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 札幌からのメール 07/04/25 (水) <前へ次へindexへ>

 小さなひとつの声
 

 文/笹田啓子
 試合前日の宮の沢。
 その日の札幌は最高気温が17度になって、風が強くて少し冷たかったけれど試合前日の練習を見るのには十分なお天気。練習場に行く道すがら、エゾムラサキツツジの花が少しほころんでるのを見る。本格的な春はもうすぐ。

 トップメンバーは明日の試合に備えて軽い練習。それを終えて帰る選手達をクラブハウスの前で待つ、所謂「出待ち」。チームがJ1でやっていた頃は出待ちにもたくさん人がいたけれど、今はそんなこともなく。練習自体を見るギャラリーは大勢いるけど出待ちはまあ閑散としたもので。出てくる選手達を呼び止めて、サインをもらったり一緒に写真を撮ってもらったり、選手ももちろんそれに快く応じてくれる。

 握手を求めて「明日の試合期待してます」「頑張ってください」。選手に直接そう声をかける。それ自体は些末なことで、そんなことが選手の励みになるのかどうかなんてわからない。でも、ただ「応援してるよ」という気持ちだけでも伝えたくて私自身も時折選手に声をかける。

 同じように、いや私などよりはるかに何度も、自分達の思いを選手に伝えようと練習場に足しげく通う若いサポーター君達もいる。この日も彼等はいつものように選手達に声をかけていた。

 自分より明らかに年下とわかる、しかし普段から熱く応援してくれていると知っているその子達の話を、ある選手は神妙な表情で聞き入っていた。話の内容は聞こえなかったけど、何度も何度も頷いて、そして選手のほうから両手を差し出して彼等の手を握った。政治家が選挙活動のときに「応援よろしくお願いします!」と固く握手をするような、あんな感じで。

 翌日の試合のあと、その選手は自身のブログで「最後に勝てたのは沢山のサポーターのおかげ」と書いていた。両手を差し出した彼の握手と、その言葉が綺麗につながる。彼、中山元気は応援の声に駆り立てられるようにその日もよく走っていた。自分達の応援が選手に真直ぐに届いている、応援を必要としてくれている、と実感するとき胸が少しばかり熱くなる。



 22日のヴェルディ戦は、それまで1位だった仙台が試合のない節だったので、札幌はその試合に勝てば単独で首位浮上となる。ホームゲームの1試合を東京で開催した関係で、札幌での試合は先月21日の湘南戦以来1ヶ月ぶり。この1ヶ月のあいだ、チームは一度も負けず、上位争いをする位置につけていた。去年まで野球に圧倒されていた道内マスコミの露出も、日を追って増えていった。会社でも「コンサ調子いいね」と声をかけられることが増えた。そんなチームが1ヶ月ぶりにホーム札幌で、しかも強豪・ヴェルディを迎えて勝てば首位という序盤の山場を迎える。開幕から2戦続けて1万3千人台だった動員は、この日は1万8千人と、一気に5千人増えていた。

 強豪である、元日本代表を多数有する、という以上に自分達を駆り立てたのは、今季ヴェルディのエースとなったフッキの存在だった。去年札幌で懸命に応援していた選手。彼を今度は敵として迎える。圧倒的な攻撃力のヴェルディ対堅守・札幌の図式。…という戦前の大方の予想がなぜか序盤、前半のたった4分の1が過ぎた時点で3−0という予想もしないスコアになっていた。札幌の3得点のうち2得点はヴェルディのミス絡み。これで相手が攻撃力の乏しいチームであれば、この時点で試合はほぼ決していたのだろうけど、そこは個人技に長けた選手を多数擁する相手。そう簡単に残り75分を守りきれるわけがない。

 だから前半の3得点をした以降は、札幌の内容はお世辞にも決してよくなかった。集中力がこれまでの試合よりも少しばかり欠けている感じ。「果敢」をいつもよりも感じにくい。そこに個々の技量では上回るヴェルディ、こちらの穴をしっかり突いて攻めてくる。前半のうちに1点を返され、後半に入ってからは主審の安定性を欠いたジャッジも加わって荒れ気味になり、PKで2点目を献上してしまったら、もう1点リードはリードのうちになど入らない。金澤にこの日2得点目を決められ、前半15分にあった3点のリードは後半の15分にゼロになっていた。振り出しに戻った試合は、勢いにのまれたまま4得点目を奪われてしまうのか、奮い立たせて4得点目を奪いに行くのか。

 5分後に、ホームサポーターの陣取る側のゴールに決勝点を叩き込んだのは、去年フッキがつけていた10番を今年から背負ったダヴィ。「新旧FW対決」を制したのは新エース、ダヴィのほうだった。



 今年入団したダヴィとカウエ、2人の若きブラジル人選手は契約が7月末までとなっている。それまでに彼等がチームの望む結果を出せれば契約延長、しなければ契約解除、という「半年の試用期間」を設けられた格好になった選手達だった。彼等の必死は、だからこれまでの外国人選手とは格段に違っていた。チームに、この国に馴染む努力をしていることがいつも感じられた。日本語を覚え、自分のサインをカタカナで書くカウエ。前線からの守備を厭わないダヴィ。そんな選手達を応援しない、わけがない。

 1点リードのまま後半ロスタイムを迎えると、ゴール裏の応援にあわせバックスタンドやメインスタンドのお客さんまでもが一心に手拍子をしてチームを押した。客席が動いているような錯覚。手拍子の音はやがてサポーターの歌声をかき消すほど高まった。勝っていたころはあたりまえだと思っていた、でも勝てなくなってから随分と久しくなっていた「これが札幌のホームだ」というスタジアムの一体感。それを、勝利と単独首位と共に得た。首位の座は、水曜日に仙台が試合に勝てばすぐに明け渡すことになるけれど、それよりこの先の長いリーグ戦を戦うために必要なものを得たような、気がした。

 試合が終わって客もほとんどが掃けて、一休みしてからスタジアムを出た頃は残ったサポーターの姿もまばら。ドームから地上の歩道へ降りる陸橋の下は渋滞した国道。その渋滞に巻き込まれた車の中から、自分達サポーターに向かって手を振る外国人がいる。その人の姿はきのう宮の沢で見た。息子が出してくれた渡航費で、自慢の息子が異国でプレーするのを応援に来ていた。おそろしく陽気なブラジル人は、満面笑顔で自分の息子の名前をコールし私達にもそれを求めた。信号が変わって動き出して左折した車の中から、まだ大声をあげて道をゆくサポーター達にアピールする。「カウエノパパデース!」

 勝ってはいる。上位でもある。でもだからといって特に派手なことをしたわけじゃないし、これから先もそういうことをしたいわけじゃない。決して技術的に抜きん出て高いわけじゃない選手達が、ひとつ事に専心して戦うことと同じように、私達もまた「チーム」に向けて想いを集める、いろいろな立場から、いろいろな形で。

 小さなひとつの声、小さなひとつの笑顔、小さなひとつの手拍子。それを少しづつ、幾重にも丁寧に重ねていく。それはきっといずれこのチームをしっかりと支える、柔らかで厚いものになっていくだろう。
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