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 頑張れ!女子サッカー 07/09/13 (木) <前へ次へindexへ>
上海のスタジアムは地下鉄の駅を降りてすぐ。アクセスは抜群だが、終電は早かった。

 なでしこの願いを乗せた宮間の2発。
 

 取材・文/西森彰
FIFA女子ワールドカップ中国2007 グループA第1節 日本女子代表vs.イングランド女子代表
2007年9月11日(火)20:00キックオフ 上海虹口サッカー場 観衆:27,146人
試合結果/日本女子代表2−2イングランド女子代表(前0−0、後2−2)
得点経過/[日本]宮間(55分、95分)、[イングランド]スミス(81分、83分)


 上海虹口サッカー場は、その瞬間、大きなどよめきで包まれた。その中で君が代のメロディーが流れる。あっという間にイングランドのホームゲームになった。だが本気で勝たせようとする8万5千人の声と、面白半分にニヤニヤしながら声を出す2万7千人の声には、大きな違いがある。ジャッジも流れたりしなかった。4年前に戦ったアステカスタジアムほどの圧力があるわけではなかった。



 低い位置からきちんとショートパスをつないでビルドアップしていく和式。長いボールを入れてそこからの競り合いでチャンスを探るブリティッシュスタイル。戦前から喧嘩四つが予想された、なでしこジャパンのイングランド戦だが、最初の45分間はお互いに逆を行った。

 コイントスの結果、風下に回された日本は、裏のスペースをFWに狙わせる省エネサッカーで序盤を戦う。手数をかけず、またきれいなカウンターパンチを食わずに、まずは45分間を戦おうという狙い。リスクを軽減する戦いを選択したつもりだったが、相手の攻撃力はそれを上回っていた。

 イングランドは、思ったよりもつないできた。スタートから前線の2トップと両サイドハーフが、日本のDFラインに激しいプレッシャーをかけていく。キャプテンの磯ア浩美は「どんどん前線に人数をかけて来られたので負担になる部分もありましたけれども、そのあたりは、ボランチも守備に回ってくれたので」と想定内を強調したが、ピッチ全体では守勢に回らざるを得なかった。

 入れかわり立ちかわり顔を出してきたイングランドの4枚に、日本の後ろ7枚が押し込まれ、前線は孤立した。荒川恵理子、大野忍のふたりにボールを当てても、そこから落としどころがなく、タメを作ろうと試みる澤穂希には、強烈なタックルが見舞われる。前半は両チーム無得点で折り返したが、トルーカでのメキシコ戦と同様、日本の運命は風前の灯火だった。



地下鉄の列車表示。女子W杯かと思ったら、マージーサイドダービーだった。
 しかし、そんな中、先制点が日本に入るのだから、サッカーというスポーツはわからない。ゴールほぼ正面で得たFKに、宮間あやが近づく。そして、壁越しの駆け引きでGKを左に動かせておいて、逆のコースに蹴る。日本の今大会初ゴールは小柄なMFの右足から生まれた。

 大橋浩司監督は「点を取った後、リズムを崩して、相手にペースを渡してしまった」と、ここからの時間帯を悔やむ。62分、カレン・カーニーが1対1を迎えたのを皮切りに、イングランドが両サイドを起点にして、攻めあがってくる。だが、宮間の同僚・GK福元美穂が好セーブを連発。さらに宮本ともみに代わってピッチに入った原歩が、ピッチ狭しとカバーに走る。逃げ切りの予感が膨らんできた。

 だが、さすがにイングランド。入る入らないは別としてシュートを打ち続けることで、自分たちのペースを取り戻す。そして、とうとう81分、原と宮間の連携が乱れたところでボールを奪う。「あれは原選手のミスではなく、私が良い準備をしていなかったからです」。勢いに乗ってDFも攻め上がったイングランド。懸命に寄せた日本のDF2枚を交わしたケリー・スミスがゴールに流し込む。これは福元もどうしようもなかった。

 勢いに乗ったイングランドはこの2分後、再びスミスが突破する。懸命にスライディングを試みる磯アを交わしてシュート。これは福元に防がれたものの、DFとのリバウンド争いに勝って、再びシュート。日本のゴールネットが、またもや揺れた。記者席ではイングランドのチーム広報までが、大声を上げてガッツポーズ。中国人たちの喜びようは言うまでもない。



 逆転された日本は、負傷した磯アに代えて永里優季を送り出す。「まだある、まだある」と声をかけて励ましあう日本のイレブン。最後まで諦めることなく、不利なはずの放り込みを厭わず、直線的にゴールを目指す。前線は、荒川、大野のふたりに加えて、永里、そして澤までが位置する。それまでとは逆に、全員が足を攣っているイングランドDFに1対1の圧力をかける。その結果、3分と表示されたロスタイムの最後の最後、3分50秒あたりで、日本は運命のFKをもぎ取る。

 位置はゴール正面やや右。スパイクでピッチを蹴り、さらにその上からボールを叩きつけて、ポイントを固定する宮間。「2年前の東アジアの時の北朝鮮戦を思い出していました」。ほぼ同じ位置、同じ時間帯、そして同じ点差。2年前は慎重になり過ぎて、蹴る瞬間にタイムアップの笛を吹かれていた。

「時間をかけ過ぎて笛を吹かれなければ良いが…」と思った瞬間、この日2ゴールを挙げていたイングランドのスミスが、タイムアップの笛を誘おうと遅延行為に走る。助走に入ったキッカーの進路に大きな体を入れるかのように見せたのだ。しかし、宮間は落ち着いていた。すぐに助走を止めて、主審にアピール。スミスにイエローカードを与える。

 そして仕切り直しの場面で、右足のインフロントにかけたボールを「思っている通りには蹴れました」。ゴールの左隅に飛んでいく弾道を、イングランドの守備陣も、そして日本にブーイングを送っていたスタンドの観客も、ただ見送るしかなかった。手元の時計は95分を指していた。ブルーの集団が、背番号16を取り囲み、もみくちゃにする。

「あの時間帯にゲームを任せるキックを蹴らせてもらえる立場になった。それを褒めてやりたい」

 2年前のゲームの翌日、岡山湯郷Belleの本田美登里監督はそう言った。この日、再び勝敗を左右するキックを任された愛弟子は、日本チームを崖の下から救い上げた。感想を尋ねたら、何と言うだろうか?



その瞬間、記者席に叩きつけて破れたノートと雑誌。
 イングランドにとっては、グループリーグ突破に大きく近づく勝利を、あと一歩のところで逃したダメージが残っているかも知れない。記者会見に出たホープ・パウエル監督、そしてスミスは記者会見に笑顔で臨んで、切り替えているようだったが、それが強がりだったかどうか。

 ドローという結果に対してパウエル監督は苦笑いしながら「勝ち点3を取れた試合だった」。そして、どこかで誰かが言っていた、英国人が心の底から失望した時に漏らすというセリフ、「アイム・ディサポインティド」をこの会見中に4回も繰り返して使ったのだから、悔しかったのは確かだ。

 FIFAのテクニカルスタッフが選ぶプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたスミスに、ミクスゾーンで「今日の試合はハッピー? それともアンハッピー?」と問いかけると「個人として見れば、栄誉あるMVPに選ばれ、そして2つの得点を挙げたのでハッピー。だけどチームとして見たら、アンハッピー。勝ち点3を取れる試合をドローに持ち込まれたのだから失望しています」。

 パウエル監督がもうひとつ4回も繰り返した言葉は「ファンタスティック」だったが、これは宮間のFKに対しての賛辞。だが、殊勲者も冴えない表情を見せる。「追いついた喜びよりも、勝ち点3を取れていた試合という気持ちが強いです。1失点目は私が絡んだものだし、2失点目も自分たちのミスから。最初のほうは原選手のミスではなく、私の準備が足りなかったんです」と2ゴールよりも失点に目を向けた。

 もちろん、疲れきった表情で記者会見に臨んだ大橋監督も、勝ちきれなかった無念さは同じ。「勝ち点1を拾ったという見方もできるし、もっと上手く試合を運んでいたら、勝ち点3を取れたかもしれない。そういう試合だったと思います」というコメントを残した。

 両チームの中で数少ないポジティブな姿勢を見せたのが、負傷で途中交代となった磯アだ。「やっぱり勝ち点3を取りたかったですけれども、最後のあの時間帯に追いつけたということは、グループを戦っていく中で、非常に大きいことだと思います。チームとしての力というのを感じた1戦でした」と前向きな言葉を選んで並べた。



 ワールドカップの対欧州戦連敗記録を6、無得点記録を595分で止めたこのゲームは、最高ではないが、最低でもない。日本にとっては次のアルゼンチン戦が重要なゲームだ。開幕戦はチーム全員で前半だけ見たそうだが「ドイツが強すぎて、アルゼンチンのほうはあまり参考にならなかった」と宇津木瑠美が言うとおり。必ずアルゼンチンに勝てると決まったわけではない。もちろん、大量得点を取るに越したことはないが、まずはきっちりと勝ち点3を奪ってほしい。

 なでしこジャパンのワールドカップは、まだまだ始まったばかりだ。


(日本女子代表) (イングランド女子代表)
GK: 福元美穂 GK: ブラウン
DF: 近賀ゆかり(H.T/安藤梢)、磯ア浩美(86分/永里優季)、岩清水梓、宇津木瑠美 DF: アレックス・スコット(89分/ジョンソン)、ホワイト、フィリップ、ストーニー
MF: 酒井與惠、宮本ともみ(71分/原歩)、宮間あや、澤穂希 MF: チャップマン、ウィリアムス、カーニー、ヤンキー
FW: 大野忍、荒川恵理子 FW: スミス、アルコ(74分/ジル・スコット)
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