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 頑張れ!女子サッカー 08/08/13 (水) <前へ次へindexへ>
上海に、ベスト8最後の切符が隠されていた。

 なでしこジャパン、ノルウェーを粉砕し、ベスト8の扉をこじ開ける!
 

 取材・文/西森彰
北京オリンピック女子サッカー グループリーグ第3戦 日本代表vs.ノルウェー代表
2008年8月12日(火)19:45キックオフ 上海スタジアム
試合結果/日本女子代表5−1ノルウェー女子代表(前1−1、後4−0)
得点経過/[ノルウェー]G・クヌートセン(27分)、[日本]近賀(31分)、オウンゴール(51分)、大野(52分)、澤(70分)、原(83分)


 試合開始1時間前、雷と豪雨が、上海のスタジアムを襲った。屋根つきのスタジアムでありながら、風向きの関係でバックスタンド一帯は水浸しになったらしい。我々は、試合時間ギリギリまで、スタジアムに隣接したホテルのロビーで、この豪雨を避けることにした。

 ロビーに備え付けのテレビの前には、従業員や記者の人だかりができていた。オリンピック競技のバスケットボールで、地元・中国がスペインと熱戦を繰り広げていたのだ。

 一時は3ポイントシュートを連続して成功させ、10点以上のリードを奪っていた中国を、スペインが終盤に猛追する。残り1分を切ったところで、とうとう同点に追いついた。白熱した試合展開に、中国人は自国の選手に声援を送っていたが、延長戦で逆転を許すと溜め息をつきながら、それぞれの持ち場へ戻っていった。我々のほかには誰もいなくなった。

 開催国への敬意から、しばらくチャンネルをそのままにしていたが、日本の入っているグループGよりも先に行われている、グループFの状況をどうしても知りたい。いくつものチャンネルでオリンピックを放送しているのだから、女子サッカーもやっているに違いない。ついに記者仲間がホテルの従業員からリモコンを借りて、チャンネルを切り替えた。

 そして、チャンネルを回しながら探し当てた、その瞬間である。タイミングよくタイムアップを告げる笛が聞こえた。ドイツと北朝鮮のゲームだった。画面は憮然とする北朝鮮女子代表の張監督、そして、やや肩を落としているリ・クムスクを映し出していた。ドイツが北朝鮮を降したのだ。

「よーし!」

 その場にいた者同士、笑顔で頷きあった。これでグループFの3位は勝ち点3止まり。日本がノルウェーに勝てば、これを勝ち点4で上回る。得失点差などの足かせは消えた。ただ、ただノルウェーに勝つだけでいい。ベスト8に至る道の標識が、ハッキリと照らし出された。



1対1。ハーフタイムでは、勝負の行方は見えていなかった。
 なでしこジャパンの佐々木則夫監督は、アメリカ戦のスターティングメンバーから10人を残した。唯一、変えてきたのが左サイドバック。ノルウェーの俊足ウイング、カウリンと対峙するこのポジションには、守備力に定評のある矢野喬子が起用された。その他は変わらず、フォーメーションはいつもの4−4−2である。

 対するノルウェーからは、引き分けまでは許容範囲という余裕が見え隠れする。これまで2戦と同じように、中盤をV字型にした4−5−1だが、カウリンとともに得点源となってきた左ウイングのヴィークはベンチスタート。とりあえず守備を固めておき、リードされるようなら反撃に出るということだろう。案の定、序盤から1トップのグルブランデセンを残し、9人の選手が自陣で守備ブロックを形成してきた。

 分厚い相手の守備を前にしても、日本の選手たちは気分よさげにプレーしていた。雨に洗われて光る上海スタジアムの芝は、グラウンダーのパスがきちんと回せるのだ。荒れた秦皇島のピッチとはまるで違う。守備に回っても澤穂希らがボールホルダーを素早く囲み、両ウイングへのパスコースを遮断する。グルブランデセンに入ってくる楔へは岩清水梓がアタック。こぼれ球には池田浩美が対応した。

 攻撃の第一選択肢をきっちりと消されたノルウェーは、2列目以降の選手が前に顔を出し始める。そして27分、日本のペナルティエリア付近で生じた混戦から、センターバックのホープスタットがスルーパスを通す。ケガで早々と退いた姉に代わったG・クヌートセンが、これを落ち着いて日本ゴールに蹴り込んだ。

 負けない限り1位通過のノルウェーにとっては願ってもない、そして勝たない限りセカンドステージに進めないなでしこジャパンにとっては最悪のシチュエーションになった。ペースを掴みながら、先に失点する五輪の悪夢は、大会に入ってから3戦連続、男子も含めれば5戦連続で繰り返された。

 だが、ノルウェーのリードは5分と持たなかった。31分、左サイドでボールを持った宮間あやが、クイックフェイントで対峙するDFを振りきる。そして、エンドラインぎりぎりから中央へ鋭いクロスを上げる。戻ってきた赤いユニフォームが林立するゴール前に、ぽっかりと空いたスペース。ここに宮間の蹴ったボールと、右サイドバックの近賀ゆかりが飛び込んだ。僅かな可能性に賭けて長駆してきたこのユーティリティプレーヤーは、FWと見間違うようなボレーシュートをノルウェーゴールにたたき込んだ。

 あっという間にゲームは振り出しに戻った。



スタンドの声援も、チームをあと押しした。
 互いに点を奪いあうことで、両チームは刺激を受け、流れは一気にオープンゲームへ。ここから両チームは勝ち越しゴールを求めて、対照的な攻撃を見せる。

 日本の攻撃はサイドから中へ。左からは、信じがたいほど体にキレが戻り、危険なボールを蹴り続ける宮間。右からは労を惜しまずに上下する安藤梢と近賀。両翼を起点にノルウェーゴールを脅かす。バランスを見ながら、左右にボールを散らすのが阪口夢穂。このパス交換に2トップと澤、そして、カウリンに全く仕事をさせていない矢野も加わる。

 ノルウェーの攻撃は逆に中から外。ボールを奪うと、両ウイングが裏を狙う動きで日本の最終ラインを牽制する。そして、開きがちになるバイタルエリアを、ステンスラントら中央の選手がゆっくりと持ち上がる。シュートとウイングへのスルーパス、ふたつの武器を使い分けるノルウェーの中盤に、日本のDFはきっちりとラインコントロールしながら、対抗する。

 1分間と表示されたロスタイム、日本に追加点のチャンスが訪れる。大野忍が最終ライン裏へ抜け出し、DFを引きつけておいてフリーの安藤へ。シュートは強さもコースも申し分のないものだったが、ノルウェーGKのスカルボーがビッグセーブ。追加点を許さない。

 前半を1対1で折り返し、勝負は後半にもつれ込んだ。



 ノルウェーは主導権を奪い返すべく、後半からヴィークを左ウイングに投入してきた。立ち上がり早々にそのヴィークがフリーでボールを受けた。決定的な場面だったが、周囲を確認するため一呼吸待ったヴィークの前に日本のDFが立ちふさがり、事なきを得る。その後、2本続いたノルウェーのコーナーキックはGK・福元美穂が競り勝って何とかクリア。49分、この日初めて高い位置でボールを持ったカウリンのクロスも大事には至らない。

 そして、ノルウェーの攻勢をしのいだ日本に、今度はチャンスが訪れる。51分、ペナルティエリア正面でFKを得る。キッカーはもちろん、宮間。低いシュート性のボールがノルウェーゴール前での混戦を生んだ。その中で大野が、アジリティを活かしてシュートまで持ち込む。詰めてきた安藤のプレッシャーが、相手DFのクリアミスを誘い、まさかのオウンゴール。これで日本は、決勝トーナメントへの最低条件をとりあえずクリア。

 スタンドで狂喜乱舞する日本のファンの興奮も冷めやらぬ1分後、スルーパスに抜け出した大野がシュートを放つ。これが追いすがってきたDFの足に当たり、軌道を変えた。頭上を過ぎていくボールを、ノーチャンスで見送るスカルボー。雨上がりのピッチで美しいアーチを描いたボールは、バーの下を叩いてゴールに入る。これまでの2戦、決定的な場面で運に見放されてきた大野だが、この日は、相手DFの事後アシストを連続でもらう、ラッキーデーになった。

 ノルウェーは僅かな時間で立て続けに失点し、ついさっきまで日本が立っていた崖の先まで追い込まれた。このままでは2位抜け濃厚。ベスト8でブラジルと対戦、そこを勝っても準決勝でおそらくドイツが相手になる。そんなトーナメント表は理解していたはずだ。そして、ここから1位抜けするためには最低2点が必要であり、そのためには少々の無理が必要なことも。

なでしこジャパン、歴史的な大勝利。
 しかし、この日のノルウェーにはそのための覚悟や気魄が感じられなかった。3日後まで疲労を残したくない、ケガ人も出したくない……。

 フォアチェックすら躊躇うノルウェーを尻目に、日本は巧みなゲームコントロールを見せた。まず、阪口夢穂が最終ラインと関わりながら、涼しい顔でボールをキープし、時計の針を進めながら、息を入れる。リードしたところからの逆転負け。ベトナムで2回も煮え湯を飲まされた経験は、確かに活かされていた。

 そして終盤に入ると、日本は狙い通りに止めを刺す。71分、スローインを受けた大野がペナルティエリア右に張り出し低いクロスを入れる。ファーサイドの宮間がDFに、中央の永里がGKにぶつけたこぼれ球を再び大野が折り返す。一連の激しい攻防にピリオドを打ったのは澤だった。自身のオリンピック2点目は、決勝トーナメント進出を決定づけるゴールになった。

 ノルウェー最後のチャンスとなった73分のピンチも、グルブランデセンのシュートを、福元が超人的なセーブでストップ。逆に83分、大活躍の大野がドリブルで持ち上がり、2対2の場面をお膳立てすると、最後は、交代出場の原歩がダメ押しの5点目を加えた。

 スタンドで観戦していたノルウェーのファンも、試合途中に諦めて席を立つほどの圧勝劇。終わってみれば今大会のグループリーグ最多得点チーム(合計7点)として、決勝トーナメントへ名乗りを上げることになった。



 生え揃った芝の上で、本来のサッカーを取り戻したなでしこジャパンは、ワールドクラスの破壊力を発揮した。ノルウェーのゲーム運びが拙かったこともあるが、それを差し引いてもこの日の彼女たちは輝いていた。

結果を出した大野。ここから先も、期待大。
 このゲーム最大のポイントは失点後に下を向かず、すぐにタイスコアへ戻したこと。数的不利な状況で仕掛けて奪った同点ゴールだ。そこしかないスペースにセンタリングを上げた宮間も、それを信じて飛び込んだ近賀も、素晴らしかった。この大一番で、大野が1得点3アシスト(オウンゴール含む)の大活躍を見せたことも、ベスト8以降の戦いを占う上で心強い。自信を取り戻し、ゴール前をひっかき回す小兵に引っ張られ、永里、安藤らも有機的に攻撃へ絡むことができた。

 また、池田を中心に最少失点に抑え切ったDF陣も讃えたい。今大会、各チームが入れてくる楔のボールをことごとく弾き返している岩清水は、ノルウェーを相手にも安定したパフォーマンスを見せた。そして、守備の切り札・矢野は、カウリンの仕掛けを封じるだけでなく、後ろへ引っ張り返すほどだった。自身が合宿で課題としていた、ビルドアップに加わるプレーを見せた。

 ダブルボランチも攻撃面で阪口、守備面で澤がそれぞれ持ち味を見せ、交代選手も自分の役割を全うした。チーム全員が明るい表情で、次を見据えている。決勝トーナメントへ向けて、これ以上の好材料はない。



 再び舞い戻る秦皇島で、なでしこジャパンを待ち受けるのは、オリンピック開催国の中国女子代表。ボールがなかなか転がらない芝や、圧倒的なアウェーの雰囲気など、いくつも不利な点はある。だが、次の試合に勝つことで、ホストカントリーに用意された特急券を手にすることができる。

 準決勝は、グループリーグで互角に近い勝負を見せたアメリカかカナダ。会場は、決勝と同じ北京だ。決勝では、強豪揃いの逆ブロックのチームが相手だが、厳しい山を登る途中で激しく消耗しているだろう。

 目標としているメダルまで、色を問わなければ、あと2勝。

 そして、一番きれいな色のメダルまで、あと3勝である。


(日本女子代表) (ノルウェー女子代表)
GK: 福元美穂 GK: スカルボー
DF: 近賀ゆかり、池田浩美、岩清水梓、矢野喬子 DF: ロニング、クリステンセン、ホープスタット、フォルスタット
MF: 安藤梢、澤穂希、阪口夢穂(87分/加藤與惠)、宮間あや MF: ステンスラント、カウリン、M・クヌートセン(10分/G・クヌートセン)、シュトロッケン(69分/ソールスネス)、ミックラント(H.T/ヴィーク)
FW: 大野忍(84分/丸山桂里奈)、永里優季(77分/原歩) FW: グルブランデセン
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