| |top|news|column|history|special|f-cafe|about 2002w|BBS|mail to|link| |
| webnews 11/10/3 (月) | <前へ|次へ|indexへ> |
なでしこ、、堂々の戦いで再び世界へ
Playback 五輪アジア地区最終予選
文/西森彰 写真/金子悟
ロンドン五輪出場をかけたアジア地区予選は中国の済南で開催。9月1日に開幕し、11日までに5試合をこなすハードな日程が組まれていた。
日本の第1戦はタイとのゲーム。代表クラスの選手でも、サッカーとフットサルを半年ずつプレーする選手が多いタイは、細かい足技には長けている。だが、これまでの実績や、世界大会の経験などを踏まえれば、6か国中最も力が劣る。日本を含む、他の5チームにとっては、いかにダメージを残さず、勝ち点3を奪い、得点を上乗せできるかがポイントだ。
佐々木則夫監督は、澤穂希ら中盤のレギュラーをそっくりはずして臨んだ。右から高瀬愛実、田中明日菜、宇津木瑠美、上尾野辺めぐみ。ディフェンダーは女子ワールドカップ決勝で退場処分を受け、出場停止の岩清水梓に代わって矢野喬子が先発し、その他の3人はレギュラー。GKは福元美穂。2トップには永里優季、川澄奈穂美が入った。
なでしこリーグ選抜とのチャリティマッチで、主力組を下げた後半に大苦戦したことを踏まえて、どこまで替えるか、どこを替えるか。独力でゴールを奪える永里、川澄を最前線に置き、後ろもレギュラーに加え、北京五輪まで主力となっていた経験豊富な矢野と福元。佐々木監督としては、仮に中盤が機能しなくても、前後に保険をかけておけば、事故は起こらないと考えてのことだったのだろう。
だが、うまくいかない時に「心配するな、落ち着け」と声をかけることができるムードメーカー、大野忍や宮間あやを出しておく必要はなかったか。最初に訪れたいくつかの好機でゴールを奪えないと、日本の選手からは余裕が失われていった。「(世界一になったのだからアジアは大丈夫という声が大きいが)そんなに簡単なわけないですよね」と語っていた宇津木を始め、大会での役割の大きさを自覚するが故に、いつもの積極性が影をひそめる。逆に、タイは時間とともに心理的プレッシャーから解放されていく。膠着状態に陥った前半は、まさかのスコアレス。
佐々木監督は、焦れたように後半最初から、宮間あやを投入。すると、戦況は一変する。立ち上がりのように1タッチ、2タッチのプレーが戻り、タイのディフェンスが対応できなくなっていく。61分、上尾野辺のクロスに川澄が合わせて先制すると、日本の選手にようやく余裕が戻る。さらに75分に田中の代表初ゴールで2点目。ロスタイムに途中出場でリズムを変えた大野のシュートが誘ったオウンゴールで3点目。結果としてはまずまずのスタートを切った。
第2戦で当たった韓国は、苦手としている中国との開幕戦でドロー。手負いの状態で日本とのゲームに臨む。中国、日本、北朝鮮と中1日で戦い、中2日でタイ、中2日でオーストラリアというスケジュールの韓国は、予選突破を狙う5か国で最も厳しいスケジュールだった。このゲームにしても、初戦で主力の多くを休ませることができた日本に対して、中国と戦ってきた韓国はフルタイムを戦えば、不利は明白。
そうしたこともあり、韓国は、チャリティマッチでなでしこリーグ選抜を率いた星川監督の采配を焼き直した。前半は抑え気味にスタートして凌ぎ、勝負所で選手とフォーメーションを変更する。その前半、なでしこジャパンは阪口夢穂のヘディングシュートで先制。コンディションの悪いピッチ条件にミスが重なり、チ・ソヨンに同点ゴールを奪われたが、大野忍の勝ち越し弾で2対1とリードする。
後半、日本は韓国のペースアップに苦しんだ。前半とは動きの違う韓国の出足に負けて、完全に受け身になる。しかし、リーグ選抜戦の時とは違い、澤、宮間、岩清水らが最後までピッチに残っていた。歴戦の兵たちは、苦しい時間帯を凌ぎ切る方法を知っていた。韓国の反撃に押されながらも最後まで2点目を許すことなく、逃げ切りに成功。白星を並べた。
そして大方が最大の決戦と見ていたオーストラリア戦を迎える。2ヶ月前のドイツで、スウェーデンの記者は五輪のアジア予選を予想した。「日本とオーストラリアだろう。日本はいいサッカーをするし、オーストラリアにはいいフォワードがいる。北朝鮮? ノー、スペシャリティ」。グループリーグで北朝鮮、ノックアウト・ラウンドでオーストラリア、日本と対戦したスウェーデンとの比較から導き出された回答だった。
北朝鮮、タイ、日本、中国、韓国という対戦順のオーストラリアは、5試合全てをナイトゲームで戦える中国の次に恵まれたスケジュールだった。だが、オーストラリアは北朝鮮との重要な一戦を落としてしまう。ターンオーバーした第2戦は、タイに5対0と大勝。日本は、韓国戦から48時間未満でのゲーム。厳密にはFIFAのトーナメント規定に抵触する殺人的スケジュール。オーストラリアにとっては戦線復帰にこれ以上ないシチュエーションが用意されていた。
だが、最も苦戦が予想されたこのゲームこそ、今大会、なでしこジャパンが最も高パフォーマンスを出したゲームとなった。オーストラリアは、2トップがディフェンスラインの横パスにプレッシャーをかけ、8人が自陣に網を張る。日本がワールドカップで唯一の敗戦を喫したイングランドの戦い方を真似てきたのかもしれない。
「向こうが出て来ないなら、こちらも無理に行かず、後ろで回していればよかった」
イングランド戦後、ビデオを見直して反省した岩清水らにとって、そうした相手の出方に対する答えはもう見つかっていた。ピッチの悪さを計算に入れて、浮き球を織り交ぜてあしらう。ドローを受け入れられたイングランドに対して、この日のオーストラリアは引き分けすら受け入れ難い勝ち点状況になっている。焦れて中途半端にボールホルダーへ寄せたところをダイレクトパスで交わされ、徐々に運動量も落ちていく。
日本の得点は川澄の1点に留まったが、数多くのチャンスを作りながらゲームを完全に支配。デ・バンナの負傷が攻撃から迫力を奪っていたのは事実だが、このスケジュールでこの内容では、オーストラリアが事実上の敗退に追い込まれたのも仕方がない。逆に日本は、3連勝で予選突破に早々と王手をかけた。
ロンドンへの切符がかかった4戦目は、北朝鮮とのゲームだ。ほとんど得るところなくドイツ女子ワールドカップを終えた北朝鮮は、同大会でのドーピング違反により、次大会への参加資格を失った。同時に5名の選手が出場停止処分を受けている。
こうした苦境の中で北朝鮮は、指揮官も交代し、背水の陣でこの五輪予選に臨んだ。その気合いもあってか、オーストラリア、中国、韓国という3連戦で勝ち点7を積んできた。試合開始前の勝ち点では日本の9に対し、7と劣るが、最終戦の対戦相手はタイ。約束された勝ち点3を加えると、日本に引き分け以上の結果でロンドン行きの切符が舞い込む。
逆に、まだ目の残っている中国との最終戦を残した日本は、このゲームに勝つことがロンドン行きの切符を獲得する条件。両チームの置かれた状況を考え、日本が攻め、北朝鮮が受ける展開を予想した。しかし、キックオフから主導権を握ったのは北朝鮮だった。スタミナ面では1試合分の不利があったが、オールコートでボールを追い、ピッチコンディションから大事にボールを回そうとする日本にペースを与えない。
北朝鮮の動きは、明らかに日本を上回っていた。これは、次を考える必要のない北朝鮮と、最悪の事態への配慮も必要な日本との、リスクの大小も影響していたのではないだろうか。ゴールを奪うのが先か、それとも足が止まるのが先か。そんな覚悟で北朝鮮の選手はピッチを駆ける。イエローカードを受けた選手をベンチに下げ、さらにフレッシュな選手をピッチに送り出す。日本は大苦戦に陥った。
閉塞した状況を打開したのは、日本で最もFWらしいFW・永里優季。岩清水から入ったピンポイントのパスを受けた永里が、強烈なシュートを見舞い、GK・チョ・ユンミのファンブルしたボールがディフェンダーに当たってゴールへ転がり込んだ。83分の先制点。ロンドンへのチケット発行まであと約10分となった。
ここまでいいゲームをしていただけに、オウンゴールは大きなダメージを北朝鮮に与えた。赤いユニフォームは、心が折れかかっていた。日本の選手もそれを実感したのか、それまでの劣勢が嘘のように溌剌とプレーし始めていた。2点目はほどなく生まれそうだった。ところが、このまま1点差を守り切ろうと佐々木監督は考えた。今回の予選で最も大きなプレッシャーを受ける立場としては理解できなくもない。
そしてコーナーキックのチャンスに、ショートコーナーでのボールキープを命じる。一拍あってベンチの指示に従った選手たちだが、この時間稼ぎはまた、北朝鮮にメンタル回復の時間を与えることにもなってしまった。息を吹き返した北朝鮮の逆襲を耐えきれず、ロスタイムに失点。守り倒しに入りながら、2枚残っていた交代カードは最後まで使われなかった。似たような状況のドイツ戦で見せた宇津木の働きを思い返すと、それが惜しまれてならない。
その後、中国がオーストラリアに敗れたため、最終戦の結果を待たずに予選突破が決まったが、後味の悪さは残った。
最後の中国戦は、これまで出場機会の少ない選手を中心に臨んだ。大会規定の変更を恐れたか、イエローカードをもらっている熊谷、澤を温存。イエローカードを貰った宮間も前半で下げる。視線がその先を見据えている日本に対して、中国はせめていい形で大会を終えたい。シュイ・ユアン、ハン・ドゥアンらベテラン勢を中心に、シュート数、コーナーキック数、そして手元集計の決定機のいずれも中国が上回った。
そうした難しいゲームで、控え組の健闘が目立った。中でも目を引いたのが、最後尾で好セーブを見せた福元美穂、最前線に復帰した高瀬愛実だ。ゴールを任された福元は、タイ戦に引き続き、無失点で大会を終える。FIFAのU-20女子ワールドカップで配布された資料ではブラジルのマルタらと並んで、歴代大会出場選手ベストイレブンに選出されているが、その実力を遺憾なく発揮。女子ワールドカップで成長を見せた海堀あゆみ、今大会にはケガで参戦できなかった山郷のぞみと共に、GK陣の分厚さを見せた。
また、攻撃面では「ほとんど白紙」の右サイドハーフから本来のフォワードに戻された高瀬は、積極的に仕掛けた。雨中のゲームも自ら「持ち味は泥臭さ」という高瀬には合っていたのかもしれない。連携面では、まだ課題を残っているが、闘志というか、対戦相手に向かって行く姿勢を取り戻したのは心強かった。一進一退の攻防が続いた57分、コーナーキックからのこぼれ球を田中が蹴り込み、これが決勝点。日本は最終戦も勝利で終えた。
結局、なでしこジャパンは、5試合全てで先制点を奪い、4勝1分けの勝ち点13。6チーム中首位で予選通過を決めた。手にした結果は最高のものと言える。これまで佐々木監督が課してきたハードトレーニングも、こうした互いに手かせ足かせをつけられた勝負で、モノを言った。
当事者は、今ひとつの内容面に目を向けているようだが、外の人間としてはきっちりと世界大会の切符を勝ち取った点を評価したい。W杯終了後のお祭り騒ぎに始まり、大会へ向けてコンディション調整は難しかったはず。世間のハードルは一気に上がっていたし、プレッシャーもそれと共に大きくなっていた。そんな中、日程やピッチ状況を言い訳にすることなく、堂々と5試合を乗り切った。
もちろん、来年の五輪へ向けていくつか課題は残っているが、それはこれからの半年で解決すればいい。今はそのスタートラインにたどり着いたことを祝いたい。
| <前へ|次へ|indexへ> |
| |top|news|column|history|special|f-cafe|about 2002w|BBS|mail to|link| |