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 webnews 06/07/12 (水) <前へ次へindexへ>
チビッコまで総動員で戦うフランス。
フランクフルトの黄昏。フランス、またもブラジルを止める。
FIFA WORLD CUP GERMANY 2006 準々決勝 ブラジル代表vs.フランス代表

2006年7月1日(土)21:00キックオフ フランクフルト・FIFAワールドカップスタジアム 観衆:48,000人
試合結果/ブラジル代表0−1フランス代表(前0−0、後0−1)
得点経過/[フランス]アンリ(57分)


取材・文/西森彰

 クオーターファイナルの最後を飾るのはブラジルとフランス。前回王者と前々回王者の対戦になった。会場のフランクフルトには、プロから素人までたくさんのダフ屋が商売を始めており、地元警察がチケット転売禁止をトラメガから呼びかけているが、もう無法地帯だ。

 試合後、待ち合わせていた友人がうなだれた様子で「やられた、盗品だった」。そのチケット購入の交渉を担当していたのだから、私としても決まりが悪い。ダフ屋から200EUROと格安で手に入れた座席は、ゴール裏の好位置。そこから5分ほど、試合に想いをはせてピッチを眺めていたところ、スリの被害者に肩を叩かれて警察へ。事情聴衆を受けた後にスタジアムから追い出され、フランクフルト空港のバーでアンリの決勝ゴールを見ていたらしい。

「そうか。200EUROはあくまで入場料で、観戦料は含まれていなかったんだね」というブラックジョークが頭をよぎったが、しおれきっている彼の姿に受け止めるだけの心の余裕は無さそうだ。スタジアムの内外で警察沙汰が相次いでいた。偽造チケットをつかまされて、入場ゲートで「アン・ラッキー、オーオー」と他の入場者に揶揄されながら、引き返す人もいた。これらを全部ひっくるめてワールドカップなのだろう。

 そんな彼らの背中にパブリック・ビューイングへのアクセスを案内していたパトカーのトラメガから「イングランドがポルトガルに負けた」という速報が流される。優勝経験国との対戦を避けられたブラジル人からも、フランス人からも、そしてイギリスに敵対感情が強いドイツ人からも歓声が上がった。



フランクフルトの空港駅にもスクリーンが設置された。
 どうにかこうにかスタジアムの中に入り込んだ観客は公式発表で48,000人。その大部分はカナリア色のブラジルファンだ。世界で活躍するブラジル人選手だが、もちろん、このドイツでプレーしている選手も複数、代表に含まれている。歴史的な因縁からフランスに対して好感情を持たないドイツ人は多い。それが、このスタンドにおける数的優位につながっているのだろう。

 ブラジルは7戦全勝で終えた2002年大会から、今大会の2ndラウンド初戦のガーナ戦まで、何とワールドカップ11連勝中(全て90分以内の決着)。日本戦の2ゴールに続き、ガーナ戦でもロナウドが1ゴールをゲット。ゲルト・ミュラーが持っていたワールドカップ通算得点記録を塗り替えていた。欧州のメディアもブラジルの優勢を伝えるものが多かった。

 しかし、スコア上は復調してきたように見えるブラジルも、内容はそれほど良化していたとも思えない。実際、日本に先制点を許し、ガーナにも前半はボールポゼッションで圧倒されていた。ボール奪取能力に長けたダブル・ボランチを擁するフランスを相手に中盤を支配されることは避けたい。そんなパレイラ監督の気持ちが、アドリアーノをベンチに置き、ロナウジーニョのポジションを前に上げる守備的な布陣に導いたのかも知れない。

 対するフランスは、スイス戦、韓国戦と勝ちきれず、トーゴとのグループリーグ最終戦での勝利が絶対条件となった崖っぷちの状況から、勝ち上がってきた。出場停止明けのスペイン戦では復調したジネディーヌ・ジダンの活躍もあって3対1の逆転勝ち。こちらも、徐々に世界チャンピオンが視界に入ってきた。こちらは、栄光の98メンバーを要所に配した4−4−1−1で動かず。



幸せそうなふたりは・・・
やっぱり幸せだった。
 ファンの数では圧倒的に劣勢だが、フランスの声援は、ブラジルのそれを大きく上回る。「ア、レ、ジズー」「ア、レ、フランス!」「ア、レ、ブルー!」。掛け声がどこからともなく起こると、一斉に座席を立ち、トリコロールの旗を打ち振る。ブラジルの声援がどこか弛緩した形式上のそれであるのに対し、フランス人たちの上げる叫び声は、そのままボールをゴールへと押し込みそうな勢いが感じられた。

 ゲームもその声援の質に正比例して、フランスペースで進んでいく。右サイドにカフー、そして左サイドにロベルト・カルロス。豊富な経験を有するブラジルの両ベテランに対し、23歳のフランク・リベリー、そして26歳のフローラン・マルーダが突っかけていく。そして、彼らのサイドからの仕掛けから生まれた消耗戦は、局地的なものからピッチ全体へと波及していった。

 ブラジルはロナウド、ロナウジーニョが完全に封じ込まれ、カカ、ジュニーニョ・ペルナンブカーノ、ゼ・ロベルトらも速い寄せに苦しむ。フォローすべき両サイドは、フランスの攻勢に引きずり戻され、いつもの分厚い攻撃が影を潜めた。それを尻目にジダンが全盛期を思わせる、キレのあるプレーを連発。時間を追うごとに、フランスの優勢は動かしがたいものになっていった。

 そして前半も残り僅かというところで、ブラジルのチェックを掻い潜ったジダンのパスを、3列目から飛び出したパトリック・ビエラが両センターバックの間隙を縫って突進する。追いかけたブラジルDF・ファンがたまらず、足を引っ掛ける。一発レッドに見えたプレーだったが、スペイン人のレフェリーからはイエローカードが示されたのみ。

 このジャッジにフランス人からだけでなく、スタジアム全体から物凄いブーイングが起こった。本来、自軍の選手を守ってやるべきブラジル人たちは、あまりの劣勢に声を上げることさえできずに、口をつぐんだまま。フランクフルトのスタジアムは、完全にフランスのホームと化した。

 このゲーム唯一のゴールは57分。ジダンが蹴った左からのFKに、アンリがファーサイドで合わせたもの。ブラジルはオフサイドを取りに行ったと伝えられているが、後半早々にも似たような形でビエラにフリーでヘディングシュートを浴びせられていた。プレッシャーのきついゲーム展開の中で、リスタートへの集中力を欠いていたとしか思えない。

 追い詰められたブラジルはアドリアーノを入れていつもの2トップ+ロナウジーニョに切り換えたが、人に強いフランスのセンターバックには却って逆効果だった。途中交代で入ってきたシシーニョのサイドアタックから何本か良い形を作ったが、そこまで。何回か訪れた勝負どころで「ラ・マルセイエーズ」を歌い、自軍を鼓舞したフランスファンの見守る前で、ブラジルの大会連覇は霧散した。



 もちろん、ブラジル人の中にも真剣に戦っていた連中がいた。残り数分で得た絶好のポジションからのFK。隣のブラジル人は自ら座席を立って、スタジアムの柱に向かった。そして何事か呟いて祈り、涙に潤んだ瞳でピッチを見下ろす。そんな仕草を繰り返した彼は、ロナウジーニョの蹴ったボールがバーを越えた瞬間に崩折れて号泣した。

でも、試合後に笑ったのはこっちのふたり。
 ゲームが決着した後、アルゼンチンのユニフォームを振り回しながらブラジル人を煽るふたり組がいた。彼らの暴挙に対して、怒ったブラジル人の中年男性は、止めに入った仲間にも「セレソンのユニフォームを脱げ! こんな侮辱に我慢できるヤツに、そのカナリア色のユニフォームを着る資格はない!」と、身振りを交えて罵り、殴りかかった。暴力や逆切れを肯定するつもりはないが、全員がこれだけのプライドを持って戦えば、こんなにひどいゲームにはならなかっただろう。

 逆にフランス人たちは、前日のドイツ人と同じ様に、希少価値の高い「ゲームを決定付ける声援」を生み出した。彼らは、ブラジルに土をつけた喜び、そして2大会ぶりの優勝を視界に捉えた喜びに酔いしいれながら、いつまでも歌い続けた。

「ア・レ・ブルー! ア・レ・ブルー!」








(ブラジル代表) (フランス代表)
GK: ジダ GK: ファビアン・バルテス (GK)
DF: カフー(76分/シシーニョ )、ルシオ、ファン、ロベルト・カルロス DF: ウィリー・サニョール、リリアン・チュラム、ウィリアム・ガラス、エリック・アビダル
MF: ゼ・ロベルト、ジウベルト・シウバ、ジュニーニョ・ペルナンブカーノ (63分/アドリアーノ)、カカ (79分/ロビーニョ) MF: フランク・リベリー (77分/シドニー・ゴブ)、パトリック・ビエラ、クロード・マケレレ、フローラン・マルーダ (81分/シルヴァン・ヴィルトール)、ジネディーヌ・ジダン
FW: ロナウド、ロナウジーニョ FW: ティエリ・アンリ (86分/ルイ・サハ)
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