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 サッカーのある風景 06/02/02 (木) <前へ次へindexへ>

 サッカーしねま! 第7回 「シーズンチケット」


 文/砂畑 恵
 サッカー好きにとって1月は財布が風邪を引きそうなくらい寒いもんです。大体、年末はクリスマスや忘年会、年が明ければ大概の大人はお年玉を上げる側に回るわけだし、また新年会など交々のイベントが目白押し。クレジット会社から前年のアウェイ遠征費の請求がど〜んと届く人もいるかもしれません。12月に支払われた給料やボーナスは羽が生えているとしか思えないほど呆気なく手元からさよならしていく。そんな最中にこのコラムを読まれている多くの方は愛するクラブから嬉しくも哀しいお知らせが届くわけで…。そう、「来シーズンの年間シートはいかがしましょうか?」ってなわけですよ。

 と、いうことで、今回のご紹介映画は、そのものずばり「シーズンチケット」をお贈りします。この映画の原作はジョナサン・タロックの小説「The Season Ticket」を映像化したもの。舞台はイギリスのニューキャッスル。そこに暮らすニューキャッスル・ユナイテッドをこよなく愛する2人の少年がシーズンチケット入手するために奮闘する様子をおかしくも切ない視点で描いた秀作です。

【ストーリー】
 ジェリー(クリス・ベアッティ)は病身の母親(チャーリー・ハードウィック)と狭苦しい粗末なアパート暮らしをする15歳の少年。時折、長女のクレア(トレーシー・ウィットウェル)が姪っ子を連れてくるが、2番目の姉のブリジットは家出中。金欠になると家にやってくる飲んだくれの父親(ティム・ヒーリー)は厄介者でしかない。

 そんなジェリーは学校にも行かず、友人である2つ年上で太っちょなお人好しのスーエル(グレッグ・マクレーン)といつもつるんでいる。家庭にトラブルを抱え、豊かな暮らしとは無縁なジェリーとスーエルではあるが、彼らを固く結ぶ『希望』がある。それは二人が愛して止まない、地元の「ニュキャッスル・ユナイテッド」。

 ただクラブに対する愛情は人一倍強いジェリーも、聖地「セントジェームズ」は未知の世界。幼い頃にたった1度、スタジアムを訪れたスーエルが語ってくれる「ミルクたっぷりの紅茶と暖かく包んだ"父親"(ロイ・ハッド)のコートの思い出」を聞く事が、ジェリーにとっておとぎの場所に自分の身を寄せる唯一の方法でしかない。

 そこでジェリーは一念発起することを決意。1年掛けて次のシーズンが始まる夏までに2人分のシーズンチケット代の1000ポンド(約20万円)を貯めよう!ジェリーはスーエルと共に、考え得るあらゆる手立を使ってお金集めへと奔走する。


 イギリスでは話す言葉でその階級が判ると言います。その比較がしやすい作品として、ジェームス・アイボリーの「眺めのいい部屋」が挙げられますが、主人公である上流階級のお嬢様であるハニーチャーチと、彼女と恋に落ちるリベラルではあるものの下層階級出身のジョージとでは、言葉具合や話し方で階級の隔たりが判るといいます。

 その区別がつかない私ですが、一応、英会話スクールに行っていまして、「ベッカムの言っていることがよく聞き取れない」とアイルランド出身の先生に言ったところ、「訛っていて私だって何を言ってるかさっぱりよ」と冗談を交えた返答を受けました。当時、ベッカムはマンチェスター・ユナイテッドにいたわけですが、先生が言うには「スコットランド訛りが強いサー・アレックス・ファーガソン監督は、レイトンスートン出身で酷く訛った話し方をするベッカムをとても可愛がっているらしいわよ」とのこと。

 つまりイギリスは階層に影響した、日本のように出身地からくるコグニーと呼ばれる訛り、またアメリカとは別の独自に誕生したスラングがあります。特にそれを多用するジェリーとスーエルらの会話を聞いて解釈するのはなかなか難しい(私はジェリーのお母さんが歌った子守唄以外、ほとんどが??ってな感じでした)。しかも彼らはいわゆる一般の"いい子"ではありません。お金を貯めるためにマリファナを止めることから始めるし、万引きだってしちゃう。彼らの日常はイギリス映画にありがちな下級階級の生活そのもの。

 マーク・ハーマン監督は「子供達にとって、残された自己表現の手段は地元のクラブを応援することだけなんだ」と言います。言葉は通じなくても、その点では私達も似た者同士ですから、チケットを手に入れようとする手段は別にしても、ジェリー達のサッカーや焦がれるクラブに対する一途な気持ちは痛いほど伝わってくることでしょう。

 そう言えば先日、サッカー好きが集まったある新年会で仲間の一人が「サッカーと酒は私を裏切らない」と話していました。サッカーも、お酒も期待にそぐわず、彼女を心地よく酔わせると言うわけです。全くの下戸である私は「酒」に関してはちょっと気持ちを共有し得ないのですが、「サッカー」に関しては多いに共感出来ました。

 実は昨年、私自身にとって大変な1年でした。自身でさえ原因の掴めない中で私の心が蝕まれていたのでしょう。電車の中で何が悲しいのかも判らず突然に泣き出してしまったり、何をするのも億劫で、これほど好きなサッカーを観に出掛ける事までもが辛く感じた時期がありました。それでもサッカーを観戦している間は単なる1つのゴールにしても、「これを見られて、生きていてよかった」と思う瞬間が私には確かに存在しました。

 なんとなく思うのです、愛していても人の心はうつろい、大事にしていても物は壊れいくもの…。それが総てとまでは言わないまでも。勿論、愛するクラブと自分の関係は万事がいい時ばかりでもないけれど、広域な意味のサッカーと私の間は命の炎が消え尽きる瞬間まで蜜月が続くと。

 この映画と原作本とは内容が若干異なっています。殊にエンディングは全く違った展開となりました。この作品のプロデューサーであるエリザベス・カールセンは、イギリスの物語の根底を成すものが「階級社会が生み出す悲しみ」であると認め、「その悲しみと同じ分量のユーモア培ってきたことが、イギリスの素晴らしい伝統の1つ」と語っています。そういうことでは映画はその言葉に沿ったようなラストを迎えたと言っていいかもしれません。ジェリーとスーエルはいつまでもサッカーと裂く事の出来ない間柄でいて欲しい。そして貴方にとっても。そんな風に私は願っています。


「シーズンチケット」(2000年・イギリス作品)
原題:Purely Belter
監督:マーク・ハーマン
出演:クリス・ベアッティ、グレッグ・マクレーン、ロイ・ハッド
   チャーリー・ハードウィック、ティム・ヒーリー   他
   (内緒にしますがスペシャルゲストも登場しますよ!)

時間:97分
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