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雨中の明暗。 取材・文/西森彰 |
mocなでしこリーグ・ディビジョン1・2入替戦 スペランツァF.C.高槻vs.大原学園JaSRA女子サッカークラブ
2006年11月11日(土)13:00キックオフ 江戸川区陸上競技場 観衆:342人 天候:雨
試合結果/スペランツァF.C.高槻1−2大原学園JaSRA女子サッカークラブ(前0−1、後1−1)
試合経過/[大原学園]土橋(11分)、中野(15分)、[高槻]相澤(57分)
「下に落ちる心配はなくなっていたし、上を追いかけようとしてもちょっと差が付き過ぎている。選手たちもやっぱり、モチベーションを保つのが難しかったと思いますね」。入れ替え戦の会場に姿を現した岡山湯郷本田美登里監督は、そうプレーオフ上位リーグの3ゲームを振り返った。そして強く冷たい雨にさらされている2チームの選手たちを見ながら「それでも、この場所でプレーするよりは良かった。本当に良かった。ウチだって一歩間違えば、ここにいたわけですから」。
スペランツァF.C.高槻はレギュラーリーグの終了時点、2回戦総当りの14試合を終えた時点では6位で自動残留圏内だった。そしてプレーオフでも1勝1敗1分けと及第点の成績を残しながら、INACレオネッサの大駆けに抜かれて7位転落。ここに回ってきている。対する大原学園JaSRA女子サッカークラブとてディビジョン2の21試合で無敗。優勝したアルビレックス新潟レディースに勝ち点で並びながら、得失点差で遅れをとって、自動昇格の権利を失っていた。
「入れ替え戦を見据えるか、本気で逆転を狙いに行くか。選手のコンディションもあるので悩みました。結局、可能性がある限り戦おうと(ルネサンス熊本FC戦では)90分間で48本のシュートを撃った。半分が入っていても24点ですから、新潟を逆転できていました。それだけの形を作ったうえで優勝できなかった訳ですから、試合後の雰囲気は最悪でした」(種田佳織監督・大原学園)
その一方で、このピッチに立ちたかった者もいる。ディビジョン1最下位に沈んだ東京電力女子サッカー部マリーゼ、そしてディビジョン2で3、4位の福岡J・アンクラス、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース。ノーチャンスの彼女たちに比べれば、高槻と大原学園のイレブンは、一概に不幸とも言えなかった。
この日早くから振り出していた雨は、試合前の練習ではやや弱まっていた。それでも場所によっては弱いボールが、水溜りでストップする。高槻は、グラウンダーのパスをつないでビルドアップするのが特徴だ。細田真砂智監督はピッチ状態を気にしながらも「前半はウチのサッカーをしよう」と、特別な指示は送らなかった。最終戦では、自分たちのサッカーを出して伊賀FCくノ一に勝って、自動降格を回避している。その流れを自分たちで止めたくはなかった。
朝から降り続く雨は、やがてピッチを水浸しに。
逆に大原学園は、前節のダメージを払拭する意味でも、先手を取る必要があった。「テクニック、巧さでは高槻の選手たちのほうが、ウチの選手よりも上だと思っていました。だから、相手がゲームに入りきれていない序盤に全力で行く。もちろん、後半はバテるだろうけれども、バテても追いつかれないくらいのリードを築きたかった」と種田監督。キックオフから、先行逃げ切りを図った。
監督の狙いを理解していたのは、経験豊富なベテラン選手だった。4−4−2の基本システムを無視したかのように、右サイドバックの土橋優貴が前に出る。対面しているのは高槻最大の得点源・相澤舞衣なのだが、気にせず勇気を持って上がる。ほとんどウイングのように高い位置をとる土橋に「びっくりした」と種田監督。「相手が1タッチで回してくるチームなので、それに負けないよう意識していました」とは津波古友美子。自由を与えられているキャプテンも、FWを追い越して前へ飛び出す。
一方の高槻は、ぬかるんだピッチの中でも、ディフェンスラインからビルドアップしようと試みる。この横パス、バックパスが水溜りに引っかかるところを、大原学園が攫って前へ運ぶ。11分、中野真奈美が4本目のCKを入れると、高槻GK・海堀あゆみがファンブル。この混戦を土橋が蹴りこんだ。「向こうのほうが技術的にも上なので、最初から全力で行こうと話していました。あの時間帯に取れて良かったです」と津波古も振り返る、大きな1点が大原学園に入った。
先制点を奪った挑戦者は、勢いに乗った。その後も高い位置からプレッシャーをかけて相手ボールを奪い、高槻のゴールに迫る。36分には、相手ボールを奪ってライン裏に抜けた津波古友美子がシュート。海堀のセーブにあったものの、これも決定的なシーンだった。前半の45分間は、どちらがディビジョン1のチームかわからないほどの、一方的な大原学園ペースに終始した。
高槻の細田監督は、後半開始から左サイドの相澤をFWとしてセンターに据え、左右に久山暖香、金房夏希を並べる3トップを敷いてきた。庭田亜樹子、松田望、伊丹絵美とボールを持てる3人に中盤の数的不利を克服してもらい、シューターが増えた前線に早めにボールを入れる。このピッチコンディションと1点のビハインドを考えると当然の策だ。
スペランツァF.C.高槻イレブン
迎え撃つ大原学園も、全く楽観はしていなかった。「前半で3点くらいは取っておきたかったし、そのチャンスもあった」と種田監督。スタミナという点で経験不足の若い選手たちの動きが落ちるだろうという予測もあったし、押し込まれる展開は覚悟していた。ところが、望外の1点が入る。49分、カウンターから中野真奈美が中にいるふたりの友軍を無視してシュート。これが、センタリングを予測していた海堀を抜いた。
苦しくなった高槻も、ディビジョン1の意地を見せる。55分には、庭田が強烈なシュートを放ち、そこから生まれたコーナーキックのこぼれ球を伊丹がループで狙う。そして57分、松田が泥田のようなピッチで粘り強くキープし、相澤にボールを預ける。相澤は寄せてくるDF、GKを交わし、右足で大原学園のゴールに流し込んだ。キャプテンの庭田が、ゴール内からボールを持ってセンターサークルに走る。
大粒になった雨は、水溜りを子供用のプールに変えていた。センターサークル付近では、ボールが全く転がらない。どちらも浮き球を縦に蹴り合うだけ。とてもサッカーのできるグラウンド状態ではない。67分、相澤がタッチの大きなドリブルで、相手DFを置き去りにする。だが、この決定的チャンスで、相澤の足から放たれたシュートは、ゴールバーによって阻まれた。3分間あまりのロスタイムの後、井脇真理子主審の笛が、昇る者と降りる者にタイムアップを告げた。
雨中でのキャッチミスを悔やむように海堀が這いつくばって嗚咽する。何度もスーパーセーブでチームを救ったGKを抱きかかえるようにして、他の選手たちが控え室へ向かう。そしてTEPCO戦を終えた後で「勝ち点1をとっていて良かったのか、それとも1じゃいけなかったのか、終わってみないとわかりませんね」と語っていた庭田が、ひとりピッチの四方に散らばった給水ボトルを拾い集めていく。
大原学園JaSRA女子サッカークラブ
結果論で言えば、最初から4−3−3にして裏を狙っていたほうが良かったかもしれない。細田監督は「後半の戦い方を最初からしていれば・・・」と悔やんだが、一発勝負で格上のチームが自分たちのサッカーを放棄するのは、合理性を伴わない。そして一旦やんだ雨が、試合の中でどんどん強まっていったこと。試合が始まる前から土砂降りになっていれば、試合前の指示もより微細に入っていただろう。
泣き崩れるチームメートを励ましていた松田は「負けた後で何を言っても言い訳になってしまうんですけれども・・・」と前置きをした上で「雨の日の芝での戦い方に慣れていなかった」とほとんど消え入りそうな声でもらした。練習はほとんどが土のグラウンド、試合の遠征費は自己負担、毎年のようにレギュラーが離脱・・・。逆境の中で戦ってきたチームは最後の最後で、泥沼のようなピッチに力尽きた。
反対側では大原学園が歓喜の輪を作り、その中央で種田監督が雨空に舞う。大原学園にとって、レギュラーリーグから入れ替え戦までの1週間は、この1年間で最も重要な1週間だった。「選手たちにダメージが残っているかどうかは、今日、やってみるまでわかりませんでした。監督の自分でも良く立ち直ったなと思います」(種田監督)。選手たちは、次のチャンスへ気持ちを切り替えた。
L1復帰を果たした大原学園。来年は新たな挑戦が始まる。
サッカーができない後半のピッチ状態が「先行逃げ切り」のゲームプランを後押ししたのは間違いないが、ディビジョン2のいろいろな試合会場を行脚し、21戦無敗という成績も自信をもたらしたのだろう。「おっしゃるとおり、いろいろなピッチで戦ったこと。それとリーグ戦の試合数、真剣勝負の数で高槻よりウチのほうが多かったこと。そういうことが有利に働いたかもしれません」(種田監督)。
来シーズン、大原学園はディビジョン1で戦うことになる。昇降格制度が復活して以来、ディビジョン2へ下がったチームが、ディビジョン1へ復帰する最初のケースだ。専門学校の2年生が卒業し、また新たにチーム作りをしなければならないチーム事情を考えれば、過剰な期待は寄せられない。当面の目標は、3年前に果たせなかった「ディビジョン1での1勝」。全てはそこから始まる。
| (スペランツァF.C.高槻) | (大原学園JaSRA女子サッカークラブ) | |||||||
| GK: | 海堀あゆみ | GK: | 鈴木理沙 | |||||
| DF: | 高見恵子(83分/藤川絵利子)、奥田亜希子、中鍋美里、小野村亜矢 | DF: | 土橋優貴、中尾美鈴、高木奈央、井上稚子 | |||||
| MF: | 櫻田有幾子(H.T/久山暖香)、庭田亜樹子、松田望、相澤舞衣 | MF: | 山本裕美、住江真祐子、津波古友美子、中野真奈美 | |||||
| FW: | 伊丹絵美、中江真紀(28分/金房夏希) | FW: | 中川千尋(61分/長島しおり)、楯石佳子(80分/竹内真菜美) | |||||
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