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 福岡通信 06/06/10 (土) <前へ次へindexへ>
博多の森は新しい姿のアビスパを待っている。

 リスタート
 

 取材・文/中倉一志
 アビスパ福岡は5日、川勝良一新監督の就任記者会見を行った。出席したのは、川勝監督をはじめ、都筑興代表取締役社長、池下雄希代表取締役専務、長谷川治久チーム統括グループ長の4人。会場となったニューオータニ博多「あやめの間」には、TV局、新聞社のほか、福岡に本拠地を置くメディアが勢ぞろいし、この問題に対する関心の高さが窺われた。限られた時間の中での会見となったが、記者会見後の囲み取材も含めて、その時間は約45分間に及んだ。

 会見に先立って挨拶をした都筑社長は「川勝氏は、アビスパ福岡のスピーディでコンパクト、かつ、アグレッシブなサッカーを継承し、さらにアビスパ福岡を、強く、勝てるチームへと成長させていただけるものと確信しております。川勝新監督を迎え、フロント・チーム一丸となって、勝利のため邁進する所存です。まず、リーグ戦再開後の第一戦目となります7月19日水曜日のFC東京戦では、新監督並びに選手たちに力一杯戦ってもらうため、満員の博多の森球技場を提供したいと思っております」と話した。

 また長谷川チーム統括グループ長は「まずアビスパ福岡のサッカーを継承してもらえるということが一番最初にあった。コンパクトでスピーディでアグレッシブ。これをやってくれる監督として一番最初に浮かんだ。個人のスキルというものを伸ばしてもらえるということと、短期間で結果を出さなければいけない事情もあり、そこをやってくれるのは川勝監督しかないということで白羽の矢を立てて交渉してきた」と監督招聘の理由を説明した。

 福岡は8日から11日間のオフに入っており、川勝監督のチームへの合流は19日から。ただし、監督就任前に決まっていた仕事のキャンセルや残務処理をする必要があるため、石垣島キャンプには、2日遅れて23日から参加する予定になっている。現在はビデオでチームや選手の特徴を分析する毎日だが、石垣島キャンプで早急に戦力の見極めを行い、松田前監督解任から1ヶ月間に渡って無駄にしてしまった期間を取り戻すことになる。



つかの間のオフを迎えた雁ノ巣球技場。しかし、選手は休んではいられない
 待ち望んでいた福岡の新監督がようやく決定した。率直な感想を言えば、ほっとしたというところだろうか。川勝監督という線は、松田前監督解任直後から番記者の間では囁かれていたことでサプライズを与える決定ではなかったが、監督の持つ「熱血漢」というイメージは、これから風を起さなければならないチームにとってはふさわしいように思える。今年、移籍してきた布部陽功、薮田光教、吉村光示らが、かつて川勝監督の下でプレーした経験があるのも、短期間で立て直さなければいけない福岡にとっては好都合だろう。

 記者からの質問に理路整然と、よどみなく答える態度は「熱血漢」と言うよりも、理論派のイメージ。「人情味があってやさしい方」と布部が言うように、穏やかに、笑顔を交えて話す様子は温かみさえ感じられた。しかし、穏やかに見える瞳の奥にはキラリと光るものが。「ピッチに立つと厳しい。パスひとつとっても、どういう意図があるかを徹底された。弾んだボールを出すと怒鳴られた」(布部)。決して妥協は許さない。その熱い姿勢は、記者会見の言葉のひとつ、ひとつから十分に伝わってきた。

 その川勝監督が何度も口にしたのがメンタル面の強化とプロ意識の徹底。「関東のチームと比較して、競争意識とか、プロ意識というものが若干低いと思う。その辺を変えていかないといけない。チームを変えるということは、そうとういじることも起こるし、それで、ある程度波風が立つことも仕方がない。妥協したり、その都度、なあなあで収めるとか、そういう日本人的なまとめはしないと思う」。急な就任で建て直しまでに与えられた時間は少ない。その部分は意識を高めることで補うつもりだ。

 そして、オールラウンドをベースにした流動的なサッカーを目指す。「カウンター狙いだとか、個人を最優先するとか、ディフェンスをベースにするとかは部分的な話。プロだから全部必要。個人のスキルを徹底して上げて、頭の中の発想、個人戦術も、プロのレベルとして十分対応できるようなところまで持っていければ、日本代表のように必要なときに、必要なポジションに人がいる形ができる。そういう臨機応変さを形にしたい」。福岡が目指す組織サッカーの方向性に変わりはない。



東区香椎浜の本社新社屋。器だけではなく中身の変化が求められている。
 しかし、新監督の就任は、行き先を見失っていたチームがようやくスタートラインに立ったということを意味するだけもので、それ以上でも、それ以下でもない。チームが勝てなかった主たる原因であるFWの得点力不足には、まだ手がつけられておらず、福岡が置かれている厳しい状況は何一つ解決していない。むしろ、貴重な中断期間に1ヶ月の空白を作ったという事実は重く、チームが置かれている厳しさは増したとも言える。

 もちろん、川勝監督のサッカーに対する情熱や、プロ意識、そして現場を離れていた4年間で増やした引き出しの数は、福岡にとって大きな力になってくれる可能性は十分にある。しかし、それも、フロントがプロとして機能してこそ。「現場の選手、スタッフだけじゃなく、フロントを含めた全部がアビスパの一員。全員が戦うとか、守るべきところは守る、そういうことを長谷川氏にも契約の段階で話した」(川勝監督)。チームの浮沈はフロントがプロとして責任ある活動ができるか否かにかかっている。

 そもそもチームはクラブの組織の一部であって独立して活動しているものではない。運営母体がクラブである以上、フロントやクラブ職員の意識、企業風土のようなものは少なからずチームに影響を与える。どんなに優秀な監督を招聘しようとも、チームはフロントが持つ力以上のものを発揮することはあり得ない。今回の監督交代に伴って、いくつかのいざこざや、フロントのリーダーシップのなさを示す出来事があったが、現在のチームの不振はクラブが抱えている構造上の問題が表面化したに過ぎないことを忘れてはいけない。

 福岡は8日、新社屋となる福岡フットボールセンター管理棟(福岡市東区香椎浜3)の完工式を行った。新聞によれば、その席で都筑社長は「社名、監督に続いて社屋も代わり、再出発する気持ちで頑張りたい」と語ったそうだが、器と指揮官を変えても中身が変わるわけではない。クラブ設立以来、変わることのなかった構造上の問題を解決してこその再出発。それが出来なければ過去と同じ過ちを繰り返す。それだけは決して許されない。



フロントは7/19のFC東京戦を満員の観衆で埋めることを約束するが・・・
 当然のように選手達にも厳しい姿勢が要求される。「3日かかるんだったら1日で終わりたい。スタッフにもそれを要求するし、当然自分も率先するし、時間がないところで監督就任を受けているので、1ヶ月弱のところで2、3ヶ月の内容でやりたい」。そして「練習は当然厳しい」と何度も川勝監督は口にした。現在の順位、監督交代で生じた空白期間、着々と補強を進める他チームの状況等を考えれば、それも当然のことだろう。

 また、今年のチームは、サテライトとトップチームの意識に大きな差があるのも課題のひとつ。回ってきたチャンスを生かそうとする気持ちの弱い選手がいることも事実だ。そういった状況の中、チーム内の競争原理が働かなかったこともチームが低迷する一因になっている。当然のように川勝監督は、この部分にメスを入れることになる。しかし、最終的にどこまで意識を高められるかは本人次第。甘えは絶対に許されない。

「これでお金をもらっているということを常に頭に入れて、好きなスポーツだけれども仕事だということも常に頭に入れておけば、厳しい要求をしても、妥協を絶対にしないと言っても、それはお互いに飲むと思うんですよ。気分でやっているスポーツじゃないということは徹底してやっていかないと」。仕事である以上、結果が求められる。結果が出せなければ居場所がなくなる。それがプロスポーツの世界。選手達には、その厳しさを勝ち抜く精神力が求められている。

 もちろん、変わらなければいけないのはフロントと選手達だけに限った話ではない。今回の監督交代に伴って、選手、スタッフだけではなく、フロント、クラブ職員、サポーター、そしてメディアも様々なことを感じたはずだ。その問題意識を実行に移すこと、そしてやりぬくことが、いま福岡にかかわる全ての人に求められている。まだ状況は何も変わっていないが前へ踏み出すきっかけだけは出来た。力強く踏み出せるのか。目標に向かってまっすぐ進むことが出来るのか。いま、我々はサッカーの神様から試されている。


●川勝監督就任記者会見&囲み取材でのコメント(抜粋)
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