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 福岡通信 06/01/29 (日) <前へ次へindexへ>
福岡は連日に渡る激しいトレーニングでフィジカルを鍛えている

 新たなる旅の始まり
 

 取材・文/中倉一志
 まだ肌寒い毎日が続くが、それでもどことなく浮かれた気分になるのは、日増しに暖かくなる日差しに春がそこまでやって来ていることが実感できるからだろう。もっとも、今年に限って言えば、福岡の存在が春の訪れを特別なものにしてくれている。5年ぶりのJ1の舞台。それは戻ってこなければいけなかった場所。夢ではなく、どちらかと言えばノルマとされていた目標。それでも最高峰の舞台で戦えるという現実は心を弾ませてくれる。

 厳しい戦いになるのは分かっている。勝ち星を挙げることが今まで以上に難しいことも分かっている。しかし、いまはそのプレッシャーも心地よい。たとえ厳しい戦いになろうとも、高いレベルでプレーすることの喜びと、新たなチャレンジを始められることの喜びの方が大きい。結果を恐れず、勝利を目指して目の前の戦いに完全燃焼することで、多くの経験を積み、いくつもの教訓を手に入れることが出来る。それが自分たちの力になっていく。

 そんな思いは、ピッチの上でトレーニングに励む選手たちからも、ひしひしと伝わってくる。声を掛け合いながら、きびきびとボールを追いかける姿は例年以上に活気溢れるもの。トレーニングの指揮を執るコーチングスタッフの表情も心なしか明るい。激しいトレーニングにも音を上げる者はおらず、その仕上がり状態は早い。チャレンジャーとして臨む2006年シーズン。頭からフルパワーで戦う意思の表われだろう。

 練習場に通うサポーターの表情も昨年とは違っている。その穏やかな表情の裏には、自分たちが見守ってきた選手がJ1戦士として成長した喜びと誇り、そして、待ち望んだJ1の舞台で戦える喜びがある。しかし、決して安堵感に包まれているわけではない。トレーニングを積みながら選手たちが戦う気持ちを高めていくのと同様に、サポーターも、日を追うごとにチームを支える気持ちを高めていく。最高峰の舞台でチームとともに戦うために。



恒例の必勝祈願。今年は選手のほか、職員全員が参加した
 今年の福岡は1月10日から始まった合同自主トレで、実質的なトレーニングの幕を開けた。ブラジル人トリオと、一部の選手を除いてほぼ全員が参加。合同自主トレと言いながら、その内容は通常のトレーニングと変わらない。それでも、黙々とトレーニングメニューをこなしていく姿には、約1ヶ月に渡る休み明けというイメージはない。それは、長いシーズンの疲労を取りつつも、新しいシーズンへ向けての準備をしてきたことの証だ。

 クラブの最初の公式行事は1月15日の必勝祈願。この日は日曜日ということもあって、筥崎宮には約600人のサポーターが集まった。本殿に向かって参道を歩く選手たちを囲むようにして見守る姿に今シーズンの福岡に対する期待の大きさが感じられる。「開幕まではすぐなので時間を大事にしたい。少しずつでも前進していけば、その先にある場所に到達できる。前を見て進んでいきたい」とは千代反田充。その表情は晴れやかだ。

 公式練習が始まったのは翌16日。実質的な練習開始から1週間が経っているとはいえ、やはり特別な日。福岡市内に本拠を置くメディアの全てが集結し、多くのカメラが練習風景を追う。注がれる大勢の目にピッチの上には幾分緊張感が漂う。しかし、それは窮屈さを伴ったものではない。「注目されることによって、選手たちの人間性も技術も磨かれていく」(池下雄規専務)。自分たちは最高峰のリーグで戦う選手。そんな自覚がもたらす緊張感だ。

 練習終了後、報道陣に囲まれた松田監督は次のように話した。「今年からJ1ということで、いいモチベーションを持ってやってくれている。J1は非常に厳しい舞台だと思っているが、我々の力を結集して戦えばいい結果が出ると思う」。組織で戦うスタイルは今年も変わらない。その質を上げて全員攻撃・全員守備でJ1に挑む。そのために、まずは中断期間までの約2ヶ月間を全力で駆け抜けることのできる体力をつけることが当面の目標になる。



沖縄でおなじみのシーサー。福岡を災いから守ってくれるか?
 1月19日からは沖縄に場所を移して一次キャンプ。午前中に移動を完了させ、15:30から、喜瀬カントリークラブ1番ホールを貸し切ってのランニングでキャンプが始まった。基本的にはフィジカル強化が中心。かなりハードなメニューだが、この時期の蓄積は必ずシーズン中に「結果」という名前とともに返ってくることを選手たちは知っている。仲間を叱咤し、自らを叱咤して、体をいじめていく。

 今シーズンからチームに加わった注目のベテラン勢の存在も、チームに刺激を与えている。「違和感なく溶け込んでくれている。選手の意識が高くなっているところに経験のある選手たちがリーダーシップを発揮してくれて、今まで足りなかった部分を補ってくれている」(松田監督)。「大人の言葉で厳しいことを言ってくれるから、みんなが意識が変わってきている」(長谷川治久チーム統括グループ長)と声を揃える。若さの持つ勢いと、ベテランが積み重ねてきた経験の融合は着実に進んでいるようだ。

 25度を越える日もあれば、肌寒い日もあった沖縄キャンプだったが、最終日は20度を越す暖かな1日。前日がオフ、翌日からは2日間の休養が与えられるとあって選手は気合十分。ハードなサーキットトレーニングを意欲的にこなしていく。「ウォー」と叫んで自らに気合を注入する選手。仲間に檄を飛ばす選手。練習場にはあちこちから大きな声が上がる。疲れを感じさせない最終日となったが、それはキャンプが身になったことを示すものだ。

「すごく実りのあるキャンプ。予想通りに出来た。まだ宮崎キャンプが残っているが、それにつなげられるように福岡に戻っていい準備をしたい。もうひと山越えて開幕戦を迎えたい」(ホベルト)。「1月いっぱいは体力面のトレーニングが続くが、非常に良い状態に仕上がっている。意思疎通も図れたので、宮崎では実戦形式の中で戦術面を高めていきたい」(松田監督)。ここまでは順調。福岡は宮崎での二次キャンプでチームの仕上げに入る。



雁の巣練習場のサポーター。市民の関心は例年以上に大きい
 2月に入ると、福岡は一転して実戦形式の練習を重ねることでチームの形を作りに行く。2月1日の九州学生選抜との練習試合を皮切りに、1ヶ月間で予定されている練習試合はサテライトを含めて8試合。シーズン中と変わらぬスケジュールで試合をこなす。同一の対戦相手と4本の試合が組まれているものもあり、競争の中から勝ち上がった者だけがポジションを手にすることになる。ベテランも若手もない。同じ土俵で競争することでチーム力が上がっていく。

 さて、順調に見える調整も、正直に言えば、それだけで勝てるほどJ1は簡単ではない。戦う舞台のレベルが上がる以上、当然のことだが厳しさは増す。大切なことは、そういう舞台に物怖じをせず、どういう結果になっても強い精神力を失わず、変わらぬ気持ちで戦い続けること。相手を尊重し、結果を謙虚に受け止め、しかし、誰にも負けない自信を持って戦うことだ。個々のレベルアップは必要だ。しかし、自分たちもJ1戦士。伍して戦うだけの技術・戦術はあるはずだ。

 そんなチームを支えるフロント、サポーター、メディア、そして福岡にかかわる全ての人も、その存在が問われる1年になる。思い通りにいかないこともある。むしろ、苦しい状況に追い込まれることが多いかもしれない。そんなときに変わらぬ気持ちでチームを支えられるのか。それが試される1年になる。クラブを愛するとはどういうことか。チームを支えるとはどういうことか。それを改めて学ぶ1年になる。選手同様、新たな気持ちで、そして心してJ1の舞台に臨みたい。

 福岡は今年のチームスローガンを「Climb to the top! 〜闘う集団 競い合うチームづくり〜」にすることを発表した。全員がチャレンジ精神を忘れずに、チームとしてより高い目標に向かって切磋琢磨しながら、一歩ずつ上り詰めていこう、という意味が込められている。険しい山は簡単には登れない。しかし、だからこそ登り詰めたときの喜びは大きい。そして、前進を諦めない限り必ず頂上に辿り着く。頂点を目指す長い旅が、いま始まる。
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