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 webnews 06/08/01 (火) <前へ次へindexへ>
2枚目の切符も奪えず。なでしこジャパン、大陸間プレーオフへ転戦。
AFC女子アジアカップ2006 3位決定戦 なでしこジャパン(日本女子代表)vs.北朝鮮女子代表

2006年7月30日(木)12:30キックオフ ハインドマーシュスタジアム 観衆:1,000人 天候:曇
試合結果/日本女子代表2−3北朝鮮女子代表(前1−3、後1−0)
得点経過/[北朝鮮]リ・ウンスク(23分)、リ・ウンギョン(33分、39分)、[日本]安藤(43分)、永里(89分)


文/西森彰

「確かその時は0−3になっていて、残り時間も少なくなっていました。そこで上田(栄治・前日本女子代表監督)さんに呼ばれたんです。たぶん、3位決定戦へ向けてレギュラーを休ませようとしたのと、私に経験を積ませようと思ったんでしょうね」。北朝鮮との想い出を尋ねると、宮間あやは前回大会で対戦した時のエピソードを語り始めた。

「最初のボールタッチで捌いた後にちょっとレート気味に来られて、それで熱くなって蹴り返したんです。そうしたら笛が吹かれて…。カードは出されなかったんですけれども、凄い声で怒鳴られました。相手の選手や監督じゃなくって、味方のベンチから上田さんに(笑)。『馬鹿野郎、お前、殺されてーのか!』って。国際試合のそんな雰囲気が好きですね」

 そんな気性の幼さも上田監督の脳裏に残っていたのか、翌年のアテネ五輪代表で最終合宿まで残りながら、宮間は落選した。大橋浩司新監督のもと、初めての公式大会となった東アジア女子サッカー大会でも、最後のキッカーを任されながら、時間をかけ過ぎて蹴ったと同時にタイムアップ。これまでの北朝鮮戦を思い返して、相当気合が入っていたのだろう。この日の宮間は、なでしこ合流後最高のデキを見せた。

 日本と宮間にとって不幸だったのは、世代交代の進む北朝鮮の中にも、十字架を背負ってこの一戦に臨む選手がいたことである。



 来年、中国で開催される女子ワールドカップ本大会の出場権もかかる、AFC女子アジアカップ2006。日本女子代表は最初にして最大のチャンス、オーストラリアとのセミファイナルを落としてしまった。大会3連覇を狙った北朝鮮女子代表が中国女子代表に敗れたため、3位決定戦の勝利ボーナスとして、もう1枚の切符がぶら下げられた。それでも、試合数、試合感覚、組合せ順と全てにおいて有利だったセミファイナルに比べれば、厳しい条件になるはずだった。

 ところが、北朝鮮チームは、中国とのセミファイナルの中で、細かいミスジャッジにフラストレーションを溜めこみ、よりによって正しい跳ね返りオフサイドの判定にケチをつけて自爆。3人もレギュラーを欠いて、やってきてくれた。出場停止の選手たちはいずれも守備の選手、GKとふたりのDFである。守備陣の欠場は、アタッカーと違ってチームバランスを根底から揺るがせる。それも3人、日本には大きな追い風だった。

 北朝鮮は、この緊急事態に対応するため、それまでの4バックから、約束事が簡単な3バックにシステムを変更。そして前線は北朝鮮の絶対的エースであるリ・クムスクを1トップに置いてプレッシャーをかけるとともに、リ・ウンスクとリ・ウンギョンをそのシャドーストライカー的なポジションで起用。日本の中盤に対応するためミッドフィールドを分厚く作ってきた。

 日本にはふたつの選択肢があった。まず、相手のウィークポイントで仕掛ける、攻撃的なゲームプラン。そして、中国戦、オーストラリア戦同様、攻撃力の高い北朝鮮の攻撃をケアしてまずは守り、後半勝負の守備的なプラン。大橋浩司監督は、前者を採用した。酒井與惠、柳田美幸とゲームを作れるダブルボランチを置き、その前に澤穂希、宮間あやを並べたボックスの4-4-2。しかも右サイドバックに安藤梢を起用した。殴り合いを望む、超攻撃的な布陣である。



 キックオフから20分過ぎまでは、やや落ち着かない北朝鮮を相手に、互角以上の展開を見せた。大橋監督としては、相手が浮き足立っている時間帯に先制点を奪っておきたかったはず。だが、北朝鮮3バックの中央にポジションをとる2番のDFが、素晴らしいカバーリングを見せて日本のシュートの芽を摘んでいく。

 そして喉から手が出るほど欲しい先制点は、日本の手を離れ、北朝鮮にもたらされる。右サイドからのスローイン。エースのリ・クムスクが見せたスルーに、下小鶴綾が引っかかり、一瞬棒立ちになった矢野喬子もリ・ウンスクに振り切られる。全くフリーの状態になったリ・ウンスクは右足のアウトサイドにかけるシュートで、福元美穂のファーサイドを破った。北朝鮮に勢いを、日本には動揺を与えるゴールだった。

 日本も全く無策で臨んでいたわけではない。それまで柳田にほぼ任せていたFKを、オーストラリア戦から、ゴールに近い位置、そしてゴールよりも左の位置では宮間に蹴らせるようにしていた。そして、31分、左のコーナーキックから、宮間が素晴らしいボールをファーサイドの澤へ送る。だが、澤のシュートは、控えGKのイ・ウンピに弾かれ、その後に生起したゴール前の混戦でも、ボールを蹴りこむことができない。

 このピンチを凌いだ北朝鮮はその2分後、キム・タンシルから浮き球でつなぎ、最後は福元とDFの間にリ・クムスクがロブを落とし、そこに突進してきたリ・ウンギョンが福元の頭上をループで破る。さらに、6分後にもリ・ウンスクが磯崎浩美のボールにチャージをかけて奪い、1対1からシュート。福元がこれはパンチで凌いだが、クリアボールは日本DFの間を転がり、フォローに詰めたリ・ウンギョンが再び、ネットを揺らす。均衡を保っていた両チームのスコアは、僅か15分間ちょっとで3点差がついていた。



 疲労の極に達しているはずの最終戦で3点差。一昔前の日本なら、このままズルズルと敗戦を喫していたはずだ。だが、彼女たちは諦めなかった。41分、宮間と大野忍が北朝鮮の左サイドでチェイス。小兵ふたりの頑張りでこぼれたボールを受けた永里優季が、北朝鮮のディフェンスラインをドリブルですり抜けてシュート。左に外れたが、反撃の狼煙を上げる。

 すると、その2分後、宮間の左コーナーキックを粘って2次攻撃につなげ、磯崎のクロスを澤が頭で落とす。セットプレーの流れでここに残っていた右サイドバックの安藤が、GKの動きを見ながら、落ち着いてゴールに流し込む。前半のうちに1点を返した日本は、後半に望みをつなげた。

 大橋監督はハーフタイムを挟み、得点を挙げた安藤、大野を下げ、荒川恵理子と大谷未央のふたりを投入する。もちろん3バックへシステムを変更。右に代わった大谷、左に宮間という両翼からチャンスを作る狙いだ。センターに永里、荒川と大型のFWが並んだことが、ただでさえ不安要素を持っている北朝鮮のDFラインを下げさせる。必死に弾き返す北朝鮮のクリアボールを、柳田と酒井が拾い、宮間からスピードに乗ったクロスが送り込まれる。

 北朝鮮のファールが徐々に数を増やし、そこで得たFKのチャンスに、柳田と宮間の足が痺れるような弾道を描く。完全なハーフコートゲームになった。しかし、なかなかゴールネットを揺らすことができない。ストライカーの習性で中央に引きつけられがちな大谷から、阪口夢穂に代えてサイドアタックを指示する大橋監督。ロスタイムに突入寸前、柳田からの左クロスに永里が頭をあわせる。得点王に並ぶ大会7点目。もう1点!

 だが、北朝鮮も選手交代やセットプレーで時間を使って懸命に逃げ切りを図る。そしてタイムアップ。崩れ落ちるなでしこジャパンの選手たち、そして控えめに喜びを表す北朝鮮の選手たち。その中に背番号2をつけたチャン・オッギョンがいた。2年前の国立霞ヶ丘陸上競技場で12番をつけ、致命的なオウン・ゴールを入れてしまった彼女こそ、最もこの日のゲームに賭けていた選手だろう。



 東アジアに続き、北朝鮮に走り勝ち、そしてチャンスの数も多く作り出しながら、ゲームを落としてしまった日本。試合内容だけを振り返るならば、全く悲観材料がない。アテネ五輪の時のチームと、今のチームが戦えば、試合内容では九分九厘、現在のチームが上回るはず。分厚い世代が育ってきていることを差し引いても、ひとつひとつ個人戦術のレベルアップを図ってきた「チーム大橋」の功績である。しかし、今大会の采配については疑問も残る。

 ほぼベストメンバーの中国に競り勝ち、休養をとったオーストラリアに走り勝ち、北朝鮮を45分間、ゴール前に貼り付けるだけの力を持つチームを率いて、なお、安藤梢のサイドバック起用というギャンブルをする必要があったのか。サイドもこなせるDF・岩清水梓が第1戦で出場していたし、その後もベンチにいたのだ。岩清水で無難にスタートしておいて、安藤をジョーカーとして手元に残せば、対戦相手にも何をしてくるか分からない不気味さがあったはずだ。

 そして強行スケジュールの中で、不出場のフィールドプレーヤー(鈴木智子)が残っていた起用ローテーションに問題はなかったのか。AFCとのレギュレーション確認の手違いに端を発する登録人数の手違いで、フィールドプレーヤーを17人しか連れて行けなかった状況、そしてグループリーグ3戦目の中国戦では交代枠がひとつ空いていたことを考えれば、なおさらだ。その結果、最も大事な最後の2戦で、ケガなどの理由からパフォーマンスの落ちる選手が出てしまった。

 個々の能力を伸ばす、そしてチーム力を上げるという部分において、大橋監督他スタッフの指導力には、全く疑いを持たない。ただし、トーナメントを勝ち抜く上で必要な戦略性があったかどうかには、どうしてもクエスチョンマークが残ってしまうのである。


(日本女子代表) (北朝鮮女子代表)
GK: 福元美穂 GK: ピ・ウンヒ
DF: 安藤梢、磯崎浩美、下小鶴綾、矢野喬子 DF: リ・スンボク、チャン・オッギョン、コン・ヘオク
MF: 酒井與惠、柳田美幸、宮間あや、澤穂希 MF: ホ・スンフィ、チョ・ユンミ、キム・タンシル、オム・ジョンラン、リ・ウンスク、リ・ウンギョン(91分/チョン・ボクシム)
FW: 大野忍(H.T/大谷未央、81分/阪口夢穂)、永里優季 FW: リ・クムスク
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