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 頑張れ!女子サッカー 06/09/06 (水) <前へ次へindexへ>
焼け付くような戦場へ歩む、INACと日テレのイレブン。

 逆襲の2ndラウンド。INAC、日テレから勝ち点1を奪取!
 mocなでしこリーグ・ディビジョン1 第8節 INACレオネッサvs.日テレ・ベレーザ

 取材・文/西森彰
2006年9月3日(日)14:00キックオフ 高槻市立総合スポーツセンター陸上競技場 観衆:653人 天候:晴
試合結果/INACレオネッサ3−3日テレ・ベレーザ(前1−1、後2−2)
試合経過/[INAC]原(6分)、[日テレ]澤(19分)、永里(63分)、澤(72分)[INAC]渡邉(75分)、モラエス(82分)


 冷静な表情は保ちながら、口からは激しい言葉が次々に出た。松田岳夫監督が本気で怒っていた。

「(『これがサッカーの怖さでしょうか?』)いや、これはサッカーにおいては普通のことですよ。きちんとサッカーをしていないチームが、それ相応のしっぺ返しを食う。至って当然のことです。今までも、こういうことになりそうな試合は何回もあった。その度に、味方のスーパーセーブが飛び出たり、相手の戦い方に問題があったりして救われてきただけです。今日、試合が終わって泣いている選手たちもいましたが、私に言わせれば『ふざけんな、悔し泣きできるだけのサッカーしていたか!』って感じです」

 試合後に日テレ・ベレーザの指揮官から「満足した」というニュアンスのコメントは、ほとんど出ない。1年半近く取材している中で、チームへの及第点を聞いたのは、東京都成年女子代表として戦った岡山国体優勝直後くらい。そして、手放しで褒めるのを聞いたのは、無敗で三冠を達成した元旦の全日本女子サッカー選手権終了後のただ一度だけだ。試合内容に腹を立てているようなコメントをもらうことは、それこそ何回もあった。しかし、今回のように、頭から湯気が出そうな勢いで怒っているのは、初めて見た。



伊藤香菜子と井野美聡。交代選手の活躍もあった。
「私の中には中断明け初戦の難しさだけがありました。『相手の順位が最下位だから』と思っていた選手たちもいたかも知れません。しかし、私は久しぶりの公式戦で難しい試合になると思い、それこそ『石橋を叩いて渡る采配』を振るったつもりなんですが…」

 日テレの布陣は4−4−2のボックス。ダブルボランチには酒井與惠と川上直子を並べて、酷暑のゲームでの走りあいに備えた。そして、前線には荒川恵理子と永里優季、2列目に澤穂希と大野忍。なでしこジャパンの主力を慎重に並べた。しかし、これが全く機能しない。荒川と永里は4バックを敷くINACのDF陣に真っ向から切り込んだが、開幕戦の対決で8失点したINACも、その屈辱を胸にしまい込み、藤村智美、李珍和を中心に対抗する。

 6分、日テレOGの原歩がミドルレンジからループシュートを放ち、正GK・小野寺志保のケガでリーグ戦初先発が回ってきた松林美久のクリアミスを誘う。「『小野寺さんが来ないらしい』ということを知って、正直チャンスだと思った。キックオフから狙っていた」と原。経験の浅いGKが試合に入りきれていない時間帯にシュートを撃つ。勝負の定石とも言える先制ゴールだった。

 開幕戦でも先手を取られていた日テレにとって、84分残った時点でのビハインドなど無いに等しい。13分、澤のドリブルから、永里がゴールバー直撃のシュートを放って流れを戻す。そして19分、川上の右CKから、こぼれ球を須藤が再びヘディングで混戦の中に放り込み、最後は澤が押し込んだ。この時点では、誰もが初戦と同じ展開、すなわち日テレのゴールショーが幕を開けると思っただろう。しかし、そうはならなかった。



日テレの堅陣を突破にかかる、モラエス(7)と原(8)のコンビ。
「FWがあまりにも動かなさ過ぎた。それに尽きる」(松田監督)

 好調時の日テレであれば、内がダメなら外へ目を向ける。2トップが左右に流れてボールを受けることで相手のDFラインを広げ、その間隙を大野が突く。だがこの日は荒川と永里が中央に居座ったまま。大野が潜り込むスペースも消されている。INAC両ボランチの高い守備意識もこの膠着状態に貢献した。小林未央、澤井理恵は日テレボールになった瞬間から、澤と大野へマンマーク気味にプレッシャーをかける。

 中盤までをがんじがらめにされた日テレは、後方の選手が攻撃参加するしかない。左SBの豊田菜夕葉はスピードに乗ったサイドアタックをかけるタイプではなく、右SB・中地舞は「確かに良く上がってはいたが、その分、守備で裏をとられることも多かった」(松田監督)。両翼が前にかかった状態で、岩清水梓、須藤安紀子の両CBが、速さを備えているINACのアタッカーたちに脅かされる。ジリジリとラインを下げ、バランスを崩すふたりに松田監督は「ビビッて下げるな」と何度も檄を飛ばす。

 前半を終わって1対1。松田監督の決断は早かった。ハーフタイム後のピッチには、荒川、須藤の代わりに伊藤香菜子と四方菜穂が姿を現した。後半の笛が吹かれて早々に、四方が激しいバックチャージでイエローカードを提示される。日テレの選手たちに球際の執念が出始めた。ボランチの川上が、中地と競うように右サイドへ顔を出す。ふたりがかりの攻撃に、ケガ明けで頑張っていたINACの左SB・菅亜矢子が力尽きた。菅が交代で退き、INACが一瞬集中を欠いた瞬間、永里の勝ち越しゴールが決まった。



ロスタイム、INACはモラエスのシュートで同点に追いつく。
 63分に勝ち越した日テレは、72分にも澤が横のドリブルでDFを振り切って、この日2点目を奪った。INACサイドから見れば、取られ方も悪すぎた。「人数は足りているのに、コースを切れない。シュートを撃たれているのに、足が出ないし、手が出ない。完全に走り負けていました」。原は悔しかった。開幕戦で8点取られた時と同じじゃないか。そんなに私たちは弱いチームじゃない…。原はチームメートに大声で反撃を促した。

 1stレグで最下位のチームは、一月半の中断期間を遊んで過ごしていたわけではない。チームスポンサーは、結果の出ないチームから手を引くどころか、逆に手を差し伸べた。日常勤務から解放して午前・午後の2部練習を行う時間を与えた。「アスコ ザ パークTANBA」での合宿、そして韓国遠征…。田渕径二監督は「練習が終わった後、部屋に戻って泣きながらミーティングをしたこともありましたね」と振り返る。

 最後にすがりつくものがあった。「何も理由が無ければ、言っていても空しいだけ。あの厳しいトレーニングがあったからみんなに『諦めるな』と言えたし、みんなもそれに気付いてくれると思いました。まずはそれを証明したかった」。右サイドでドリブルに入った原は、日テレの3枚がかりの守備にも倒れず、重戦車のようにそれを引きずって進む。そして、逆サイドでフリーになっていた渡邉にスルーパス。1点差になった。INACのイレブンは奮い立った。

 日テレの選手はもちろん、スタンドの観客も信じられなかった。一度足が止まりかけていたはずのINACが、2段目のロケットエンジンに点火している。3点目を奪った直後に、豊田を下げて近賀ゆかりを投入。止めを刺しにいっていた日テレは、想定外の防戦を強いられた。それでも最後の15分間をシュート2本に抑えたあたりは、さすがと言えるだろう。しかし、最後の1本、パワープレーを期待されてピッチに入ったモラエスの左足から放たれたその1本だけは、松林のブロックを弾き、DFのクリアも許さず、ゴールへと転がり込んだ。



 相手がどこであろうと2点差から追いつかれるなど、日テレにとっては信じがたい結末だっただろう。松田監督を除いては。「中断期間にどのチームもトレーニングを積んで高めてきている。だから楽に勝てる相手なんてないし、自分たちはそれほど強くない。それをこれだけ早い段階で教えてもらったのが、収穫と言えば収穫ですかね」。終始、厳しい言葉でゲームを振り返った指揮官だが、ほろ苦いデビューとなった松林は庇った。

「いつもの彼女と比べると声が出ていなかった。単純なミスもあったし、ファインセーブに見えても、実は最初の1歩が遅れていたシーンもあった。練習ではしっかり、できているだけにね。でも、それは経験を積めば解消できる問題です。今日の試合の失敗はディフェンスに原因があるんじゃない。前の選手がしっかりとサッカーをしなかったせいですから」

 勝ち点で浦和レッドダイヤモンズレディースに再び並ばれた日テレ。ホームに戻って、高槻からきっちりと白星を奪えるかどうか。女王に最初の正念場が訪れた。



日テレから勝ち点をゲット。後半の巻き返しなるか?
 日テレとは対照的に、嬉し泣きする選手、スタッフが集うベンチ脇で、INACの指揮官も冷静に試合を振り返った。「合宿を組ませてもらって、夏を走りきれたことが大きかったと思います。そしてケガ人が帰ってきて、初めてベストメンバーに近い状態で戦えたんです。これまでも『シュートが枠に行けば』というシーンは作れていたので、これをきっかけにしたいです。次のTEPCOマリーゼ戦は大事な試合になりますね」

 勝てるゲームを落とし、引き分けるゲームを落とし…。結果が出ないことでネガティブな心理状態に陥っていた。リーグ戦初勝利こそお預けとなったが、断然の優勝候補に追いついてのドローは、チームが自信を取り戻すきっかけになったことだろう。5位のスペランツァF.C.高槻まで5ポイント、6位のTEPCOマリーゼ、7位の伊賀FCくノ一までは4ポイントの差。プレーオフまでを計算に入れれば、まだまだ十分にチャンスを残している。

 第1試合を戦い終えた後、スタジアムに居残ってスカウティングをしていた高槻の細田真砂智監督に、「これで厳しくなりましたね」と声をかけた。5位チームの監督は、笑顔で小さく頷き、その後で「いよいよ、これからが本番ですよ」と口元を引き締めた。




(INACレオネッサ) (日テレ・ベレーザ)
GK: 高田鈴子 GK: 松林美久
DF: 角田英子、藤村智美、李珍和、菅亜矢子(60分/井野美聡) DF: 中地舞、岩清水梓、須藤安紀子(H.T/四方菜穂)、豊田奈夕葉(72分/近賀ゆかり)
MF: 小林未央、澤井理恵、原歩、米津美和(75分/平野回梨佳) MF: 川上直子、酒井與惠、大野忍、澤穂希
FW: ゴンサルベス、渡邉千尋(82分/モラエス) FW: 永里優季、荒川恵理子(H.T/伊藤香菜子)
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