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 頑張れ!女子サッカー 07/12/29 (土) <前へ次へindexへ>
運命のキックオフを待つ、伊賀と千葉

 紙一重の勝負で活きた、経験の重み。
 

 取材・文/西森彰
なでしこリーグディビジョン1・ディビジョン2入れ替え戦 伊賀FCくノ一vs.ジェフユナイテッド市原・千葉レディース
2007年12月15日(土)12:00キックオフ 多摩市陸上競技場 観衆:559人 天候:晴
試合結果/伊賀FCくノ一2−2ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(前2−1、後0−1、延前0−0、延後0−0、PK5−4)
得点経過/[伊賀]堤(13分)、[千葉]金野(36分)、[伊賀]池内(39分)、[千葉]後藤(24分)


「うわー! ぜんぜん、気がつかなかった!」

 選手入場口に出てきたジェフユナイテッド市原・千葉レディースの選手は、控え選手と一緒にハイタッチをしてくれた相手の顔を見て驚いた。そこで待ち受けていたのは、トップチーム所属の羽生直剛。天皇杯敗退で今シーズンの公式戦は終了しており、オフを利用してサプライズで応援に駆けつけていたのである。ついに迎えた大一番のキックオフを前に、幾分硬さが和らいだ。

 3年前には、ルネサンス熊本のリーグ連敗記録を止める白星を献上していたチームである。メンバー数がギリギリで、この日はセンターバックで出場する阿部麻美が、GKを務めていた時期もある。そんなチームがここ2年間で目覚しい躍進を遂げて、あと1試合勝てばディビジョン1というところまで漕ぎ着けた。

「雰囲気がいい。こりゃ、勝つな」

 千葉の番記者と思しき男性も、選手たちの明るい表情を眺めて、呟く。多摩市陸上競技場の右側芝生席を埋めた千葉のサポーターたち。彼らが身に付けた黄色のユニフォームが冬の日差しを浴びて輝いている。



千葉の清水は、スピードに乗ったドリブルで突破を図る
 一方の伊賀FCくノ一は、厳しい戦いを予感させる状況に置かれていた。実質的には地理的にもアウェーとなる多摩市陸上競技場へ、いつものように前日夜からのバス移動。決戦に臨むうえでコンディション万全とは言いがたい。実際、足にテーピングをした宮本ともみをはじめ、負傷者を多く抱えていた。

「今日は試合前からケガ人が続出していて、普段は出場していない選手が多かった」(宮本)

 正GKの小林舞子にいたっては、よりによって前の週に行われたリーグ最終戦で負傷してベンチ外。この日は磯上まみがゴールマウスを守ることになった。こうした悪条件が重なっている上、心理的には劣勢に立たされている。どうしてもこの試合に対してネガティブなイメージを持ってしまう。

「ジェフとしては『入れ替え戦ができる』というプラスのイメージが持てるけれども、こっちとしては『入れ替え戦に回ってしまった』というマイナスのイメージが残ってしまう。それをみんなの中から消したいと考えていました」(宮本)

「この試合は点を取らなければ勝てないし、ディビジョン1に残ることもできないですから」

 諸岡正悟監督も腹を決めた。今シーズンは吉泉愛と宮本の両ベテランをセンターバックに使うことが多かったが、この大一番で宮本を本来のボランチに据えた。リスクを覚悟で攻めの姿勢を貫いたのである。



一度ならず、二度まで追いついた千葉だったが…。
 1週間前にひたちなか競技場でASエルフェン狭山FCが、鳳凰高校を下したゲームを見て、ディビジョン2のレベルアップを感じた。狭山の大豆生田詔平監督は「難しいことをするよりも、基本を身に付けさせた。1年間、とにかく基礎の基礎を徹底させました」。そうすることで、左右どちらの足でもきちんとボールをつなげる技術、そして徹底的に走りこみを行う高校生たちにも走り負けない体力も備わっていた。

 狭山のサッカーは「これだけやっても、ディビジョン2のAクラスに入れないのか」ということを感じさせていた。両者と対戦経験のあるTEPCOマリーゼのサッカーを物差しにしても、伊賀と千葉の間に決定的な戦力差があるようには感じられない。あとは経験、勢い、そして運といったトータルの差がどこまで出るか、だ。

 ゲーム前の勢いそのままに、立ち上がりから主導権を握ったのは千葉だったが、伊賀はこれをやり過ごす。そして10分過ぎの千葉・金野結子の負傷で一瞬、試合の流れが淀んだ隙に、先制点は伊賀に転がり込んだ。13分、バイタルエリアでこぼれてきたボールを、堤早希が思い切り叩いたのだ。強烈なシュートは、伊藤美華の両手を逃れ、千葉のゴールに入る。ディビジョン1で3連敗を喫していた伊賀は、ようやく負の流れを食い止めた。

 しかし、千葉も負けてはいない。31分、32分と井上由惟子が絡んでチャンスを作り、36分、いくつかのチャンスが潰えた後、金野の放ったミドルシュートがゴール右隅へきれいに決まった。その3分後、伊賀も大歯裕子のFKに池内里沙が飛び込む。再度、勝ち越し。ここから数回訪れた千葉の決定機は得点に至らず、前半は伊賀が1点をリードして折り返した。

 後半に入り、1点リードされた千葉の里内監督は、59分、安田有希に代わって後藤史を投入。中盤をダイヤモンドに組んで反撃に出る。その交代策がいきなり当たった。1分後、井上がペナルティボックス左側で粘った末、右でフリーになっていた後藤へラストパス。後藤がファーストタッチで落ち着いて流し込み、試合は再び振り出しに戻った。

 この後は2度追いついた千葉が、ひたすらに伊賀のコートを蹂躙する。激しい鍔迫り合いの中で、両者の走力に差が出始めていた。千葉の里内監督は、ご存知のとおりジーコジャパンのフィジカルコーチを務めた専門家である。

「今シーズンから指揮をとることになって、最初に選手たちに足りないと感じたのは最低限の筋力でした。私はもともと専門がフィジカルなので、決められた練習時間の中でボールを触りながら、同時に筋力がアップできるようなメニューを組みました」

 こうしたトレーニングを続けた1年間が、選手たちの体を一回り成長させていた。特筆すべきスピードとスタミナで前線をかき回す清水由香を筆頭に、千葉の選手たちは終盤になっても「ボールも人も動くサッカー」を持続する。



 バスで車中泊という強行軍でこの試合に臨んだ伊賀の選手たちは、目に見えて苦しくなった。千葉の攻撃に振り回されて、足を攣る選手も出てくる。その中で、ゴールにかんぬきをかけて勝ち越しを許さなかったのは、この日のゴールを任された磯上と、前半5分以上の治療を要する負傷をしながら、それでも諸岡監督が下げなかった宮本の活躍である。

「私だって1年間、ほとんど出場がなかったとは言え、伊賀のベンチでセンターコートを守っていたわけですから…。ゴメンなさい、ウソです(笑)。本当は緊張でガチガチでした」(磯上)

 試合後のインタビューでもハキハキと、そして笑いをとるコメントを残したセカンドGKは、プレッシャーを感じさせない思い切ったプレーを連発。千葉の決定的シュートを幾度となく好セーブで阻んだ。

 そしてなでしこジャパンのレギュラーボランチは、リーグ戦でDFとしてプレーした経験を活かし、危険地帯で必ず相手の攻勢を引っ掛ける。のみならず、残り5分には思い切ったミドルシュートを放ち、クロスバーを襲う。

「最後までみんなとピッチの上で戦いたいと思っていました。監督としては、長い間、ピッチの外に出ていたし、そこでピンチもあったので代えたいという気持ちもあったと思う。でも100%の状態で走れないかもしれないけれども、ピッチ上でみんなを支えたいという気持ちが強かった」(宮本)

 ゲームは90分間を終えて2対2のタイスコア。規定により、前後半10分間の延長戦に入った。そこでも千葉が優勢を保ち、石田美穂子、金野がチャンスを得る。千葉としては、押しているだけにPK戦へ持ち込みたくない。里内監督は、深澤里沙に代えて三上尚子、残り5分を切ると、セットプレーでキッカーを務めてきた石田を下げて、長身・小林菜摘を投入。パワープレーで時間内の決着に賭けた。

 しかし、勝負を決するゴールが生まれることはなかった。来年、ディビジョン1で戦う権利は、PK戦に委ねられることになったのである。



PK戦に臨む伊賀のキャプテン・宮本
「同点に追いつかれてからは押されっぱなしだったし、ほとんどチャンスも作れなかった。だから、PK戦は相手に持ち込まれたというより、こっちがそこまで凌いだという感じでした」(宮本)

 押されていた伊賀にとっては良い意味での仕切り直し。しかも伊賀は諸岡監督の方針で、シーズンを通して試合前日の土曜日に必ずPK練習をしてきていた。この決着方式は望むところだった。

 先攻の千葉が先頭の三上から4人連続で左隅へ正確なキックでコントロールする。伊賀の選手たちも「延長戦終了のホイッスルを聴いた瞬間に、蹴るコースを決めていた」宮本を先頭に、練習で自信を持っているコースへ蹴りこんでいく。どちらも4人ずつが成功。一番重いものを背負う5人目まで来た。

 千葉の5人目は同点ゴールを決めた殊勲者・後藤。ここまで4人に左隅へ決められていた伊賀GK・磯上は「先に動きたかったけれど『先に飛ぶな』と監督から言われていたし、『蹴るまで動くな』と自分に言い聞かせながら待ちました」。そして裏をかくように、それまでと逆コースを狙った後藤のキックを、きっちりと止める。リードした伊賀の5人目は途中出場の村上真理。クロスバー隅の難しいコースに勇気を持ってシュート。決着をつけた。

 「ここに来てピリピリとした緊張感の中で良いトレーニングができたし、今日も普段はスライディングをしないような選手が滑っていた。これからはそれを普段からしなければいけません。チームのみんなの団結が深まる良い経験ができたのだから、それをこの後につなげなければいけませんね」

 勝者の側に立った宮本から、笑みがこぼれる。この日の殊勲者・磯上の元へは、安堵の涙をこぼす正GKの小林が、松葉杖を投げ捨てて駆け寄る。どの選手たちの顔も明るく、この日、勝ち取ったものの大きさを雄弁に語っていた。

 その向こう側で他の選手に支えられる後藤の姿があった。誰かが失敗しない限り、決着のつかないPK戦。唯一、責められることのない選手は、やっぱり同点ゴールでここまで持ち込んだ彼女ではないだろうか。誰がサッカーの神様になったとしても、このゲームのピリオドは彼女に記してもらったはずだ。



芝生席を埋めた千葉のサポーターは、イレブンを温かく迎えた。
 1週間後の美作ラグビー・サッカー場。来期もディビジョン2で戦うことになった千葉は、全日本女子サッカー選手権3回戦で、ディビジョン1のINACレオネッサに挑んだ。結果は1対4。サッカーの内容だけを比べれば、この日のINACと千葉の間にスコアほどの差はない。

「ディビジョン1のチームには、本当の意味での球際の強さがあるんです。それがこちらのイージーなミスを誘い、ダメージを与え、2点、3点と差が出てきてしまう。これを選手たちがどう考えるかでしょう。たぶん『ソコソコできている』と感じている。でも現実に、点差は開いていっている。そういった決定機に対する温度差でしょうね」

 入れ替え戦のスタッツとメモを見ながら振り返っても、コーナーキック、シュート、決定機とポゼッション。いずれを比べても勝者のそれを上回っていた。ボクシングで言えば、12ラウンドを終えたところで判定勝ちというのが、フェアな結果だったように感じる。

「はい。入れ替え戦の試合内容を記録から見比べれば、そうなりますね。でもサッカーというスポーツのレギュレーションでは、終わってみたらこちらが負けているわけです。だから選手たちには『内容だけじゃなく、結果のことまで考えて戦わなくちゃ勝てないんだよ』ということですね」

 選手たちへの愛情から発する厳しい言葉を並べた指揮官は「でも、それは決して埋められない差じゃありませんから」。そう、最後に付け加えた。


(伊賀FCくノ一) (ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)
GK: 磯上まみ GK: 伊藤美華
DF: 鈴木麻友、池内里沙(84分/村上真理)、清原祐子、庄子菜摘 DF: 河村真理子、柴田里美、阿部麻美、浅野麻衣子
MF: 堤早希、宮本ともみ、四宮由美子、尾原亜由香 MF: 金野結子、安田有希(59分/後藤史)、井上由惟子、深澤里沙(102分/三上尚子)
FW: 小野鈴香、大歯裕子(87分/井坂美都) FW: 清水由香、石田美穂子(106分/小林菜摘)
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