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 webnews 08/06/08 (日) <前へ次へindexへ>
なでしこ、勝負と実験の狭間に落ちる。
AFC女子アジアカップ準決勝 なでしこジャパン(日本女子代表)vs.中国女子代表

2008年6月5日(木)19:00キックオフ ソンニャット競技場 観衆:1,000人
試合結果/なでしこジャパン(日本女子代表)1−3中国女子代表(前0−0、後1−3)
得点経過/[日本]澤(48分)、WANG DANDAN(63分、68分)、HAN DUAN(75分)


取材・文/西森彰

 もちろん、目の前にある勝負をおろそかにしていたわけではない。

 なでしこジャパンの佐々木則夫監督は、前日記者会見の席で「今の中国に負けていいとは思わない」と口にしていたようだし、前日の最終調整では非公開練習の時間も設けた。チームにプレッシャーをかけ、選手の集中力を高めようと試みていた。実際、それは上手くいったように見えた。

 しかし、早めに試合を決定づけることができず、逆に少ない決定機を生かされての逆転負け。勝ち上がるために最低限の準備をしつつ、このチーム本来の戦い方で北京五輪に向けてのテストを試みた日本は、女子アジアカップの準決勝で敗退した。



 キックオフ時のフォーメーションは、日本が荒川恵理子の1トップ、阪口夢穂の1ボランチによる、4-1-4-1。中国は3ラインの4-4-2。

 日本も、中国も、立ち上がりはリスクを避けて、セーフティーに長いボールを蹴りだす。そしてしばらくすると、ポゼッション勝負に移行し始めた。このパスがどちらもつながらない。日本のパスが、中国の守備網に引っかかる。中国も、日本の早い寄せで、とんでもないパスミスを連発する。ボールの落ち着かないゲームになった。

 佐々木監督は「両チームともキツい中でのゲームだった」と振り返る。グループリーグ3試合を中1日で戦い、そこからさらに中2日(中国は中3日)という強行日程。ほとんど固定メンバーで戦っていた北朝鮮とオーストラリアの第一試合は、ひどい凡戦だった。選手をローテーションしながら戦っている日本、中国も、気候・ピッチを含めて条件は厳しい。

 試合が始まってから10分あたりで、内容への期待は薄れつつあった。

 ところが、時間を追うにつれ、戦況が変わってきた。中国のプレッシャーを、日本のパスワークが上回り始めたのだ。

 まず、何度も激しいぶつかり合いをしてきた荒川とWENG XINZHIの戦いの趨勢が明らかになった。もつれて転がり込んでいたふたりだったが、WENG XINZHIだけが芝の上に這いつくばるシーンが増えてきた。両者のボディバランス、そしてマッチアップの中でのスタミナに差があった。WENG WINZHIに加勢しようとフォローに動いた左サイドバックのZHOU Gaoping、左ボランチのZHANG NAも、なでしこジャパンのショートパスに対処しきれず、徐々に消耗していった。

 日本は、九分どおり勝てる荒川にボールを集め、そのポストプレーからチャンスを作る。2列目の4人が狭い局面で、荒川とのワン・ツーを試み、何度も中央突破を図る。「もちろん『中央で仕掛けたら、次は外。外を突いたら、次は中』というのが理想。ただ、今日、ピッチの中で戦っている選手には、中央にチャンスがあるように見えたんだと思います」(佐々木監督)。

 実際、中国のセンター、そして左サイドは完全に蹂躙されていた。そこに「いつもポジションが下がり過ぎていたので、今日は準決勝だし、どんどん仕掛けていこうと思っていた」という阪口までが、前線に顔を出していく。日本の優位は誰の目にも明らかになった。

 だが、ボクシングなら10対8くらいの大差がついていても、相手ゴールにボールを入れなければスコアにカウントされないのがサッカー。この時間帯に無得点で終わったことが、後々になって響いてくる。



 前半を受けて佐々木監督は、試合内容で完全に相手を上回っていると判断した。そして、ハーフタイムには「最初は中国もハイパワーで来るだろうから、そこはセーフティーに」と注意して送り出した。

 その後半、いきなり、中国に正面の嫌な位置からのフリーキックを与えたが、これを福元美穂がガッチリとキャッチ。リスタートからカウンターに入る。大野忍を経由したボールは「今日は絶対に点を取りたいと思っていた」という澤へ。右サイドの角度がないところではあったが、思い切ってシュートを放つ。これが、相手GKのポジションミスにも助けられて、ニアサイドを破った。

 久しぶりのチャンスに得点できず、そこから30秒も立たないうちに失点。中国の受けたダメージは大きかった。そこを日本の攻撃陣が、二度、三度と襲う。51分には、宮間あやの右コーナーキックが、相手GKの手を掠めて、ファーサイドのポストを叩く。そして56分、澤から右サイドへ流れた荒川へとボールが渡り、このクロスが左サイドに回っていた大野へ。切り返しでディフェンダーを外して打ったシュートは、GKに阻まれてしまう。

「全てが終わってから考えると、ちょっとやり過ぎたのかもしれない。もうちょっと足元でパスをつないで息をいれても良かったのかもしれない。でも、あの時はもう1点取れば終わるという感じだったから……」

 宮間は翌日、そう試合を振り返った。

 中国は息絶え絶えになっていた。だが、日本は相手を完全なサンドバック状態に追い込みながら、勝負を決定づける2点目が奪えなかった。



 ここで中国は勝負に出る。57分、完全に潰されたボランチのZHANG NAに代えて、ZHANG YINGを投入。彼女を右サイドに回し、このエリアで勝負に出る。これがちょうど、日本の攻勢の終局点と重なってしまった。「我々が一定のペースを維持しているのに対して、中国はペースが上がったり下がったりの繰り返し。あるきっかけで足が止まって集中が切れたというのはあると思う」(佐々木監督)

 受けに回らされた日本は、このチームの基本に立ち戻り、パスの出所に複数の選手でプレスをかけにいく。しかし、「中国の中盤の選手はめちゃくちゃ上手かった」と阪口が振り返ったように、フレッシュなZHANG YINGの足技に翻弄される。2枚がかり、3枚がかりでもなかなかボールが奪えず、人数をかけた局面を凌がれては、手薄になったゾーンにパスを通される。

 さらに中国は、疲労が著しかった左サイドハーフGU Yashaに代わって、WANG DANDANを送り込む。「うまくいかない時間帯に、もう少し指示しておけばよかった。あれだけ1.5列目、2列目の選手にドフリーで前を向いて仕掛けられると、こっちとしても下がらざるを得ない」と池田浩美。中盤でボールを奪えない以上、DFラインの手前まで2列目を下げて、リトリートするやり方もあった。

 劣勢に置かれても、佐々木監督は動かない。いや、動けなかったのかもしれない。この短時間で、立場が180度変わるとは誰も考えていなかっただろうし、急ピッチで始めたサブの選手のアップも十分ではなかった。

 そして崩壊が始まる。

 63分、左サイドからXU YUANに突破されて、ペナルティボックスに入られ、あわやPKというシーンを作られる。そして、タッチに逃れたところからのリスタートで、再びゴール前にボールを運ばれ、最後はWANG DANDANに同点ゴールを蹴り込まれた。湧き上がって喜ぶ中国のベンチ。何しろ昔はカモにしていた相手から4年間無得点、5試合ぶり(2004年4月26日・アテネ五輪予選)に挙げたゴールである。

 その後、嵩にかかって攻めてくる中国に、67分、佐々木監督は疲れの見えた柳田美幸を宇津木瑠美に交代。左サイドに蓋をしようとした。これだけ、ゲームが激しくなってくると、途中から最終ラインに入るのは厳しい。宇津木がまだゲームに入りきれていない、交代直後の68分だった。岩清水梓とボールを奪いにいったところで、ZHANG YINGに裏を取られる。日本の左サイドを気持ちよく疾走したZHANG YINGは、中央へ折り返す。フリーで待っていたWANG DANDANが、再び日本ゴールを陥れた。

 傾きかけた試合の流れは、ツキも含めて中国へ移っていく。75分、右から上げたハイクロスは、日本ゴールのファーぎりぎり、絶妙なコースに飛んでいく。GKの福元美穂が何とか手の先で弾いてポストに逃れたが、このリバウンドも中国のエース、HAN DUANの足元へ。日本DFが反応するよりも早く蹴り込まれ、致命的な3点目を失った。

 その後、日本は交代出場の丸山桂里奈にボールを集めた。フラフラになっている中国DFに勝負を挑ませ、丸山も深い位置まで切り込んだが、足が上がった周囲の選手はフォローに行けず。得点には至らなかった。



「今大会は五輪に向けた準備ということは分かっているんだけれども、東アジアの優勝が嘘だとは思わせたくなかった」という澤の言葉が、今大会に向けた日本のスタンスを物語っていると思う。

 単純にこの試合を拾うことだけを考えれば、前半から飛ばしていた中盤の運動量が落ちることを想定し、ワイパー役をこなせる加藤與惠の準備を早めていただろう。また、ハイペースな試合展開を考えれば、1枚目のカードが67分というのも遅すぎた。

 しかし、このゲームを含めて五輪までに4試合しかないことを思えば、計算が立つことよりも未知の部分をチェックしたくなるのが人情だ。

 セーフティーにボランチの位置へ加藤を入れて、バイタルエリアを固めるという策もとれた。前半から、これまでとは見違えるような積極性を見せていた阪口が、どこまで持つのか見てみたいという誘惑もあったはずだ。事実、阪口は「飛ばしていった分だけ、最後はバテて守れなくなりましたが、だいたいスタミナ配分がわかりました」と五輪に向けての収穫を口にしている。

 試合後のミックスゾーンでは「昨日の(非公開)練習も、ちょっとハードだったかも知れない」という声も出ていた。連戦続きの大会の中で、コンディションを調整するのではなく、敢えてハードな負荷をかけて試合に臨んでいたのだ。思い返せば、昨年のアジアカップでも、イビチャ・オシム監督は試合前のアップ時間さえ、ハードな練習を行っていた。目の前の試合だけを考えれば無謀極まりないが、五輪のハードスケジュール、厳しい試合展開を睨んだ上で、どこまで選手たちが耐えうるかを測っていたのではないだろうか。

「相手の攻勢に手を打つのが遅れた。勝ちうる試合であるにも関わらず、相手の流れの時に抑えきれなかった。非常に反省の残るゲームだと思います」

 試合後の会見で出た佐々木監督の言葉は本心だろう。ただ、アジアカップのタイトルと2ヶ月後の五輪のどちらに比重を置いていたかは、微妙なところだ。



 依然として、解決しきれていない課題もある。

 この日の失点は、サイドを破られて中央に折り返され、ゴール前では相手のアタッカーを捕まえ切れなかったものだった。だが、監督、選手とも、近視眼的にそこを問題視するよりも、そこに持ち込まれるまでの流れを修正点として口にした。ゾーンディフェンスのマイナス面が出たというより、設定しているゾーンでボールが奪えなかったことに問題があるということだ。

 宮間が修正点として挙げたのは「プレスバックのポイントやタイミング、人数のかけ方」。そういったことは、試合を数多くこなすことでしか身に付かない。繰り返しになるが、大会前の国際試合は残り3試合。3位決定戦でも、五輪に向けたシミュレーションの場として活用し、そのうえで結果を残してほしい。

 対戦相手は佐々木監督が「アメリカ、ノルウェー、ニュージーランドと似たような、強いフィジカルを持っているチーム」と大会前から対戦を楽しみにしていたオーストラリアになった。残り少ない模擬試験の一つとして最高の組み合わせである。


(日本女子代表) (中国女子代表)
GK: 福元美穂 GK: ZHANG YANRU
DF: 近賀ゆかり、池田浩美、岩清水梓、柳田美幸(67分/宇津木瑠美) DF: LIU HUANA、LI JIE、WENG XINZHI、ZHOU Gaoping
MF: 大野忍(84分/北本綾子)、澤穂希、阪口夢穂、宮間あや MF: PE WEI(85分/QU FEIFEI)、BI YAN、ZHANG NA(57分/ZHANG YING)、GU Yasha(60分/WANG DANDAN)
FW: 荒川恵理子、永里優季(75分/丸山桂里奈) FW: HAN DUAN、XU YUAN
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