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 第88回天皇杯全日本サッカー選手権大会 <前へ次へindexへ>
日立笠戸(黄)とファジアーノ岡山(エンジ)の初陣対決になった。
ファジアーノ岡山、初陣対決を制して2回戦進出。
第88回天皇杯全日本サッカー選手権大会 1回戦 ファジアーノ岡山vs.日立笠戸

2008年9月13日(土)13:00キックオフ 岡山県陸上競技場 桃太郎スタジアム 観衆:1,479人 天候:曇
試合結果/ファジアーノ岡山6−0日立笠戸(前3−0、後3−0)
得点経過/[岡山]鴨川(2分、60分、62分)、武田(5分)、金(41分)、玉林(71分)


取材・文/西森彰

「ファンクラブに入っているんです。仕事のシフトが空いている時は試合を見に行きますよ。今の成績ですか? 本当によくやってくれていると思います」

 岡山駅前のホテルに入っているおしゃれなレストランの男性店員は、わが街のチームについて熱っぽく語った。「僕らの街には夢がある」。この日の岡山県陸上競技場、通称・桃太郎スタジアムに張り出された横断幕のコピーにはそう記されていた。

 3度目の挑戦で全国地域リーグ決勝大会の壁を破ったファジアーノ岡山は、JFL昇格初年度の今年、いきなり上位争いに加わった。18チーム2回戦総当たり34節の4分の3にあたる26試合を終えて、14勝6敗6分けの3位。Jリーグ昇格ラインの4位以内をキープしている。



僕らの街には夢がある!
 Jリーグ昇格をかけた大事な中断期間に行われる天皇杯で、初戦の相手は昨シーズン、中国リーグで対戦し、大勝してきた日立笠戸。これまでリーグ戦で出場機会が少ないリザーブメンバーの起用がセオリーである。実際に岡山の手塚聡監督も、一週前のソニー仙台戦の先発メンバーは全てはずしてきた。

 こうしたオープントーナメントでは、試合が面白くなるために、いくつか必要不可欠なものがある。まずは、強者の側の強いモチベーションがあるかどうかだ。Jリーグでも、ターンオーバーしたチームがやる気のないパフォーマンスを見せて、サポーターを失望させることがしばしばある。別メニューを与えられ、公式戦から隔離され、技術とハートが劣化する。そんな選手は少なくない。

 では岡山の選手たちはどうだったか。結論から言えば、まったく問題なかった。

 まず、この日の出場選手たちにとって久々の公式戦が、ファジアーノ岡山がその歴史の中で初めて臨む天皇杯だった。クラブの歴史に、自分たちの両足で新たな1ページを書き加える。これは間違いなく、彼らのモチベーションを高めた。

 手塚聡監督は「選手層の底上げを見据えて、新戦力の発掘を目的として戦う」と戦前から広言し、選手たちにアピールの場という意識をハッキリ持たせた。「リーグ戦の翌日は練習試合を組んでいました。また、前日の試合で出てきた課題をチームの課題として、翌日の練習試合の修正課題としてきました」(手塚監督)。こうして繊細な扱いを受けていれば、他チームのサテライトメンバーとは、気持ちの持ちようも変わってくる。

 さらに「(岡山)県のサッカー協会が頑張って、一回戦をホームの桃太郎スタジアムでできた」(手塚聡監督・岡山)ことも大きい。総入場者数1,479名のうち、チームカラーであるエンジのシャツを着用した人たちが半分近くを数えた。バックスタンドに陣取ったコア集団のコールに、メインスタンドのファンも手拍子を合わせる。勝利を期待してくれている人たちの前で、下手な試合はできない。



ヘディングシュートを決める鴨川(32)。ハットトリックの活躍。
 試合開始から僅か2分、J1・名古屋グランパスから移籍してきた鴨川奨が、振り向きざまのシュートでゴールネットを揺らす。これが山口県代表としてこちらも天皇杯初挑戦となる、日立笠戸イレブンの出鼻を挫いた。5分にも、左から入ったボールを武田英明がゴールにつなげる。桃太郎スタジアムは、ホームチームのラッシュに沸いた。

 立ち上がりにワンツーをもらった日立笠戸も、ただ前に蹴るサッカーではなく、最終ラインからボールをつなぎ、反撃を試みようとする。だが、岡山の選手たちは前からチェイシングをかけ、懸命にパスコースを探す日立笠戸の選手に、息つく暇を与えない。「チーム全員で同じサッカーを目指している」という手塚監督の言葉通り、岡山は連携の取れた守備で日立笠戸を封じ込めた。

 前半の半ば過ぎから、ややペースダウンした時間帯もあったが、ハーフタイムを前にきっちりと加点する。41分、右からのコーナーキックで、小林優希が左足から強烈なボールを放つと、北京五輪代表候補だった韓国の新鋭キム・グァンミンが頭をあわせる。「まだ言葉の問題があって、とっさの場面でコミュニケーションがとれない部分も残っている」(手塚監督)が、1対1での強さは攻守両面で見られた。

 前半の中だるみを手塚監督に指摘された選手たちは、一矢報いようと前に出てくる日立笠戸の裏を狙い、ボランチ、2列目が飛び出してカウンターを見舞う。そして、60分、コーナーキックからヘディングシュートでこの日2点目を奪った鴨川が、その2分後にPKを決めてハットトリックを達成。71分にも、玉林睦実のゴールで6点目を挙げた岡山は、終盤の守勢を無失点で堪えてタイムアップの笛を聞いた。天皇杯初陣対決は、岡山に凱歌が上がった。



天皇杯の出場メンバーは、翌日、美作でサッカー教室に参加した。
 このゲームが90分間、締まったものになったのは、日立笠戸がアマチュアらしいひたむきさで戦い切ったから。「4点差、5点差ついても、全く諦めることなく戦ってくれた。それが良かったと思います」と岡山の手塚監督もエールを送る、すがすがしい姿だった。その日立笠戸に、リザーブ中心のメンバーを起用し、昨年と同じようなスコアで圧勝した岡山。それは選手層の厚みが増したこと。チーム全体で戦っていること。そして今の成績がフロックでないことの証左にも思える。

 そのあたりを手塚監督に尋ねると「そうだといいんですけれども、まだそこまでの確信には至っていませんね」と照れを交えながら、たしなめられた。だが、新戦力の見極めについては、それなりに手ごたえをつかんでいたようだ。

「鴨川はきっちりと決めるところで決めましたが、まだトップフォームじゃないと思う。これから、まだまだ上がってくると思う。キムの言葉の問題も、練習試合をこなしながらサッカーで必要な日本語を覚えれば、必要な戦力になってくる。竹田(忠嗣)は何試合かの中では今日が一番良かった。落ち着いてやれていたと思います」

 2回戦に進んだ岡山は、1週間後、ヴォルカ鹿児島を迎え撃つ。試合会場はこの日と同じ、ホームの桃太郎スタジアム。そこを突破すると、いよいよJリーグ勢が待っている。


(ファジアーノ岡山) (日立笠戸)
GK: 堤喬也 GK: 木藤隆夫
DF: 重光貴葵、大島翼、キム・グァンミン、三原直樹 DF: 中村太郎、菅森大介(84分/内山遼祐)、植田孝矩、酒井陽平
MF: 藤定孝章、竹田忠嗣、玉林睦実、小林優希(70分/金光栄大) MF: 渡辺就太(75分/網永義朗)、藤永文雄、酒井大輔、能宗経巳
FW: 鴨川奨(64分/朝比奈祐作)、武田英明(76分/岩田大樹) FW: 北島祐希(57分/福間智之)、櫻井健史
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