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 第86回全国高校サッカー選手権大会 <前へ次へindexへ>
スタンドに広げられたビッグフラッグ。流通経大柏は千葉県民の期待を背負って戦う。
プレッシャーから解き放たれた柏、圧勝でファイナル進出。
第86回全国高校サッカー選手権大会準々決勝 流通経済大柏高校vs.津工業高校

2008年1月6日(日)12:10キックオフ 国立霞ヶ丘陸上競技場 観衆:17,865人 天候:晴れ
試合結果/流通経済大柏高校6−0津工業高校(前1−0、後5−0)
得点経過/[流経大柏]大前(26分、46分、66分、68分)、保戸田(61分)、田口(72分)


取材・文/西森彰

 今大会の本命とされている流通経済大学柏高校の国立までの道程は、決して楽なものではなかった。久御山高校に2対1、北越高校に2対0、そして準々決勝の東福岡高校とはスコアレスドロー、PK戦の末の勝ちあがり。「これは強い!」と唸らせるようなゲームはひとつもなかった。

 ハード面、ソフト面で恵まれた環境にある学校は、周囲の期待に応える義務がある。ましてやユース世代のメッカとも言える千葉県代表であり、全日本ユースの覇者でもある。選手たちの背中にかかるプレッシャーは桁外れのものがあった。目の前の敵だけでなく、自分たちとも戦いながらのベスト4進出だったのだ。

 流経大柏キャプテンの名雪遼平は、国立のピッチと大勢の観客にも「予選の時からたくさんの人が試合を見に来てくれるから、今日もそんなに緊張しませんでした」。「千葉代表が勝ち上がった大会は、雑誌の売れ行きも違うらしいよ」と声をかけると「そうでしょう」と言わんばかりに笑みを浮かべた。負荷を背負って戦い続けた選手たちは、場慣れもしている。

 いっぽうの津工業は「我々がここに出てしまったのは、きっと場違いだったんでしょう。試合前は、私も多少緊張しましたし、選手たちは試合が始まってからも硬さが取れなかった」(藤田一豊監督・津工業)。キックオフの前から、ピッチ外の部分で大きな差がついてしまっていた。



スピードを生かして相手をかき回す久場(中央)
 さらに戦術面でも、あくまで自分たちのサッカーを貫こうとした挑戦者に対し、ユース王者はスカウティングの結果を反映させてきた。まず、前半10分までは自陣に攻め込まれると、大きく縦へ蹴り出してリスクヘッジする。「ハーフタイムに0対0で帰って来い。それで十分だ」というのが本田裕一郎監督の指示だった。

 攻撃では、大会に入ってからゴールが遠い、大前元紀を敢えて2列目の左サイドでスタートさせた。対戦相手のタイトなチェックに苦しんでいたエースを、ゴール前から開放してマークを薄くすること。また、ゴールを欲する大前が積極的にクロスに反応し、ペナルティボックス内に入っていくこと。このふたつの狙いがあった。

 また、津工業の攻撃についても映像で分析していた。「8番(松葉)、9番(飯田)、10番(中野)、そして22番(荒井)。8番、9番をどう抑えるか。そして10番の楔に落ちるボールへどう対処するか。それを昨晩、ミーティングしました。選手たちはビデオを見てそんなに怖がっていませんでしたが、私はナーバスになっていました」(本田監督)。

 そこで、サイドバックの中富翔太、海老原慎に飯田裕之、松葉司を監視させ、サイドハーフには、挟み込んで数的優位を保つように、口が酸っぱくなるまで注意した。そして、通常はボランチを務める名雪を「このポジションでプレーするのは初めて」という右サイドハーフに出した。これによって、スピードのある飯田を押さえるとともに、中盤の守備を分厚くする。



この日4得点の大前(中央)。インターハイ、高円宮杯に続き、3大会連続の得点王を狙う。
 試合が始まって、最初のチャンスは津工業に訪れた。秋月和英からのロングフィードが、流経大柏の最終ラインを越えていく。これに追いついたのが津工業の飯田。絶好の先制機だったが、これを潰したのが流経大柏GK・須藤亮太のプロフェッショナルファール。流経大柏としては、イエローカードでも助かった感じのシーン。ここから、中野、松葉がシュートを狙うが、ゴールは奪えない。

 落ち着かない時間帯を凌いだ流経大柏は徐々に、力を発揮していく。25分、高い位置からのチェイシングでボールを奪うと、縦へのスルーパスに反応したのが小柄な久場光。ここは津工業GK・小倉景規の飛び出しに阻まれたが、1分後にチャンスをモノにする。田口泰士のパスを左サイドで受けた大前が、ドリブルからフェイントでDFを振ってコースを空けると、右足でシュート。これが先制ゴールとなった。

 失点さえしなければ良いと思っていた流経大柏にとって、これは望外の1点。その後はロスタイムの松葉から、中野のヘディングシュートという場面に肝を冷やしただけ。1点リードのまま、後半へ折り返す。

 ビハインドを返すべく、津工業の藤田監督は、FWの前田侑弥をMFの荒井拓真に代えると、右サイドでプレーしていた松葉を前線に上げて、個人技での打開を期待する。松葉は、早速、ドリブルで流経大柏のDFを2枚交わして、GKと1対1の場面を作るが、ここでループシュートを打とうとして中途半端なフィニッシュ。絶好の同点機を逸す。

 津工業のシステム変更を確認した上で、流経大柏の本田監督も動いた。バイタルエリアの守備に名雪を回し、右サイドに保戸田春彦を投入する。追加点が生まれたのはこの直後。田口から中里崇宏とつなぎ、左から入れたクロスへ飛び込んだのは大前。これで勝負あった。目を覚ました大前は保戸田のゴールを挟んだ後に2得点。田口もゴールを奪った流経大柏が、終わってみれば6得点の圧勝だった。



ドリブル突破に非凡なものを見せる松葉(オレンジ・8)も、流通経大柏の堅い守りを崩せず。
 敗れた津工業の藤田監督は「日本の、この世代のチームは4つの枠でくくられる。まずはJリーグのユースチーム。そして指導者も設備も揃った高校。日頃は土の上で練習しているけれども、県内・県外から選手が集まってくる高校。そして、実は最も多いのは、我々のような『普通の学校』なんです」。そして、プリンスリーグなど試合が増えることは強豪校にとっては強化の場となるが、普通の学校にとってはかなりの負担になるというところにまで話は及んだ。

「普通の学校」を出た「普通の選手」がプロになれる可能性はほとんどない。ならば、高校3年間をかけてやってきた、自分たちのサッカーをやり通せば良い。「こうじゃなきゃいけない」とか「こうあるべき」という押し付けがましい部外者の意見など、無視して構わない。それができるだけの努力を彼らはしてきているのだから。

 わが道を突き進むという点では、方向性こそ違え、流経大柏も同じである。「18歳にもなれば、15歳までのサッカーとは違って、勝負の結果についてもこだわらなければいけない」と本田監督は考えている。その考えを後押ししているのは「ベスト4に入って当たり前」の高校サッカー最激戦区・千葉県民の期待だろう。

「キャプテンのプレッシャーというのはまったくなかった。それよりも、チームが千葉県にあるということをプレッシャーに感じていました。決勝に進めるということで、気持ちが楽になった部分はありますけれども」(名雪)

 流経大柏にとって最大の敵は自分たちの中にあった。シード権を確保して最低限のノルマを果たしたチームは、プレッシャーから開放され、本来のプレーを取り戻した。そして今大会の千葉県代表は、1週間後、決勝戦というさらに大きな舞台で、この日以上のパフォーマンスを全国のファンに見せ付けることになる。


(流通経済大学柏) (津工業)
GK: 須藤亮太 GK: 小倉景規
DF: 中富翔太、天野健太、秋山心、海老原慎吾 DF: 佐々木伸悟、宮本竜雅、真田修次、秋月和英(51分/花盛佑弥)
MF: 村瀬勇太(45分/保戸田春彦)、中里崇宏、名雪遼平、大前元紀(71分/戸張真仁) MF: 松葉司、花木真佐雄、鈴木雄太、飯田裕之
FW: 久場光(60分/河本明人)、田口泰士 FW: 中野真人、前田侑弥(H.T/荒井拓真)
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