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 札幌からのメール 06/10/05 (木) <前へ次へindexへ>
やるべきことは決まっている。目指すサッカーの為に、やれることをきちんと積むこと。積んでいくものがあれば、必ず望む場所にたどり着ける、

 成果
 

 文/笹田啓子
 昇格のためにはもう絶対に落とすことが出来ないと思っていた、上位陣とのホームでの直接対決。8月の最後の土曜日の横浜FCとの対戦は、前半に先制しながら後半に2失点で逆転負け。8位に落ちた順位。スタジアムは声を失う。その時期で、昇格を狙うチームのいるべき順位では、それは、なかったから。

 試合の後、スタンドの外に出てなんとなく仲間とやり過ごす。場内の売店業者さんから売れ余ったアイスクリームを買って食べながら、悔しいでも悲しいでもなく、ただ、少し冷たくなってきた風に吹かれて、陽の傾きかけた空を見ていたら、ああ、夏が終わるんだなあ。季節の風に乗ることもないまま、今年は終わっちゃうのかもしれないなあ。そんなふうに思っていた。

 それから1ヶ月経った今、その時終わっていくように思えた流れは、まだ、この手の中にある。数字の可能性だけで見たらそれは限りなく僅かなものだけど、でも、私達はまだ、切れていない。



 厚別で季節を終えた気持ちになってた横浜FCとの対戦から、ちょうど1ヶ月後の9月27日。その日の新聞のテレビ欄は、夕方のローカルニュースの時間帯に、どの局も同じような言葉が踊っていた。「試合前の興奮を札幌ドームより生中継!」。

 地元新聞の夕刊には、場所取りの列が朝から約2千人集まっているとカラー写真入りで載っている。プロ野球の地元・日本ハムファイターズが、その日の試合を勝つか引き分けるかで、リーグ戦の1位通過が決まる。夕方から降り出した雨も、屋根のあるドームには関係ない。4万を越える観客がドームに集まり、歓喜の瞬間を迎えようとしていた。

 その同じ時間に私は、会社を6時ちょうどに出て雨の中をバスと地下鉄を乗り継いで厚別へ向かう。地下鉄の大谷地駅からは、競技場へ向かうシャトルバスの最終便。バスを降りると雨粒が足元で小さくなく跳ね返る。少し強い風、冷たい雨。息を吐いてみると、案の定白くなる。キックオフ時の気温は12度と発表されていた。アイスを食べていた日からほんの1ヶ月で、札幌の季節はすっかり秋になっていた。

 スタジアムの外に漏れてくる応援の歌声は、お世辞にも大きくない。人、入ってないんだろうな。雨対策に帽子を目深に被って中に入ると、明らかにドームに集まっているだろう観客数よりゼロ1個足りない、そういう数と思しき人影がスタンドに点在していた。やっぱりこうなっちゃうよな。昇格争いをしているとは言いがたいここまでの成績で、加えてこの雨この気温、テレビではドームの試合を生中継している。「今日はやっぱりファイターズだよね」という選択を、普通の人はするだろう。

 でも、そうではなく。
 普通の選択ではなく、コンサドーレを見たい。応援したい。そう思って集まった観客はその日、3,896人。その数は過去JFL時代のものを含めても、厚別での開催では過去最低になる動員数だった。日ハムに圧されて「それだけしか」集まらなかったのか、どんな条件も厭わない人間が「こんなに」集まったのか。私にはそれは判断できないけれど、ただ、雰囲気やノリじゃなく、自分達の意思でそこにいる。そのことだけは、強く感じられた。意思があってここに来ても、現実やっぱりせつないものはある。それも同時に感じたけれど。

 雨除けに被っていた帽子は、ものの10分でツバに水が染みてきた。遠慮なく降りしきる雨。陸上のトラックが水溜りを作り黒く光る。



攻めろ、攻め抜け。何を失っても、何を得られなくても、それを志すってことだけは手放せない。
 長い戦いのJ2も、9月に愈々第4クール、1年のうちに同じ相手と4回も戦うという特異なレギュレーションの、その最後の対戦を迎えた。これまでの経験から見て第4クールは、所謂「成果のクール」。明確な目的を持てるチーム、持てぬチーム、また積んできたもののあるチーム、それが足りないチーム、の差が特に顕著に結果に出る、そういう印象がある。蓄積疲労、また出場停止が多くなるから、試合そのものの「切れ味」は鈍くなるが、その分だけ、ここまで積んできたものがあり、尚且つ精神的に大崩れすることなく上位についているチームの「成熟」がはっきり見えてくる時期でもある。

 その中で札幌は、「自分達よりも上の順位のチームには勝ちきり、下の順位のチームに勝ちきれない または負ける」という、いかにも安定しない戦いを繰り返した。直接対決の横浜FC戦に敗れ、9月に入っても自分達より下位の山形にアウェイで引き分け、上位の神戸にもまた勝ちきれず、3位以内のチームとの勝ち点差が残り試合の数を上回った。それは、一般的に「逆転することのできない差」といわれていたことだった。もちろん数字上では可能性は残されている。でもそれは誰もが信じられるような可能性では、なくて。

 昇格できない、のか。争うことすら出来ないで終わっちゃうのか。誰もが軽い絶望感を抱えた頃。9月の6試合のうち、2回しかないホームゲームの、13日の水戸戦はゴール裏のスタンド下をウルトラスの少年達が作ってきた長い横断幕が覆った。「攻めて攻めて攻めて攻めて攻めて攻めて攻めて攻めて攻めまくれ」。

 応援もその横断幕よろしく、「攻・め・ろ!攻・め・ろ!」の大合唱大攻勢。
 昇格への夢が潰えそうだと認識したとき、それでもサポーター達がチームを支えようとしたその言葉その想いは、そのまま自分達自身を支える想い、意思、目標、だった。ただそのことだけを、真直ぐに明らかにした。

 攻めろ、攻め抜け。どんなときでも。それが札幌が目指したサッカーだったはずだ。何を失っても、何を得られなくても、それを志すってことだけは手放せない。

 その試合をチームは言葉通り体現し攻め抜いて、3−1で勝った。そこにあったものは、昇格が難しくなってきたから、そのまま体よく諦めて消化試合、となることを許さない、昇格云々以上に自分達には目指していたサッカーがあった、その原点への回帰であり、また挑戦としての一歩だった。

 その試合で目に付いた場面。シーズン当初、パスを出す相手が、砂川や西谷といった、いわばチーム内で個人技術の高い選手だけしか見てないように感じられていたフッキが、自分と同じ年代の選手である上里とコンビでパスを出し合う。点にはならなかったけれど、お互いに親指を立てて笑いあってた。そのふたりの笑顔が、やけに伸びやかに見えて、妙に頭に残った。



イーブンに終わった仙台戦。双方の「譲れない気持ち」がぶつかりあった試合だった。
 フッキが周りの選手と溶け込んで、新しい流れが、もしかして出来てきている?
 そんな漠然とした想いは、その後の仙台・湘南と続くアウェイゲームを見ているうちに、確信に変わっていった。

 仙台との試合は、昇格レースへの生き残りをかけた、互いに絶対に負けられない試合で、双方のチームの「譲れない気持ち」が真っ向からぶつかり合う好ゲームだった。技術的なミスは見受けられても、気持ちは一歩も引かない。イーブンの内容は、結果もイーブンに終わった。そしてこの試合でもフッキは、以前のように中央に強引に自分の力だけを恃んで行くようなプレーではなく、サイドに流れて中を使ったりする場面が格段と増えていた。その流れは、次の湘南戦へ、予想もしなかった結果を生むものになった。

 アウェイ湘南戦。今季これまで苦手としてきた、自分達よりも下の順位のチームとの対戦。この日も序盤の出足は本当に酷いものだった。前回の湘南との対戦は、ホーム厚別で5点も取られて惨敗している。それを思い出させるような、早い時間帯での失点。しかしそこから逆に札幌が勢いづいていく。今季ここまで、何度も小さな挫折を繰り返しながら、それでも挫けずに頑固に積み重ねてきたものが漸く形を成してくる。後半に同点に追いつき、逆転すると、そのあとは湘南を圧倒し続けた。終わってみれば、ホームでやられたスコアに1点利子をつけてお返しする格好に。フッキは4得点、自分で強引に行かず周囲を使うことで、逆に彼自身の決定的なチャンスを増やすことになった。

 この試合の前に、チームに更に新たな流れが出来ていた。2年目のFW石井が、仙台戦の翌日、U−21代表候補に選出された。チームとしては今野(現FC東京)以来久々の世代別代表候補選出で、石井自身は世代別としても初のことで、ユースからの生え抜き選手としてもまた、初のことだった。そのことが同じユース出身の先輩である鈴木、また同世代の上里、さらに同じFWの相川らへ少なからず刺激を与えたのか、湘南戦では特に彼等世代の選手の意気込みが見えるようで、彼等の背番号がピッチに躍動していた。

 実際、石井と相川は、その試合の翌日の練習でも、居残りでシュート練習に励んでいた。そうして並んで練習をすると、シュート技術には相川のほうが一日の長がある。けれども石井も負けてはいない。サテライトの選手達の練習が終わるまで、前日試合に出ていたほかの選手達が誰もいなくなっても、石井はシュート練習をずっと続けていた。聞けば8月の横浜FC戦で決定的なチャンスを逃して以降、居残りでシュート練習をする姿が連日見かけられたという。悔しさが次の流れを作り、その流れが今度新しい成長を生む。誰かの成長は、次の誰かの成長へ。

 パスが滑らかに繋がるように、ひとつの流れが、次の流れに無理なく繋がって前へ進んでいく。そういうことが、シーズンも終盤というこの時期に漸く見えてくる。
 それは、偶然でもなんでもなく、大勝するにしても相手の出来が悪いからとかそういうことだけでもなく、ここまで「結果」という誰の目に見えるものには出来ていなくとも、確実に積んできたものがあったからこそ、またここまで、ギリギリのところでもどうにか気持ちを保ってきたからこそ、の結果を、掴んでいる。いま現在上位にいられないこと、そうでありながら望みをまったく捨てずにいられること、それのどちらも、この1年で出来たことと出来なかったことを総合した「成果」なんだろうと、思う。一年の正も負も、まとめて受け取る、季節。



 雨の徳島戦。
 0-0で少し押し込まれ気味の前半は、応援に集まったはずの私達をただ立ち尽くさせる。覚悟を決めて集まってきたけれど、だけどやっぱり身体は心の中を微妙に映して弾けきらない。降りやまぬ冷たい雨の中、人の集まらない観客席が視界に入る。ゴール裏では、思うように盛り上がらぬ声に苛立った表情を見せる少年達。

 徳島は最下位にあえいでいるといっても、彼等とて信じてここまでやってきたことがあるはずで、積んできた意地だってあるはずだ。集中した守備。彼等だって彼等自身のプライドに支えられている。それを断ち切らなければこちらに勝ちはなく、逆に断ち切れば、たぶん徳島は崩れてしまうだろう。得てきたものも、失ってきたものも、おなじようにチームに積み重なる。得たものが多ければ、それが心を支え、失ったものが多ければ、それが心を折らす。第4クールの残酷な対比。

 後半に入って5分、望んでいた先制点が札幌に入った。フッキが身体を捻ってゴールを背にして放ったシュートは柔らかな弧を描いて目の前のゴールネットを揺らした。その喜びが雨の中で冷えぬうちに、関が移籍後初ゴールと同じ時間のうちに連続得点。それで徳島の望みは、ほぼ断ち切れてしまった。追い討ちをかけるようにDFのアンドレが退場になってしまうと、そのあとは札幌のゴールラッシュ。ゴーあルの度にネットが雨を激しく散らせる。厚別最低記録の観客数の前で、チーム史上初の2試合連続6得点。

 9月に見えてきた新しい流れは、雨の中潰えることなく、また次へ向かうことになった。10月にはどんな流れを見出すことが出来るか判らないけれど、やるべきことは決まっている。目指すサッカーの為に、やれることをきちんと積むこと。昇格するとかしないとか、それはまた別の話。積んでいくものがあれば、必ず望む場所にたどり着ける、望む早さでなかったとしても。いつか叶う日のために、今日積まなくていいものなんて、なにひとつない。



 翌日出社すると、特にサッカーファンというわけでもない上司が朝イチで声をかけてきた。

 「すごいじゃないか! あの雨の中だったら寒かったべ!イヤすごいな!」
 「はいっ!野球よりも点取ってきましたからっ!」

 日ハムは4−1で勝って1位通過を決めていた。新聞はカラー写真盛りだくさんでその話題でいっぱいで、札幌の記事は別の面に白黒扱い。それでもまあ、いいや。

 自分達は好きでこの道に立っているんだ。望んだ道を、望んだ場所に着くために。今年の昇格への望みの糸は限りなく細くなっているけれど、ここまで信じて作り上げてきた札幌のサッカーの糸は、一度だって細くなんてなってない。
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