topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink
 頑張れ!女子サッカー 06/05/09 (火) <前へ次へindexへ>
熊本で行われる初めての国際Aマッチ。スタジアムの前には開場を待ちきれない多くのサポーターが列を作った。

 見えた課題と感じた手応え。

 取材・文/西森彰
国際親善試合 日本女子代表vs.アメリカ女子代表
2006年5月7日(日)13:00キックオフ 熊本県民総合運動公園陸上競技場(KKWING) 天候:雨のち曇
試合結果/日本女子代表1−3アメリカ女子代表(前1−1、後0−2)
得点経過/[日本]岩清水(3分)、[アメリカ]、ワンバック(40分、72分、89分)


 搭乗した飛行機が濃霧のため、熊本空港に着陸できずに福岡空港へ回送された。タクシーを捕まえて、高速道路を飛ばしてもらい、1時間ちょっとでどうにか辿り着いた熊本県民総合運動公園陸上競技場。その上空にも雲が垂れ込め、小雨が降っている。男女を問わず、Aマッチが初めて施行されるというKK WINGのピッチは、たっぷりと水分を含んでいた。

 アテネ五輪優勝国・アメリカを迎えて2連戦を行う、なでしこジャパン。それまでレギュラーポジションにいた山郷のぞみ、下小鶴綾、柳田美幸が、負傷でチームから離れている。「山郷と下小鶴のふたりは、合宿に入る前からケガをしていました。突然ケガをしたわけではないので、そのための準備はしていました」。大橋浩司監督は、GKに福元美穂、CBに岩清水梓、そしてボランチには柳田と激しいレギュラー争いを演じていた宮間あやを起用した。



 強豪・アメリカを相手のトレーニング・マッチ。絶好のアピールチャンスを得た若手がいきなりゴールを陥れる。宮間がCKから、左足で速いボールを蹴りこむと、落下点で頭を合わせたのは代表キャップ2試合目の岩清水だった。

 岩清水は、もともとリスクを背負った場面でもゴールへ向かう攻撃的なDF。しかし、キックオフの笛からまだ3分という、いわば手探りの時間帯。いくら約束事があっても、相手陣内深くのセットプレーに参加するため、CBが前線に上がるのは、勇気のいることだ。

「ああいった場面で上がるのが私の役目だし、練習どおり」と振り返った岩清水。身長では劣っていても、ヘディングの強さはL・リーグでも屈指。宮間のボールに合わせて飛び込み、長身のDFに競り勝っただけでなく、インパクトの際に頭を振って、GKの手が届かない左ポストギリギリにシュートを飛ばした。

「イワシが良いところに入ってきたのが見えたので、そこを狙って蹴りました。ぴったりあったところで、イワシが決めてくれて良かったです」と、アシストがついた宮間。若手の成長株ふたりが、アメリカ相手に先制点をたたき出した。



 1対1の引分けに終わった一昨年の親善試合では、見るからにトレーニング・マッチの趣で臨んでいたアメリカだったが、この日は早すぎる失点にムキになったようだ。プライドを傷つけられた女王は、4-1-2-3の攻撃を意識した布陣で、日本を押し込む。

 特にアテネのクォーターファイナルで日本からスコアを挙げたアビー・ワンバック、クリスティン・リリーのふたりが効いていた。3トップの中央で張るワンバックは、左右から日本選手が挟み込んでいっても、余裕を持ってボールをキープする。そして、日本のDFがワンバックに引き付けられて生まれたスペースをリリーが突く。軟弱なグラウンドも、がっしりした体格のアメリカに利していた。

 日本の戦い方もそれなりに機能していた。ヨーロッパ遠征のイタリア戦(0−1の敗戦)に引き続き、4-4-2で臨んだ日本も、前線、中盤の選手がきっちりとパスコースを限定し、DFラインの負担を減らした。澤穂希までがDFラインの手前まで戻って凌ぐ展開。その中で宮間のサイドチェンジから大野忍が、時折、チャンスを作る。

 アメリカのグレッグ・ライアン監督が、日本側で警戒していたのは、やっぱりアメリカでプレーしていた澤。「彼女に自由にプレーさせるのは危険なので、マークをつけた」。それが大野や宮間がフリーになれた要因のひとつ。ボールを7対3の割合でポゼッションされながらも、前半はどうにか無失点で耐え切れそうだった。



 ところが、ここでアウェーのアメリカに幸運なジャッジが転がり込む。縦に蹴り出されたロングボールをクリアしたGK・福元が、遅れて突っ込んできたワンバックと交錯した。スタンドで見ていた私からは、どちらかといえば、レート気味にチャージしたワンバックのファールに見えた。

 ところが、この日、悪意のないタックルのほとんどを流していたタイのカムニ・パニパー主審は、ペナルティスポットを指差した。アメリカチームでさえ、一瞬、キョトンとしたほど。隣の席で試合を見ていた中倉編集長は「今のジャッジにスタジアムで一番驚いていたのは、アメリカのコーチだったよ」とポツリ。

 試合後に苦笑いしながら「とてもラッキーで、我々に親切な笛だった」とこの場面を振り返ったワンバックが、このPKを右足で流し込んで先制。ホッとしたのか、一瞬、足が止まったアメリカから、永里優季、大谷未央がシュートを放ったがゴールは生まれず、前半はタイスコアで折り返した。



 前半から守備で足を使わされた日本に対し、アメリカのグレッグ・ライアン監督の指示は「日本の最終ラインのウラにボールを入れろ」。日本のラインをゴール前まで下げさせて、そこにハイボールを放り込んで勝負する狙いだ。日本のディフェンスリーダー・磯崎浩美も、強気に高いラインを維持したが、疲労から前線のチェックが甘くなり、フリーになったアメリカの選手が正確なキックを繰り出してきた。

 そして、72分、均衡が崩れる。DFのキャット・ホワイトヒルが蹴ったロングボールを追いかけたワンバックが、磯崎の粘り強いタックルにも全く体勢を崩さずにシュート。左足から放たれたボールは凄い勢いで福元とポストを弾き、日本ゴールに飛び込んだ。

 日本は2枚目の交代で、宇津木瑠美をボランチに投入。トップ下に澤と宮間を並べて勝負に出たが「前線でキープするタイプの選手がいなくなって、タテに急ぐだけになってしまった」(宮間)。途中出場の荒川恵里子、丸山桂里奈もドリブルで、果敢に勝負を挑んだが、フォローは少ない。こうなると突破は難しい。

 逆に、アメリカはロングボールを蹴れる足腰の強さを活かして、故意に前線と最終ラインの距離を開けた。当然のようにあちらこちらで互いにフォローにいけない1対1の場面が増える。そして、足技勝負には辛いこのピッチ状況では、体格差が絶対的にモノを言う。89分、フリーキックのこぼれ球を拾ったリリーがエンドライン寸前で折り返したボールを、ワンバックが頭で決めてハットトリック達成。3対1。女王が底力を見せつけた。
 


 アテネで対戦した時と半数ほど入れ替わった先発メンバーを見れば、アメリカも新旧交代の時期に来ていることが分かる。「日本が組織的な良いチームであることは分かっていた。開始2分で日本がゴールを挙げられ、難しい試合だったと思います」と振り返ったライアン監督。11月に始まるワールドカップの北米地区予選に向けて良いトレーニング・マッチになったことだろう。

 3ゴールを挙げたワンバックは、右足、左足、そして頭でのハットトリック。ドイツ代表のFW・ビルゲット・プリンツに似たタイプ。大柄な割にはヒールキックなどのテクニックにも長け、リーチも長いので1対1ではほとんどボールが奪えない。そうかといって、そこに2人がかりで行くと、その他の選手がフリーになる。

「アビは相手のDFを引き付けて、他の選手たちにスペースを作ることもできる」というライアン監督の言葉どおり、ゴール以外の場面でも脅威になっていた。そのワンバックは「男子とのダブルヘッダーで、向こうも非常に重要な試合になると聞いています。日本のサポーターもたくさん来るはずなので、難しい試合になるでしょう」と、長居での第2戦に警戒感を強める。平日の夕方キックオフ。それでも多くのファンが足を運ぶことを期待したい。



 日本は「アジアの代表監督がたくさん見に来ていらっしゃるとのことだったので(笑)」(大橋監督)手の内を隠しながら、オーソドックスな戦い方でアメリカに挑んだ。それを考えれば、決して悲観するほどの内容ではない。真っ向勝負の中で見せた、若手のプレーには見るべきものがあった。

 宮間はこの日の自分のデキに「思っていたほど相手が来なかった。ボールを失った場面もあったけれど、何本かサイドチェンジも通せた」と及第点をつけた。それまで小柄な体から「大きな相手には通用しない」と言われていたが、ここでこれだけできたことはそれなりに自信を持って良いはずだ。

 先制点を奪った岩清水にとっても、このKK WINGでのゲームは忘れられないものになるだろう。CBだけでなくサイドもできる岩清水は、高さと速さ、そしてハートを兼ね備えている。下小鶴綾が復帰しても、DFのレギュラー争いに加わってくるはずだ。

「多少は不安がありましたけれども『体が切れている』と周りから言われていたので『自信を持ってやろう。とにかく磯さんについていこう』とやりました。アメリカは、ユースでやったオーストラリアと一緒で身長が高いし、それだけでなくて強くて上手い。ヘディングなんかもそうだし、トラップで逃げたりするのも上手かった」

 なでしこの先発メンバーに昇格した前ユース代表キャプテンは、一呼吸置いてさらに言葉を付け足した。

「でも、できなくもない、かな」

 若い選手たちが得たこの手応えこそが最大の収穫だろう。


(日本女子代表) (アメリカ女子代表)
GK: 福元美穂 GK: ソロ
DF: 安藤梢、磯崎浩美、岩清水梓、矢野喬子 DF: ミッツ、ルペルベ(H.T/フリンポン)、ホワイトヒル、ランポーン(59分/ロペス)
MF: 酒井與惠、宮間あや、大野忍(75分/宇津木瑠美)、澤穂希、 MF: ボックス、ロイド(83分/オズボーン)、タープリー(71分/ワグナー)
FW: 永里優季(77分/丸山桂里奈)、大谷未央(63分/荒川恵理子) FW: リリー、ワンバック、オライリー(70分/カイ)
<前へ次へindexへ>
topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink