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 福岡通信 06/01/29 (日) <前へ次へindexへ>

 喜びと悔しさ。そして新たなチャレンジを!
 

 取材・文/中倉一志
「やはり結果を引き寄せるのは最終的には気持ちの部分なのかなと感じた試合だった」(松田浩監督・福岡)。その言葉通り、第9節の新潟戦は強い気持ちで奪った今シーズン初勝利。そして、博多の森に駆けつけたファン、サポーターとともに勝ち取った勝利だった。互いに志向するサッカーが同じチームの戦いは我慢比べ。自分たちの思い通りに進められない時間帯が多いことが予想される中で、最後までボールに対する執念で新潟を上回ったことが勝利に結びついた。

 立ち上がりは新潟が前に出る展開。しばらくの間、福岡陣内での試合が続く。しかし、福岡は主導権を渡さない。出てくる新潟に体を寄せてラストパスを出させず。ルーズボールに積極的に働きかけてボールを拾う。相手の後方へのロングボールが多いのは、相手の激しいプレスに引っかからず、そしてFWのスピードを生かそうという狙いから来るものだ。パスミスが多く、中々相手を押し返せない展開が続くが、それでも粘り強く体を寄せて決定的なチャンスは与えない。

 試合前に、ゴールが決まるとしたらミスかセットプレーと思っていたが、その通りの展開から先制点が生まれた。得意のカウンターからジワジワとペースを掴みかけていた福岡は41分、低い位置に下がっていた久藤清一からのパスを受けた中村北斗が鋭く反転。マークに付く相手を一瞬で振り切って、グラウンダーのクロスをゴール前へ送る。するとこのボールを相手DFが空振り。そして最後はグラウシオが泥臭くゴールへ押し込んだ。

 後半は一転して福岡のペース。1点を追わなくてはならなくなった新潟のバランスが前にかかったために出来たスペースを利用して、福岡のスピードが生かせるようになったからだ。そして新潟がファビーニョを投入すると、古賀誠史を投入してパワーにはパワーで押し返す。そして迎えたロスタイム。スローインのチャンスからアレックスがグラウシオとのパス交換から裏のスペースへ。DF2人に囲まれながらもトップスピードに乗ったまま右足を一閃。ボールはGK野澤洋輔の股間を抜けてゴールネットを揺らした。



 自らのミスで相手にチャンスを与え、空いているサイドを思うように生かせず、ゴール前でのシュートの意識も高くはなかった。「これまでの試合よりも今日の試合が特別にまさったというわけではない」(松田監督)というように修正点は多かった。それでも勝利を手に入れたのは球際の戦いで決して負けなかったから。「福岡の方が運動量、攻守の切り替え、セカンドボールに対する反応等、全てに上回っていた」(鈴木淳監督・新潟)。この言葉が、この試合の全てを物語っている。

 結局のところサッカーの勝敗はディテールで決まる。押し込まれていても、ポイントを抑えきれば失点は防げる。いい形を作っても、最後のところで局面の勝負に勝てなければゴールは生まれない。その局面で相手よりも一歩、そして相手よりも数十センチ先に出たチームが勝利を手にすることが出来る。この日の福岡は90分間に渡って球際での執念にまさり、最後までボールに対する働き方で新潟を上回った。そんな試合をベンチで過ごした布部は「負ける気がしなかった」と振り返った。

 ただし冷静に見れば、組織の熟成度という点では福岡が上回る部分を持っていたことも確かだ。顕著に現れていたのがボールを奪う形。新潟のプレスが1対1の関係であるのに対し、福岡のプレスは2人、3人が連動して囲い込む。そのため、新潟はプレスをかわされると守勢に回らざるを得ないが、福岡は、競り合いでこぼれたボールを2人目、3人目が狙いすましたように拾っていった。この違いが勝敗に与えた影響は大きい。

 そして、スタジアムに生まれた一体感がチームに力を与えた。8,667人という観客数は決して多くはない。しかし、サポーターの歌声に合わせて自然発生的に起こった手拍子と、勝利を求める強い団結心は、まさにホームゲームそのもの。ヒーローインタビューを受けたグラウシオは「この1勝は、ここにいる全員の勝利」と話した。強い気持ちと一丸となって戦う姿こそ福岡のスタイル。まさに自分たちの戦いで福岡は願ってやまなかった初勝利を手に入れた。



 しかし、2日後に行われたナビスコカップ第3日目の浦和戦で、福岡は甘さを露呈する。この試合はメンバーの入れ替わりもあり、サポーターからも内容を重視したいとの声が聞かれていた試合だった。だが、チームは戦うことすら出来なかった。「前半の戦い方は非常に残念な形。我々の戦うスタイルだとか、戦う武器というものを全て放棄して戦おうとしたというか、戦えていなかったというか。前半の0−3という結果は当然」。松田監督にやりきれない表情が浮かぶ。

 とにかく戦う姿勢が見られない前半だった。浦和の前に気持ちが引け、自分たちのサッカーをぶつけることなく、ただ臆病に過ごした。年間50億とも言われる運営予算を持つ浦和は先発メンバーが5人代わったとはいえ豪華な布陣。けがからの復帰を果たした小野も自在にプレーした。そんな相手に気持ちで負けてしまっては勝負になるはずもない。後半になって持ち直したものの後の祭り。前半から1対1の勝負にこだわりを見せていた有光亮太が1点を返すに留まった。

 試合の結果は受け入れざるを得ない。敗戦はどんな理由があれ、いつも悔しいものだが、それを正面から受け止めて新たな一歩を踏み出すしかない。しかし、闘う気持ち、チャレンジする気持ちは闘う上でのベース。まして、個々の力で足りない部分を組織で補う福岡にとっては絶対に譲れない部分だ。しかし、その部分を放棄してしまったような前半の戦いぶりは、なんとも言えない後味の悪さをスタジアムに残した。

 新潟戦の先発とは10人が入れ替わる布陣だったが、決して戦えないメンバーではなかった。けがからの復帰組を含め主力メンバーは5人。ほかのメンバーも貴重なバックアップとして期待される選手たちばかり。むしろ、クラブに内在する甘さのようなものがいっぺんに噴出してしまった結果と見るべきかもしれない。2日前に強い気持ちで勝利を呼び寄せた福岡は、その気持ちをなくしたがために敗れた。苦い思いを胸に抱くことになったが、いい薬にするしかない。



 浦和戦での敗戦で最も情けない思いをしているのは選手たちだろう。それぞれの表情に後悔の念が浮かぶ。そして、地元メディアに促されてTVカメラの前に立ち共同取材を受けた布部陽功は、いつものように丁寧に質問に答えたが多くは語らなかった。終わったことに対する反省の言葉を積み重ねたところで何も戻っては来ない。とにかくやるしかない。悔しさを晴らすのはピッチの上しかない。その態度は、そう語っているかのように見えた。

 喜びと悔しさは、あざなえる縄のようなもの。それが交互に折り重なることで、縄は太く、強くなる。新潟戦での勝利を必要以上に喜ぶことなく、浦和戦での敗戦を正面から受け止めること。それをチームだけではなく、クラブ全体の問題として認識すること。そして、内在する問題点から目をそむけずに、一丸となって前へ向かって進むこと。そうすることでクラブは力をつけ、それに伴いチームが本当の強さを身に付けられる。

 さいわい、けが人もチームに戻り、福岡は開幕以来始めてベストメンバーを組める準備が整った。喜びと悔しさを経験し、新たな気持ちで再スタートを切る条件は揃っている。しかも、鹿島、川崎Fと強豪との2連戦は、余計なプレッシャーを受けずに戦える格好の相手だ。失うものがないのは福岡。結果を怖がらず、ただ自分たちの力の全てをぶつけることだけに専念すればいい。それが勝利を呼び寄せることは、新潟、浦和の戦いが示してくれたはすだ。

 Jリーグで一度も勝っていない相手との対戦。しかも、アウェーあることを思い知らされることでは1、2を争うカシマサッカースタジアムでの試合は厳しいものになるだろう。しかし、それは承知の上。その中で、どれだけ自分たちの力を発揮できるか。どこまで戦う気持ちをぶつけられるか。そして、最後まで勝利にこだわれるか。結局は、この3つが試合を分けることになりそうだ。それも望むところ。そして、勝利の美酒とともに福岡に帰りたい。あとはやるだけ。恐れるものは何もない。
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