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 webnews 12/01/26(木) <前へ次へindexへ>
新時代の到来。INACがが頂点に
第33回全日本女子サッカー選手権 決勝 INAC神戸レオネッサvs.アルビレックス新潟レディース

2012年1月1日(日)10:30キックオフ 国立霞ヶ丘陸上競技場 観衆:20,977人
試合結果/INAC神戸レオネッサ3−0アルビレックス新潟レディース(前半1−0、後半2−0)
得点経過/[INAC]南山(44分)、高瀬(51分)、田中(70分)


取材・文/西森彰

 2001年創設のINAC神戸レオネッサと、2002年創設のアルビレックス新潟レディース。2000年代に入ってから誕生したニューカマー同士の対決が、日本サッカー界に2012年の幕開けを告げた。

 昨年のチャンピオン・INACが全日本女子サッカー選手権に参戦したのは2004年の第26回大会から。ここでは日テレ・ベレーザに0対3と健闘。翌シーズン、なでしこリーグに参戦すると、一年先輩にあたる新潟との昇格争いを制して1部昇格を決定。だが、同年末の全日本女子で、ベレーザに0対8と力の差を思い知らされた。

 当時のベレーザには澤穂希、大野忍、近賀ゆかりがいたが、INACの出場選手で残っているのは米津美和ひとり。その米津もキャリアの終盤になって、全日本女子選手権とリーグタイトルを獲得した。「想い出に残っている試合はベレーザ戦。リーグ戦で最初に対戦して負けた試合(1対8)や、初めて勝った試合。やっぱり、ベレーザ絡みが多いですね」。この試合を最後に引退が決まっている米津は、ベンチからチームメートを見守った。

 なでしこリーグに入ったのは新潟が1年早い。前年度に北信越リーグで8戦全勝、全日本女子選手権の北信越ブロック予選も3戦全勝。11試合で102ゴールを奪い、失点僅か3で、2003年シーズンの第25回全日本女子サッカー選手権に参戦した。ルネサンス熊本を破り、連勝記録を伸ばした新潟を止めたのは、スペランツァF.C.高槻。新潟ゴールにはナンバー入りのゼッケンをGKユニフォームに縫いつけた本木可奈が、高槻ゴールには、現在、新潟で後進の指導にあたっている轟奈都子が立っていた。

 チーム創設当初から新潟と共に歩んできた川村優理は、地元新潟国体以来、ようやく巡ってきた全国制覇のチャンスに「昨日は9時頃に寝て、今朝は5時半に起きました」。心身ともにコンディションは万全。ピッチに入った新潟のイレブンは円陣を解くと、いつものように全速力で四方に散っていった。



 新潟は、チームとして大舞台の経験に乏しい。これまでタイトルマッチの決勝にまで勝ち上がったのは、地元国体だけ。そこでも、緊張から自滅し、力の半分も出すことなく敗れ去っていた。だが、この日の新潟は抜群の出足を見せた。フォーメーションはINACの4−1−2−3に対して、新潟は4−4−1−1。厚めにした中盤でINACの心臓部である「1−2」、すなわち澤穂希、南山千明、チ・ソヨンに自由を与えない。

「頭からボールを奪いに行っても、テクニックではがされてしまう。そこで、むやみに飛び込まないで要所で人数をかけてとりにった」と新潟の奥山達之監督。最終ラインを押し上げることで、コンパクトに布陣し、網の目を狭める。強引に中央突破を図ろうとすると2枚がかり、3枚がかりでこれに対応し、中央突破を許さない。前半20分まではほぼ五分の展開。ディフェンスに限っては、よくやれていた。

 問題は攻撃だった。今大会に入ってからの新潟は「ノックアウト方式であることも考えて」(奥山監督)取り入れたロングボールが、機能していた。準々決勝の浦和戦、準決勝のベレーザ戦と、1トップに入った菅澤優衣香が後方からのボールを収め、戦いを有利に運んだ。結果を出すことで、選手たちもこれに良いイメージを持っていた。

「自分たちの気持ちの持ち方や試合への入り方は、これまでと変わらず良かったと思います。ただ、奪った後のボールの質は少し悪かった。もうちょっと落ち着いてつなげれば、もっと自分たちの時間もできたと思いますし、そこが課題」(大友麻衣子・新潟)

 この日は相手ボールを奪った後の菅澤へのフィードが、正確性を欠いた。アバウトに蹴られたボールが多かったのは、INACからのプレッシャーにも起因していた。甲斐潤子、田中明日菜と刺し違えさせる覚悟で菅澤が走り、ルーズボールの追いかけっこで競り勝っても、孤立する局面が目立つ。理想の位置と違うところにポイントができても、フォローが間に合わない。守備に人数をかければ、相手に自由を与えないかわりに、自分たちの攻撃が手薄になる。

 それでも、新潟が勝つためには、全体で五分に渡り合っている時間帯にゴールが必要だった。11分に相手ゴール前で得たシュートチャンスや、17分に得たFKで、菅澤や上尾野辺めぐみが1点決めていたら、また展開も変わっていたかもしれない。



 新潟のプレスに手を焼いたINACは、20分過ぎの波状攻撃を退けられると、スペースのできないミッドフィールドをすっ飛ばし、3トップに直接ロングボールを当て始めた。22分に大野忍、31分、32分と川澄奈穂美が抜け出し、シュートを放つ。口木未来、東山真衣子らが懸命に対応し、攻撃を跳ね返すと再びラインを高く保とうとする。そこにまた、ボールが落とされ、INACの俊足フォワードが襲いかかる。

「裏を狙われたら、ディフェンスライン全体が下がってしまう。そうされたら負けなので『怖いだろうけれども、絶対に下げないで』と指示しました」(大友・新潟)

 敗れた時のリスクは、チャレンジャーの新潟よりも、INACのほうが大きい。前日夜に主力選手が紅白歌合戦のオープニングゲストとしての出演もそのひとつ。実質的な就寝時刻は新潟の選手たちと小一時間ほどの違いしかなく、一方で有形無形のメリットも確かにあった。そして「世間に女子サッカーをアピールしつつ、試合でも結果を残す」が今シーズンのINACのスタイルだった。だが、それは勝っているからこそ許されることでもある。

 延長のない90分限りの勝負でありPK戦は避けたい。また、チーム最大の功労者である米津をピッチへ送りだすためにも、早めに大勢を決したい。「何とか前半をゼロで抑えたかった」(川村)新潟と同じくらい、INACも先制点が欲しかった。

 膠着状態を打ち破ったのは、世界一の戦術眼だった。前半も残り僅かという時間帯のセットプレー。田中明日菜との競り合いで頭を負傷した上尾野辺が、ピッチに戻ってきた。戻ってくるチームメートに目をやった新潟の選手たちが、集中力を一瞬、切らした。その瞬間、壁を巻くようにして澤穂希が走り込んできた。

「(相手選手と)もつれる格好になって『ファールだ!』と思った」(澤)が、チ・ソヨンのふわりと落としたボールにタッチして、すぐ脇にできたスペースへ落とす。澤への対応が遅れた新潟の選手たちは、南山千明がボールを押し込むのを見送るしかなかった。勝敗の行方を大きく左右する1点がINACに入った。



 今季のINACは、リードを奪っても次のゴールを目指す、攻撃一辺倒のスタイルで戦っていた。だが、この日は攻守のバランスがとれていた。そこには星川敬監督以下、リーグ戦での引分けに対する世評への不満があった。

 サッカーには内容と結果がかい離したゲームはいくつもある。福井で行われたなでしこリーグのINACと新潟のゲームもそのひとつ。INACが初めて勝ち点3を奪えなかった試合だが、内容は今シーズン屈指のものだった。後半の半ばまで長短のパスをつないで新潟を圧倒。気分良く飛ばした分だけ足が上がり、そのまま次のゴールを目指した結果、ひとつのファインゴールとふたつのプレゼントパスが重なって引分けになった。

 対戦相手の新潟にも目立ったミスは数えるほどで、決して悪いデキではなかった。それだけINACのパフォーマンスには価値があった。だが、外の人間は、結果を重く見る。世間から見れば、INACの対戦相手は「リーグ戦で初めてINACから勝ち点を奪った新潟」であり「0−3から追いついた新潟」だった。

「3−3というゲームでしたが、我々が悪かったわけでもなく、新潟の作戦がハマったわけでもありませんでした。それを証明したかったので、今日はリスクをかけずに戦いました」(星川監督)

 新潟の奥山監督は「ファーストパスの精度を上げないことには、ロングボールでもショートパスでも、相手に奪われてしまう」と注意し、一年間、目指してきたつなぐサッカーで、勝負を試みた。だが、先制点を手にしたINACは無理をせず、状況に応じて戦える。リードされている新潟がバランスを崩して勝負に出れば、待ちうけるINACのカウンターは切れ味を増す。

 49分、川澄がペナルティエリア内で立て続けにチャンスを得ると、50分、大野から右サイドに開いた南山へボールが渡る。南山のクロスはファーサイドに流れ、これを口木が戻りながらの難しい体勢からクリア。これが右サイドからゴール前に詰めてきていた高瀬に渡ってしまった。準決勝前後に風邪で体調を崩しながら、出場を止められるのが怖くて体温計も手にしなかったなでしこジャパンの一員は、このチャンスを逃さなかった。

「良かったです。右サイドに回ってから、すぐに試合に使ってもらえたし、新鮮な気持ちで楽しみながらプレーできています。それが結果につながっているのだと思います。3トップの右ですけれどタイプ的にはフォワードですし、監督からも『左サイドからのクロスにはどんどん飛び込んでいくように』と言われています」(高瀬)

 このゴールは、1年間、いろいろな悩みを抱えながら戦ってきた高瀬へのプレゼントだったのだろう。

「優勝したいという気持ちはありましたけれども、それと同じくらい、先輩の米津さんに素晴らしい舞台で引退してもらいたかったのです」という高瀬のゴールが決まり、スタンドのINACサポーターからは「米津コール」が起こる。意地にかけても、勝負にこだわる星川監督はなかなか動かない。負傷していた頭で合わせた田中のゴールで3点差としても、戦況を見極める。そして、先発組にもようやく疲れが出始めた79分、いよいよ背番号14を投入した。

「(スタンドからの米津コールは)そりゃ、聞こえていましたよ。『もう、いいよ。ちゃんと出るから』という感じで『嬉しいのだけれど、ちょっと恥ずかしい』みたいな(笑)」(米津)

 花を持たせようとするチームメートから、次々にボールが供給された。「米津が引退することもありますし、このメンバーでやるのも最後のゲーム。米津に有終の美を飾らせてやりたかったですし、最後はボールを集めました」と澤。ロスタイムに川澄がお膳立てしたゴールチャンスを決めきれなかったのはご愛嬌。全日本女子、なでしこリーグ、全日本女子とタイトル3つを立て続けに獲得し、現役を退いた。



「この大会で浦和、ベレーザ、INACと、どうしても戦いたかったチームと戦えました。このINACにも相手の勢いを止めて戦おうと思っていましたが、さすがにリーグ女王。なかなか私たちがやりたいことを出せずに終わってしまったという感じです。日本一を目指して戦ってきましたが、ウチのサポーターは日本一。優勝は逃しましたがサポーターは日本一だったと思います」

 新潟の奥山監督はチームとして今後の課題を認めながら、遠路駆けつけたサポーターの献身に感謝し、称えた。「私自身はなでしこジャパンの合宿などに参加させてもらったことも影響していると思います」と川村が言うように、個々の選手としては大舞台を踏んだ選手も揃ってきた。だが、チーム全体としてキックオフから怖気づくことなく戦えたのは、間違いなくスタンドから送られる大きな声援のおかげだったと思う。

 同時に、この日の前半のような戦いができるチームが、毎年のようにリーグ終盤に理解不能な大崩れを繰り返してしまってはいけない。戦力的にも上位に定着できるだけのものがあり、今後はモチベーションの波が無くなるよう、メンタル面の強化に努めてもらいたい。その点で、この大会でファイナルまで勝ち上がったことが、今後の糧となればいい。

 星川監督は、石橋を叩いて渡る采配で、INACの監督就任後、公式戦25戦無敗を飾った。「もう、国内で無敗とか全勝とかではなく、世界へチャレンジしていきたい」。年明けにはスペイン遠征や、中国での日中韓ローカルトーナメント、アメリカのクラブとの合同合宿など、世界と競う場も多い。それらが今夏のロンドン五輪に向けてプラスになることも多いだろう。

 ただ、ビッグクラブを名乗る上では一時的な瞬間最大風速だけでなく、その勢いをどれだけ長期間維持できるかも問われる。来シーズンは再びオリンピックという代表スケジュールが組み込まれ、なでしこジャパンを抱えるチームは調整が難しくなる。また、降格が復活し、下位チームも今シーズンのように無抵抗ではなくなるはずだ。タイトルホルダーとして先輩にあたるベレーザや浦和は言わずもがな。

「これから『INACには負けたくない』というチームが増えるかも知れませんが、競技力アップの意味ではいいこと。自分たちは追われるプレッシャーの中で、やりたいサッカーを貫いていければと思います」(澤)

 タイトルは勝ち取るよりも、守り続けるほうが難しい。INACに、その警句を思い出させるようなチームが増えていくことを2012シーズンに期待したい。


(INAC神戸レオネッサ) (アルビレックス新潟レディース)
GK: 海堀あゆみ GK: 大友麻衣子
DF: 近賀ゆかり、甲斐潤子、田中明日菜、那須麻衣子 DF: 口木未来、中村楓、東山真衣子、山本亜里奈
MF: 澤穂希、南山千明(79分/米津美和)、チ・ソヨン(87分/クォン・ウンソム)、高瀬愛美、川澄奈穂美 MF: 川村優理、阪口夢穂、佐伯彩(66分/平井咲奈)、上尾野辺めぐみ、上辻佑実(66分/大石沙弥香)
FW: 大野忍 FW: 菅澤優衣香
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