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 頑張れ!女子サッカー 07/10/17 (水) <前へ次へindexへ>
チケットは完売。スタジアム近くにはダフ屋らしき姿も見えた。

 円熟のドイツ、発展途上のブラジルを降し、史上初の大会連覇。
 〜その2〜 

 取材・文/西森彰
 ケルスティン・シュテーゲマンが、この世に生を受ける5年前の9月29日、日本の田中角栄、中国の周恩来、両首相が日中共同声明の調印式を行っていた。日中国交正常化35周年を迎えたこの日、東京羽田−上海虹橋路線が就航した。

 両都市の中心部から、空港までの道のりが大幅に短縮され、東京駅、上海駅をそれぞれ起点にして考えると約1時間半もの短縮になる。大会10日前に中国入りして副審として活躍した吉澤久恵さんも、決勝戦の翌日、この路線で中国を後にした。

 8月末に中国入りし、その後、開幕まで研修とトレーニングを繰り返した。9月12日のニュージーランドVSブラジル、15日のデンマークVSニュージーランド、そして18日のナイジェリアVSアメリカと3試合で副審を務めたが、決勝ラウンドに入ってからは、出場機会が回ってこなかった。

「今回、私はほとんど何もしていませんよ(笑)。ウェイト、ウェイト、ウェイト。そしてナッシング。セミファイナルあたりで、ひょっとするとチャンスがあるかもしれないと思ったんです。『アメリカが勝ち進んでいたので、アジアでふたり入れないかな』って…。まあ、いろんな巡り合わせがありますから。準決勝でアメリカが負けたので、アメリカの主審も『決勝の準備をしなくちゃ』って気合が入っていたんですよ。でも結局…」

 決勝戦の主審は、ベラルーシ、スウェーデン、スイス、ルーマニア。これまでUEFAのレフェリーが担当してきた。初めて他大陸から選ばれたのは、オーストラリアのタミー・オグストン主審だった。北米地区からは副審としてふたりのメキシコ人に白羽の矢が立った。アメリカ人の主審たちの落胆は言うまでもない。

 吉澤副審とてコンマ何パーセントかに賭けて準備をしていたはずだ。「私は何もしていない」という言葉を額面どおり受け取るのは、よっぽど想像力が貧困な人間だろう。世界大会に出場するだけの技量を持ち、日々のコンディション管理にベストを尽くし、さまざまな巡り合わせや組み合わせの運不運も乗り越え、決勝の舞台に立てるレフェリーもたった4人。そのひとりとして、大岩真由美国際女子主審が決勝戦の第4審判に選ばれたのは、本当に凄いことなのだ。



 その4名の審判団の後ろから入場してきたドイツ、ブラジル両国のイレブンは想定されていたメンバー同士。ドイツは白、ブラジルはカナリア。着用しているユニフォームのカラーが、5年前に横浜で行われた男子ワールドカップ決勝を思い出させた。VIPメンバーからの激励、両国国歌の演奏を経て、22名の選手たちがピッチに散っていく。ブラジルは3-4-1-2、ドイツは4-4-2。

 ブラジルは前線から最終ラインで1枚余るアリーネまでが、長く伸びた形を作る。ひとりひとりの間隔を広くすることで、集団戦ではなく1対1の局面を増やす。優れたボールテクニックで、アメリカを翻弄した準決勝と同じ戦い方だ。そして前線はマルタ、クリスチャーネのふたりに、ダニエラまでもが加わり、ドイツのDFに激しくチェイシングをかけて、ミスを誘発しようとする。

 対するドイツは、厳しいチェックを受けながらも、DF陣が勇敢にボールをキープする。そして高いラインを保ちながら、コンパクトなゾーンを作って迎え撃った。最終ラインの4選手がマルタとクリスチャーネのマークを受け渡しながら、決してフリーの瞬間を作らせない。そして、いつもより低い位置に構えたレナーテ・リンゴアが、シモーネ・ラウデールと共に、マルタたちへのパスコースを遮断した。

「全ての局面でブラジルの選手たちに小さなスペースしか与えないこと、数的優位を保つこと。それが勝利を掴むために必要だと考えました。前半は五分五分だったと思います。ブラジルがたくさんチャンスを作っているように見えたかも知れませんが、ドイツのディフェンスも1対1に始まり、全ての面で素晴らしいデキでした」

 相手の攻撃に耐える時間が続いた前半も、シルヴィア・ナイド監督の目には劣勢とは映らなかった。常に笑みを絶やさないこの指揮官が、前半45分間で唯一、鬼のような形相に変わったのは、ドイツベンチ前で行われた17分のプレー。1枚イエローカードを貰っていたギャレフレクスが競り合いの中で大きく右足を振った際に、前方にいたクリスチャーネが大げさに倒れこんだのである。「完全にダイブじゃないか!」。ナイド監督は身振りを交えて、激しく抗議した。



9月29日、日中国交正常化35周年の日に、羽田−虹橋路線が就航した。
 ブラジルがアメリカに圧勝した伏線になったのは、前半終了間際、シミュレーションプレーに欺かれた主審が、アメリカのボックスに2枚目のイエローカードを提示したことだった。このゲームの感想を訊かれたドイツのコーチ、マレン・マイナートは「最初のオウンゴールもそうだし、退場の判定もそう。アメリカが不運だった」と笑顔を見せることなくコメントしていた。カードを引き出すプレーには注意を払っていた。

 しかし、ブラジルの選手たちは実に巧妙にファールを演出する。接触プレーでカナリア色のユニフォームが這いつくばる度に、スタンドからは抗議の声が上がった。中国代表の人気選手、マー・シャオシューと同じクラブでプレーしていた関係で、マルタは中国人に最も人気があるプレーヤー。そして準決勝で見せた個人技主体の試合運びも含め、上海虹口サッカー場は、ややブラジル贔屓の雰囲気ができ上がっていた。

 そんな中、このゲームを裁いたオグストン主審はマイペースを貫いた。「ノーファールよ、立ちなさい」。スタンドの反応など、どこ吹く風。自分のペースでゲームを進めていく。グレーゾーンのプレーでもファールをもらえないブラジルの選手たちは、笛をアテにすることなく戦うようになっていった。

「彼女の裁く試合は不思議と荒れないんです。スタンドから見ていて『今のファールじゃない?』っていうのを流したり、『え、それとっちゃうの?』っていうところで、笛を吹いたりする。でも荒れない。きっとピッチの中でプレーしている選手たちがやりたい事を考えながらコントロールしているからでしょうね」(吉澤国際女子副審)
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