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 Road to Beijing 07/06/02(土) <前へ次へindexへ>
Road to Beijing: 国立の魔法
アジア女子サッカー2008最終予選(北京オリンピック2008最終予選)


文/西森彰

「日本女子代表史上最高のサポートを受けたこのチームなら、絶対に北朝鮮に勝てる。もう『挑戦』する時代は終わった。明日からは『対戦』だ。仰ぎ見て戦う相手でも、決して勝てない相手でもない。それを確認するために、そして日本女子代表がアテネへの切符を勝ち取る瞬間を見るために。さあ、国立へ行こう!」

 2004年4月23日の深夜、つまり、アテネ五輪の切符を賭けた決戦前夜に入稿したレポート末尾の部分である。いつもながら、こうやって勢いのままにキーボードを叩いてしまったものを見直すと結構、恥ずかしい。特に「絶対に勝てる」っていったい何だ。「絶対」があるなら、その時点で勝負事ではない。

 度重なる合宿取材を通じて、歴史的勝利がもたらされることを予感していた。そこで「絶対」とまで言い切ってしまったのは「このチームはできるだけのことは全てやった。これで負けたら、相手が強かったんだ」という吹っ切れた気持ちと、「これで負けたら、どうなっちゃうんだ」という恐れを打ち消そうという気持ちが、ごちゃ混ぜになった結果だった。

 そして試合当日、JR千駄ヶ谷駅の改札を出て、日本サッカーの聖地に向かう青い波を目撃した瞬間、予感は確信に変わった。



 試合前から異様な雰囲気だった。入場ゲートでは機動隊が集結し、入念な荷物チェックが行われた。メインスタンドから見て右側に陣取った数千人単位の真っ赤な集団が、試合前から声援を送る中、青い集団はジッとエネルギーを溜め込んでいた。選手入場、両国国歌という流れの中で、テンションが徐々に上がっていく。キックオフ直後、北朝鮮ボールを奪い返した澤穂希のショルダーチャージ、当たり損ないになった大谷未央のシュートという一連のプレーで、あっという間に最高潮へ達した。

 対戦相手は女子サッカー界におけるアジア最強チームにして、政治・外交でも仮想敵国の第一候補に挙げられるであろう北朝鮮である。いろいろな意味で世間の注目は集めていたし、試合中継担当局のテレビ朝日も、事前から宣伝番組をいくつも流していた。そして、各チームの関係者や、サポーターの草の根的運動もあった。

 最もアクセス人口が多く、最もモチベーションを上げ易いスタジアムで、土曜日の7時過ぎに行われるゲーム。しかも、同時刻に行われる首都圏のJリーグ開催は、平塚競技場で行われている1試合だけ。これだけ後押しする要素が多くて、観客が増えないわけがない。それでもなお、女子サッカーの単独試合開催で3万人が入るとは全く想像ができなかった。

 それまで100人に満たない観客の中でボールを追っていた選手たちは、それこそ桁の違う声援に奮い立った。そして、強行スケジュールの中で疲れ果てたようにプレーするA代表を見てきたサポーターたちは、選手交代さえ走って行う、名前もよく知らない選手たちのプレーに声を振り絞った。選手とサポーターが見せるパフォーマンスの競演は、やがて勝利を目指して一丸となった共演に変わり、そして勝利の瞬間、見ず知らずの隣同士が肩を叩いて喜びあう狂宴となった。

「えー、思いもよらない3対0という結果でしたけれども、その要因はいくつかあると思います。まず選手たちがひたむきにプレーしたということ。それと自分のことでなんですけれども(笑)、我々のチームのスタッフが役割を全うしたということ。そして日本サッカー協会が女子のサッカーに本格的に取り組んでいるということ。そして、こうして来てくれたサポーターの皆さん、メディアの皆さん、本当にありがとうございました」

 用意されたマイクスタンドの前で挨拶を済ませた指揮官に、選手からはペットボトルの水が、スタンドからは「上田ニッポン」のコールが浴びせられた。



 あれから3年が過ぎ、挑戦者であった日本女子代表には「なでしこジャパン」という愛称が付けられ、ライバルに胸を貸す立場へポジションが変わった。

 2007年6月3日(日)、19時過ぎキックオフ予定の北京オリンピックアジア地区最終予選第3戦。対戦相手はグループ最大のライバル・韓国女子代表だ。韓国は北朝鮮とオーストラリアが同居している別グループを避けるために、最終予選前の香港とのゲームでわざわざ敗れて、こちらのグループに回ってきた。「日本、与しやすし」。そんな彼らの幻想を木っ端微塵に打ち砕いてやりたい。

 ここまでグループリーグで2戦2勝の日本に対し、韓国はタイに敗戦を喫し、後がない。このゲームに日本が勝利すれば9分どおり予選突破が決まる、今予選の大一番だ。舞台は同じ国立霞ヶ丘陸上競技場だが、3年前のような地上波生中継はなく、事前の開催告知も、その重要度に比して十分とは言えない。

 そんな状況を憂い、なでしこリーグのサポーターは「日韓戦30,000人プロジェクト」という過大なノルマを自らに課し、観客動員に努力してきた。Jリーグや日本代表の試合に足を運んで、そのサポーターと連携をとり、リーグスポンサーやライターの協力も仰ぎ、当サイトにリレーコラム「Road to Beijing」を綴ることで、コアなサッカーファンの興味を引こうとした。試合が明日に迫った、今、この段階でも彼らのひとりひとりが努力を続けている。

 スタジアム全体がまるでオーケストラになったかのような雰囲気を再現するために。



 最後に、国立霞ヶ丘陸上競技場で行われた、なでしこジャパンの試合を簡単におさらいしておこう。これまで、世界大会出場がかかった予選、つまり真剣勝負は5試合行われている。その結果は下記のとおり。

<第4回女子ワールドカップ大陸間プレーオフ>
 2003年7月12日 対メキシコ(2対0) 観衆:12,743人

<アテネオリンピック・アジア地区予選>
 2004年4月22日 対タイ(6対0) 観衆:5,086人
 2004年4月24日 対北朝鮮(3対0) 観衆:31,324人

<第5回女子ワールドカップ大陸間プレーオフ>
 2007年3月10日 対メキシコ(2対0) 観衆:10,107人

<北京オリンピック・アジア地区予選>
 2007年4月7日 対ベトナム(2対0) 観衆:4,157人

 北朝鮮、メキシコらの強豪相手を含む5試合全てに勝っている。それだけではない。約4年間の間に行われた5試合(×90分=450分)の中で、対戦相手にただの一度もゴールを許していないのだ。もちろん、ピンチは何度もあった。しかし、その都度、タイミングのいい突風が吹いたり、どこにも存在しないオフサイドの旗に救われたり、信じられないようなスーパープレーが飛び出したりして、日本のゴールは守られてきた。

 奇蹟は二度起きないというのならば、それらを起こしたのは魔法なのだろう。そしてその呪文の正体は、勝利を祈って声を限りに叫ぶ、日本のサポーターの歌声なのかも知れない。いや「絶対に」そうだ。


※6月3日の韓国戦に3万人の観衆を集めよう!!「30000人プロジェクト」はこちらから
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