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 札幌からのメール 06/04/11 (火) <前へ次へindexへ>

 雪の果
 

 文/笹田啓子
 5日の草津戦に勝って、連敗を止めホーム初勝利を挙げた翌日の朝。
 待ちかねた春がようやく来たような気がして、晴れやかな気持ちでカーテンを開けるとそこは一面銀世界。脱力。4月に雪が降ることなど、北海道では珍しくもなんともないことだけど、この日は一晩のうちに札幌市内でも11センチ積もった。そんなことは流石にそうそうない。

 朝のローカルニュース。ホーム初勝利に貢献した、出場停止明けのフッキの活躍を伝えたアナウンサーは最後に「フッキが見事に復帰しました」と、およそ公共放送らしくない駄洒落を言って、すぐさま「…失礼しました」と照れくさそうに次の話題に移っていっていた。そのあとの天気予報では、「この季節に降る雪のことを『雪の果(ゆきのはて)』とも呼びます」と昨夜からの雪を、そんなふうに伝えていた。

 「雪の果」。
 冬の終わりの降りじまいの雪のこと。降ってもすぐに融けてしまう雪のこと。本格的な春の手前の、本当に最後の雪のこと。名残雪と同じ意味の言葉。
 その言葉にはニュースで聞く数日前に出会っていた。奇数チームで開催される今年のJ2では、1日に試合のあった第6節が札幌の休みの回で、翌週水曜日にはナイター。そのため普段ならオフになる2日の日曜日に練習があった。その練習を、緩んだ雪に降られながら見守ったあと、帰宅してから読んだ本のなかにその言葉があった。

 降り終いの、長い季節の果てに降る雪かあ。
 このあいだの連敗って、この「雪の果」みたいなものなのかもなあ。なんて考えてた。その時点ではあまり自信を持ってそう考えていたわけじゃなかったんだけど。



 今年はJ1昇格へ向けた、本当に勝負の年。
 開幕戦はアウェイ鳥栖で勝って上々の滑り出し、今年の補強の切り札と目されたFWフッキがFKで決めた1点を守っての勝利だった。けれどホーム開幕では一転敗戦。負けたどころか、相手選手の執拗なマークにキレたフッキが暴力行為で退場。判定に怒りが収まりつかないフッキを、柳下監督がなだめて・・・というのは形容が正しくない、「悪いのはお前だ帰れ!」といわんばかりにフッキをド突いて引き下がらせた。それはなんだか子供の喧嘩みたいな光景で。結局この退場でフッキは3試合の出場停止を喰らってしまった。

 いきなり攻撃の軸抜きで3試合を戦うことになった札幌。
 それでもその最初の試合はアウェイで山形に1−0で勝った。だからやっぱり今年は違う!と皆思った。それから中2日でアウェイ愛媛。そこでは本当に雪に降られた。試合前日の練習が降雪のため屋外で出来ず、キチンと身体を作れないままに向かった試合は、こちらは序盤から身体がいかにも重く、対する愛媛はJ2昇格したばかりの勢いを随所に感じさせる、瑞々しい運動量で札幌を圧倒する。昇格を志しているはずのチームが、J2に上がってきたばかりのチームに敗戦を喫するなど、さすがに誰も予想も覚悟もしてなくて。

 昇格を目指すなら先ず連敗はありえない。まして次はホームゲーム。室蘭へサポーターが集まった。
 チームのやろうとしているサッカーに対しては、去年や、ましてその前の年には比べようもない成長の跡が伺える。過去2年間で積み上げてきたものが、ちゃんとピッチの上で形を成してきてはいる。いるけれど、長いキャンプの蓄積された疲労のせいか、それともこの移動の大きいこの日程のせいか、選手個々の動きにあと一歩のキレがない。あと一歩の足りなさが、チーム全体から輝きを失わせ、それでものらりくらりとかわせる力があればよかったのだけど、そんな老獪な力を持っていたのは相手の横浜FCのほうで。札幌のミスから奪われた1点を最後まで守りきられてしまった。



 考えてもいなかった早い連敗。今年はチームにとって春の季節だと、信じていた自分達にとってそれは、予期せぬ吹雪のようなもので。「もしかして、まだ冬は続くのか」「春なんか来ないんじゃないのか」。暖かい季節から遠ざかっていたサポーター達には、アタマの中に長い冬のイメージばかりがこびりついていて、だからひどく荒れ模様になった。

 それでも今はやっぱり春に向かっているのじゃないのかなあ と、練習を見ていたら腑に落ちることは多く。
 試合のない週末に行われた、大学生相手のトレーニングマッチでは45分×3本で8−1で勝ち。当たり前のことのようだけど、柳下体制になった最初の年のこの時期の、同じ相手との結果は1点差でなんとか勝つのがやっとのことが多かった。主力と控えの差も大きかった。でも今は誰が出てもチーム力の落ちないことを恐らく目指してチームを作り続けている。その成果は着実に出てきている。ミニゲームをやれば、攻守に目が離せなくなる。フィニッシュの部分の精度こそまだまだで、そこだけ見れば「やっぱり練習でもこの程度」と言われてしまい、季節にしたらそれは冬にしか見えないかもしれないけれど、2年間を鑑みればやっていることがやはり春に向かっているのだと信じることには難くなかった。だからこそ余計に、結果が欲しかった。

 フッキが戻ってきて最初の試合になったホーム草津戦。
 最初の1点を取ることに難渋したし、2点目を取ったあとの草津のゴールがもしもオフサイドでなければ、実際どうなっていたかはわからない。それでも3−0という、それまでの溜飲を下げてくれるような結果を出すことが出来た。半月前のホーム初戦で監督にピッチの外に追いやられたフッキ、駄目押しの3点目を奪うと、ゴール裏のサポーターにアピールしたのち走りよったのは、その監督のもと。交わされた抱擁に悪びれない信頼を感じる。
 でもこの勝利も、次の試合に負けてしまったら意味がなくなる。今年最初の、J1降格組、神戸との対戦。そこでは前半1分で先制点を奪われるも、その後立て直し逆転勝ち。内容でも圧倒していたと聞く。今季初の連勝。



 やっぱりあの連敗は、降りじまいの雪だったのかな。降り積もっても気付かぬうちに融ける雪。草津戦の翌日に新しく積もった雪も、そういえばすぐに消えていた。

 神戸戦のあと、本屋に立ち寄った。季節の言葉の本を見たら、「雪の果」がそこにも載っていて、その本には「…または、涅槃雪 とも言います」とも書かれていた。お釈迦様の入滅の頃に降る雪のことをそう言うのだそうだけど、なにかこの雪の果に悟りの境地というか、愈々苦しみのない世界が待っているような気がして、一人で更にいい気分になってみたり。

 これからの季節、雨の日も曇りの日もあるだろう。でもきっともう雪は降らない。待っていた季節は、来ている。それは私達の本当の戦いの季節の到来を意味しているようにも、思えてならない。
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