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 福岡通信 06/07/19 (水) <前へ次へindexへ>

 心に刻んでおきたいこと
 

 取材・文/中倉一志
 長かったような、短かったような2ヶ月間が終わりを告げ、博多の森にJリーグが帰ってくる。開幕を迎えるにあたって期待と不安という相反する思いが胸の中に渦巻くのは、いつもと同じ。その二つの思いを、ただひとつの強い思いへと昇華させて開幕ゲームに臨むのも、いつもの開幕を迎える時と同じ作業だ。選手は自分と仲間を信じる思いを強くして、サポーターはチームとともに戦う気持ちを高めて、開幕のホイッスルを待つ。

 さて、福岡は川勝良一監督のもと新しくなったチームで再開のゲームを迎えるが、ここまでの取り組みについて、もう一度整理してみたい。川勝監督が選手に求めたのは「意識の変化」。普段の練習の緊張感を高め、自ら設定している限界点を破ることを求め、そして妥協を許さぬ姿勢でトレーニングを繰り返した。「自然とモチベーションが上がる環境を作ってくれる」(千代反田充)。トレーニング風景は一変。中身の濃い3週間を過ごしてきた。

 もうひとつの変化が「攻撃の意識」。新加入のバロンは1人でゴールを量産するようなタイプではなく戦力的にはほぼ横ばい。中断前にフロントが宣言した「強力なFWの獲得」は叶わなかった。その中で川勝監督は、ゴールを意識してのパス回しと、2トップに加え、反対サイドのMFとボランチがゴール前につめることを徹底した。「周りに人が多くいるのでチャンスが作れる」(薮田光教)。この点に関しては、ほぼ狙い通りの形を作れるようになっている。

 若干の積み残しがあるのが「守備の意識」。有効な攻撃を仕掛けるために、高い位置からプレスをかけてボールを奪い取る守備を目指しているが、「守備ブロックを形成して待ち受ける守備」の癖が抜け切れない。いい形で機能する場合と、ブロックを崩してボールを奪いに行くタイミングと場所を掴みかね、個の強さをベースにする守備に戸惑いを見せる場面が織り交ざっている。しかし、勝つためには必要なこと。選手たちは前向きに取り組んでいる。



 成果と課題があるのはどんなチームでも当たり前のこと。クラブが監督と選手に用意した期間が3週間しかなかったことを考慮すれば、チームは非常にいい準備をしてきたと言える。メディアが好んで使う「○○マジック」などという言葉は実際にはスポーツにはあり得ないのだが、それでもマジックでも使ったのかと思わせるほどチームの雰囲気は変わった。それは妥協を許さない監督と、危機感を持って取り組んでいる選手たちの姿勢が生んだものだ。

 ただし、やはりクラブが与えた3週間という期間はあまりにも短すぎた。チームは限られた期間で出来うる限りの最高の準備をしてきたと言えるし、目指すチームは残留だけに留まらず、上位に進出する可能性を秘めたチームであることは間違いない。だが、まだ未完成のチームは公式戦を戦いながらチームを作っていかなければならず、J1残留のためには最低でも5割の成績が必要な現状からすれば(1勝20分1敗で総勝ち点31、11勝11敗で総勝ち点は41)、厳しい状況に置かれていることは変わらない。

 それでも選手は強い気持ちで戦ってくれるはずだ。「ギャップを埋めるのは、メンタルの強さだとか、猛烈なメンタル、勝ちたい気持ち。考える力と勝ちたいという力でカバーできる。妥協して低いレベルでプレーすることをしなければ勝てる要素はある」(川勝監督)。W杯での多くの試合がそうであったように、自分たちのスタイルにこだわる強さと、勝負にかける気持ちの強さが戦いのベース。どんな状況にあっても、その思いをなくさないことだ。

 そして、若干の戸惑いを残しながらも千代反田は現状を前向きに捉えている。「すごくいい準備が出来ている。監督は勝つために必要な部分を言ってくれている。選手達もそれを実行しようとしている。DFはやり方が変わって、走る量も増え、要求される判断も細かくなっているけれど、DFのレベルが上がることで勝つ試合数増えるはず」。現状で足りないものを必要以上に問題視するのではなく、それをどうやってカバーするか前向きに捉えること。それも意識を変えることのひとつだ。



 そんなチームに敢えて苦言を呈するとすれば、現段階でサテライトに甘んじている選手たちのモチベーションが低いことだ。サッカーというスポーツは11人だけで戦うのではなく、所属する全ての選手全員で戦うもの。高い精神レベルを維持し、どんな状況に置かれても常に自分の力を100%出せる選手がどれだけいるかでチーム力が決まる。ところが、トップチームのメンタル面での充実度に比べ、サテライトチームのモチベーションが上がっていないように見える。

 試合に出られない選手がレギュラー陣と変わらぬパフォーマンスを発揮することで危機感をあおり、レギュラー陣が絶対的な力を示すことでポジションを守る。チームの力を上げるためには、この矛盾する二つの要素をチームが併せ持たなければならない。それがないチームは競争原理に欠け、不測の事態でレギュラー陣に出場できない選手が生まれたときに、あっという間に崩れていく。チームのため、そして自分自身のためにも、心の持ちようを変えてくれることを願いたい。

 また、長谷川晴久育成統括グループ長がよく口にするようにチームはクラブの持ち物。それはクラブのビジョンに基づいて作られていくものでなければならない。逆に言えば、クラブの姿勢がそのまま反映するのがチームという生き物。現場の頑張りでチームがどんなに変わろうとも、クラブの持つ力以上に強くなることはあり得ない。チームが変わろうとしているいま、フロントにも目に見える変化が求められている。

 私のような者にフロントのやっていること全てが見えるわけではない。私が邪推しなくても改革は内部で進められていることだと思う。しかし、それが目に見えてこない。もし、いままでの運営から脱却できなければ過去の過ちを繰り返してしまう。誰にでも実感できる変化を示すことこそが今のフロントには必要だ。それがひいては、福岡市民にアビスパ福岡を知ってもらい、応援してもらうことにつながっていく。ファン・サポーターを視野に入れない運営をするのであれば、そのクラブはJ1にいる資格はない。



 そして、サポーター、メディアをはじめ、福岡にかかわる全ての人たちが戦うことが求められている。足りないものがあるのは承知の上。それは福岡にかかわる全ての人間が一丸となって戦うことでカバーすればいい。選手と一緒にピッチの上に立つことは叶わないが、選手の背中に浴びせる大きな声と、チームへの思いを込めた歌声は、必ずや選手たちに力を与え、それは勝利を手に入れる原動力となる。いままでも、そしてこれからも、それが福岡の戦い方だ。

「J1残留は大丈夫ですよね」と人事のように監督に質問していたメディアがいたが、いまの福岡に傍観者は必要ない。チームの力は、フロント、サポーター、メディア、そして福岡にかかわる全ての人たちの力の総和。福岡にかかわる全ての人たちが、それぞれの立場で、それぞれのやり方で戦うことが求められている。方法は様々だ。どんなやり方があってもいい。必要なのは福岡の勝利を強く願い、行動すること。それがあれば多くの困難は乗り越えられる。

 簡単なシーズンでないのは開幕前から分かっていたこと。全ての力を結集しなければ結果が得られないのも分かっていたことだ。「福岡にかかわる全ての人たちが試されるシーズン」。そう覚悟して臨んだ今シーズン。いま、もう一度、その覚悟を胸に刻みたい。様々なことが起こり、様々な思いが胸をよぎり、一時は行き先さえ見えなくなったこともあった。だからこそ、もう一度、自分たちの原点を見つめなおして再開の試合を迎えたい。

 選手にも、サポーターにも、手が届かない問題がある。そして、それは厄介な問題でもあり、早急に改善する見込みもない。だが、だからといって我々がやることは変わらない。サッカーへの思い、チームへの思いを目の前の試合にぶつけて勝利を得ること。そして、その先にあるべき姿が見えてくる。頭を上げて、胸を張って博多の森へ出かけよう。大声を出してチームと一緒に戦おう。熱い思いは必ずサッカーの神様に届くはずだ。
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