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 頑張れ!女子サッカー 07/05/22 (火) <前へ次へindexへ>
ベンチ前で戦況を見つめる、両軍の指揮官。

 標高2,600mの戦い 〜その5
 2007FIFA女子W杯・中国大会 プレーオフ第2戦 メキシコ女子代表vs.日本女子代表

 取材・文/西森彰
「どちらが有利かだって? あと45分残っているよ。だから、日本とメキシコのどちらがワールドカップに行くかはわからない。ただし…」

 ボラ・ミルティノビッチは、私の質問に肩をすくめてみせた。そして、一息入れた後で、過去にワールドカップの決勝トーナメントまで4カ国を導いた男は、こう続けた。

「まだ、状況的には日本が有利だと思う」

 試合開始の時点で2点あったアドバンテージは、45分間を消化してまだ1.5点分だけ残っていた。日本の選手たちは消耗が激しかったが、立ち上がりからラッシュをかけてきたメキシコの選手にも当然疲労は残っている。ゴール前でのパス、シュートの精度が落ちていく。時間とともに、逃げるチームの有利は大きくなっていく…。

 ピッチを俯瞰する場所から、修羅場をくぐってきた名将が分析すれば、形勢はこうなる。今、こうして当時のシチュエーションを振り返れば、私にも「日本有利」という結論は導き出せる。湯飲み茶碗片手にゆっくり棋譜を並べているようなものだから。だが、この時、日本とメキシコの指揮官は、大きなプレッシャーの中で、タイトルがかかった一分将棋を指していた。



後半も日本陣内に押し込んだメキシコだったが…。
 日本の大橋浩司監督は、まず、コンヒューズした選手たちの精神面を回復させることから始めた。「前半から非常にバタついて、自分たちのやることが整理できなかった。そして、これだけの歓声の中でベンチサイドの指示も全然届かなくって、選手はパニック状態にあった。まずは、それを落ち着かせました」(大橋監督)。さらにシステムを変更して、戦術上の問題にも手をつけた。

 荒川恵里子と2トップを組んでいた大野忍を下げて、宮本ともみを入れる。宮本は酒井與惠とダブルボランチを形成し、それまでメキシコに楔を打たれていたバイタルエリアに修繕を施した。「相手のどこを消すかというところで、まずは裏のスペースとバイタルエリアを消したいと考えて、後半はスタートしました」(大橋監督)。

 中央が2枚になったことで、両サイドハーフはサイドバックと連携をとりながら、相手の攻撃を防げる。前半、ややファジーになっていた各自の守備エリアが分かり易く整理された。さらに、後半もメキシコの攻撃が右サイドを起点にしていることを確認した上で、イエローカードを1枚もらっていた宇津木瑠美を下げて矢野喬子を同ポジションに投入。相手の主攻勢点に蓋をする。

 いっぽう、メキシコのリベラ監督は、ボランチのモニカ・ベルガラに代わって、チャーリン・コラールを右サイドハーフに、先制点を奪っているマリベル・ドミンゲスに代わってボランチのグアダルペ・ウォルビスを入れる。ふたりを投入することで、中盤より前6人のポジションが配置転換されたメキシコは、4-3-3気味のシステムになった。

 後半からピッチに入ったコラールの仕掛けに、ピッタリとついていく矢野。フレッシュなふたりのマッチアップが繰り返される。前半同様に、メキシコから見て右サイド、日本から見て左サイドが主戦場となった。だが、8人の選手がきれいな2ラインを敷いた日本の守備陣形には、ほとんど混乱が見られない。

 73分、メキシコのリベラ監督は、最後のカード、パトリシア・ペレスを前線に投入した。モニカ・オカンポと途中出場のコラール、ペレス。シュート力の残っている3人を最もゴールに近い位置に置いたのは2点ビハインドを背負っているチームとしては、当然の采配。だが、セカンドボールを拾っては向かってくるメキシコの波状攻撃にさらされながらも、日本の選手から失点の恐怖感は消えていた。

「後半、システム変更をして楔のボールを狙う必要がなくなった。バイタルが消せて、サイドも消せるようになった。後はロングボールに対応するだけ。メキシコの選手くらいの高さだったら、磯さん(磯ア浩美)とひとりが行ってひとりがカバーする形でできる。後は裏のスペースだけをケアすればいいし」(岩清水梓)

 エルケ・リューティ主審の左手に巻かれた腕時計の針がカチリカチリと進むごとに、日本の守備は安定し、メキシコの攻撃は閉塞感を増していった。あれほど大きなアンジュレーションを見せていた試合の流れは、ようやく落ち着きを取り戻し、凪ぎの時刻に入ろうとしていた。
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