逆でした」
ブラインドサッカーという言葉は聞いたことがある。ボールも蹴ったことがある。しかしスポーツとしてのブラインドサッカーはまるで知らなかった。ダイバンズの練習に初参加した時、彼はドリブルの多さに驚いたという。
「ほとんどパスだけのスポーツで、蹴れたら蹴るという曖昧なパスゲームだと思っていました。でも、実際落合さんや山口さんのプレーは、ほとんどドリブルで持ち上がっていくもので、僕が今までやっていたものとはレベルが違いました。ボールをきっちり止められるし、そこから確実なパスを出せる落合さんや山口さんは、良い教材になっています」
落合選手の励まし、山口選手の静かな支えもあり、彼は一回きりのダイバンズ選手になることはなかった。なにより、本人がその気になっているところが、なんとも頼もしい。
「初めて試合を経験して、連携とかタイミングがすごく大事な要素なんだなって思いました。できないことが多くて、大変でしたけど、ボールを蹴り返せた時は、ほんとに楽しいと感じました」
ただ純粋に吸収できるものを吸収していく、その真面目な姿勢がブラインドサッカーにどっぷりとはまったようだ。だが、それだけで強烈なインパクトを残すことは難しい。彼には疑う余地のない才能があるといっていいだろう。転がってきたボールをダイレクトで蹴り返し、それを味方に繋ぐ天性のセンス。彼の判断基準はどこにあるのか。
「うまく説明できないんですけど、ボールが転がってくる瞬間に、まず自分の右か左かを聞き分けて、それから音のスピードと自分が今いる地点を考えて、極力ボールに追いつくことができる場所を計算するように心がけています。逆に真正面の速いボールは、つい左右に動いてしまうので、苦手ですけど(笑)」
誰に教わったわけでもない。ボールが転がる。それに反応する自分がいる。思考回路が急速に働き出す。本能的な動きによどみがなく、そして正確。相手に「厄介な選手だ」と思わせるには十分な説得力を持っている。
一方課題も大いにある。
「目標はドリブルです。リズムもバランスも安定していないので、まずドリブルとはどういうリズムでやればうまくできるのかを考えているところです。他にも、守備の技術をもっと知りたいです。試合のときはとにかくヴォイという掛け声と、ボールにばかり集中していたので、相手をマークすることができなかった。そのあたりの対応力を身につけたいと思っています」
「ダイバンズは強い」。はじめの感想は素直なものだった。自分以外は全員代表クラスで、年季も雲泥の差がある。しかしそれを引け目に感じたり、「迷惑をかけちゃ悪い」と感じてやめることはない。少なくとも今現在の彼は、ブラインドサッカーに大いなる野心と興奮を覚えている。
「試合前に落合さんから、ダイバンズは西日本でいまだ負けたことがないということを聞いて驚きました。でも、そこに僕も貢献したいなってすぐ思ったんです」
さらに、
「ダイバンズの選手やスタッフの皆さんは、スポーツの面だけじゃなく、社会的な意味でも吸収するものが多いと思ってます。今までは学校の同級生や、高校生のボランティアグループとしか付き合いがありませんでした。物の考え方や感じ方というか、価値観のようなものがある程度似ているところがありました。でもダイバンズは学生、社会人、専門学校生など、人生経験がさまざまな人たちばかりで、話をするだけでも面白いんです」
大胆不敵で怖いもの知らずの、少々「おいた」が過ぎる部分があるダイバンズメンバーが聞けば、見たことがないほど顔を赤らめそうなセリフだ。
「試合ではクリアできた瞬間がすごく楽しかったです。練習でも、みんなと輪になってパスを回しながらしりとりをする練習が楽しいです。ボールの音とか位置とかスピードとかに加えて、しりとりもしなきゃいけないので、頭の中が混雑しますが、みんなとできるという点で、僕はかなり気に言ってます。あれは一日やっても飽きないですね(笑)」
彗星の如く現れた19歳は、これからどこまで伸びるだろう。小さな小さな幸せをたくさん拾い集めている現在、目標はチームメイト。そしていつ彼が世界に目を向けるか、それはさほど遠くない未来かもしれない。少なくとも彼の場合、ブラインドサッカーのこの先は、「将来」ではなく「未来」である。顧みることのない、明るい明日なのである。
彼にとってのブラインドサッカーとは、すでに生活の一部で、光の向こうに見える「自分」そのものなのかもしれない。
「自分にとってのブラインドサッカーは、まだまだ分からないものです。きっとかなり激しくて、もしかしたら怖いと思うかもしれない。でもスポーツは好きですし、ダイバンズが面白いと感じています。どんなことでも吸収したいですし、成長したいと思っています」
ダイバンズに「5人というゆとり」をもたらした彗星は、この先さらにどのようなインプレッションを与えてくれるのか、今から楽しみで仕方がない。
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