topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink
 頑張れ!女子サッカー 07/04/02 (月) <前へ次へindexへ>
宇津木とともに、この大一番で先発起用された近賀ゆかり(右)。

 標高2,600mの戦い 〜その3
 2007FIFA女子W杯・中国大会 プレーオフ第2戦 メキシコ女子代表vs.日本女子代表

 取材・文/西森彰
 メキシコとのプレーオフで、宇津木瑠美と近賀ゆかりをサイドバックに起用する采配については、ファンだけでなく多くのメディアも首を捻った。守備力を比べるなら、それまで使われてきた矢野喬子と安藤梢のほうが、周囲との連携も含めてスムーズだと思われていたからだ。だが、大橋浩司監督は第1戦に引き続き、2点のアドバンテージを持った第2戦もこのふたりを先発で使ってきた。

 直前合宿でスムーズな動きを見せていたこともあるが、まずは高地で90分間を走り切る運動量を期待してのことだろう。「単純に走るだけと、ゲームの中で走るのはだいぶ違うので」と近賀は謙遜していたが、その単なる走力が何よりもモノを言うケースがある。そしてこのトルーカの環境は、そのケースだ。

「(『近賀の右SBをはじめ、運動量を期待できるメンバーが並んでいましたが?』)もちろんそれ(運動量)もあります。ある程度高地でも動ける選手を並べたつもりですけれども、今日は体にブレーキがかかってましたね。運動量に期待した部分はあります。起用の理由はそれだけではありませんけれども」

 試合後の記者会見で、私の質問に大橋監督はそう答えてくれた。では「それだけではない部分」はどこか? 私は「ファーサイドまでピンポイントで送り込める、クロスの精度に期待した」と考える。



 メキシコの選手たちはボールサイドに意識を集中させる傾向にある。日本のベンチスタッフは、取り寄せたビデオによるスカウティングで、相手DFの穴を洗い出していた。第1戦の2点はいずれも、長いサイドからのクロスボールをファーサイドでマークが甘くなっていた澤穂希と宮間あやが頭で入れたもの。国立のゲームを終えて「サイドからのクロスをファーに送る。練習の時から狙っていた形で2得点できたことが大きい」(宮間)と選手たちも手応えを得ていた。

 12分、澤の突破を防ごうとした、モニカ・ベルガーラに、この試合両チームを通じて初めてのイエローカードが提示される。ゴールまではかなり距離がある位置。それまで一方的なゲームを続けてきていたメキシコの選手たちは危機察知能力が麻痺していた。レフェリーへの抗議などを繰り返し、集中を失った。日本は見逃さなかった。劣勢下でも一発で局面を打開するロングパスを蹴れる。第1戦でも澤の先制点を生み出していた宇津木の左足がここでも光った。

 ボックス中央から右へ流れたボールは荒川恵里子の足元へ届く。「『ファーは空く』と。そこに行ったら瑠美から良いボールが来ました」。大舞台に強いストライカーが、所属チームの後輩からのボールをコントロールする間、対応が遅れたメキシコのDFは詰め切れなかった。「迷わず思い切って蹴りました」。角度がない位置から放った荒川のシュートは、バーの下を叩いてメキシコのゴールネットを揺らした。

 澤が、大野が、宮間が、柳田が殊勲の9番に駆け寄る。大きな、本当に大きなアウェーゴールが入った。しかし、その価値とも、スタジアムの人数とも、不釣合いなほどに小さな歓声しか起こらなかった。



低酸素環境の中、完璧なジャッジを続けたスイスのエルケ・リューティ主審。
 メキシコがワールドカップに出場するためには、残された80分間で4点をとらなければならない。満塁ホームランがないサッカーでは、絶望的と言い切れるだけの点差である。もちろん、スタンドで見ていた私も荒川のゴールを見て「これで決まった」と思った。

 しかし、エスタディオ・ネメシオ・ディエスにいるメキシコ人は違った。誰ひとりとして諦めたりしなかった。入場にもたついた援軍が続々と入ってくると、その声援が増していく。セーフティーファーストのクリアがタッチラインを割るたびに大きなブーイングが起こる。コミュニケーションを奪われた日本に混乱が起こった。

 最終局面まではゾーンで守る日本のディフェンス方式。だが、この試合の前半では、それが悪いほうに転んだ。ふたりの選手の中間点に個人技が優れたアタッカーが仕掛けると、互いにチェックを譲り合い、無難にパスコースを消す側に回る。アリバイディフェンスのオンパレード。きっちりと相手FWを掴んでいるのは磯ア浩美くらい。強心臓が売りのひとつである岩清水にしても、消極的なプレーが目立った。

「まず、こんな環境でやったことがないというプレッシャーがありました。それとゴールされたけれどオフサイドになって助かったものとか、序盤から『ちょっとヤバイな』というシーンがいくつもあった」

 16分、メキシコのサウセドが上げた苦し紛れのクロスがきっかけだった。ファーサイドでフリーになっていたロペスの姿に気をとられた宇津木は、その頭上を大きく超えていくボールが見えていなかった。とりあえずロペスに体を預けようとした宇津木のプレーは、完全なバックチャージになった。エルケ・リューティ主審は、笛を鳴らしてPKスポットを指差し、宇津木にイエローカードを突きつける。前回のプレーオフでも日本と戦っているファティマ・レイバが、思い切りの良いキックで左隅に蹴り込んだ。反撃の狼煙が上がった。

(続く)
<前へ次へindexへ>
topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink