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| 第28回全日本女子サッカー選手権大会 | <前へ|indexへ> |
TASAKI、岡山湯郷を降し、初の元日戴冠。
3年ぶりに日本一のタイトルを奪い返したTASAKI
第28回全日本女子サッカー選手権大会決勝 岡山湯郷Bellevs.TASAKIペルーレFC
2007年1月1日(祝・元旦)10:32キックオフ 国立霞ヶ丘陸上競技場 観衆:15,050人 天候:曇
試合結果/岡山湯郷Belle0−2TASAKIペルーレFC(前0−2、後0−0)
得点経過/[TASAKI]鈴木(9分、38分)
取材・文/西森彰
「準決勝で日テレ・ベレーザに勝った後、宮間あやが名言を残したんですよ。『美作選抜が、日本代表に勝っちゃったよ』って。『おい、せめて岡山県選抜くらいにしてくれ』と思ったけれど、確かにそうですよね」(本田美登里監督・岡山湯郷Belle)
「奇蹟が起こりましたね」と藤井奈々が第一声を漏らせば、北岡幸子も「(『奇蹟的な勝利ではなかったような気もしますが…』)いや、やっぱり奇蹟ですよ! 確かに男子のサッカーだと、バルセロナとインテルナシオナルみたいなことも起きますけれども、自分たちにそういうことができるとは思いませんでしたからね」。
両ベテランでさえ、信じられない気持ちでいたのだから、若いチームがどのようになったかは想像に難くない。見ている人間にはつい2時間前にTASAKIペルーレFCが見せた、2回のロスタイム同点劇に比べれば、よくあるサッカーの番狂わせのひとつに思えた。ただ、そのTASAKIの勝ちっぷりに盛り上がって、自分たちも日テレを倒してしまった岡山湯郷Belleの選手たちにとっては、やっぱり大事件だったのだ。
2時間前に奇蹟を起こしていた2日後の対戦相手も、この試合をスタンドから見ていた。「準決勝でああいう劇的な勝ち方をした後で、ベレーザが負けたんで、ほとんどの選手たちはその時点で優勝を意識したと思います」とTASAKIペルーレFCの仲井昇監督は振り返る。時間帯が先だった分、気持ちを切り替える必要性を感じるだけの落ち着きが生まれていた。
「日テレに勝って岡山湯郷が決勝に上がってきた。これは何年か前の自分たちと同じ。ここできっちりと叩いておくことは、向こう3年くらい意味を持ってくる。今回だけじゃなく、来シーズン以降に向けて、とても大事な試合なんだ」。優勝経験のある監督の一言で、優勝経験のあるチームは過信を振り払い、逆に優勝しなければいけないというプレッシャーを背負って決勝戦に臨んだ。
「元日、国立でサッカーをやる以上の大仕事」をやり終えていた岡山湯郷は「『欲を出さずに頑張ろう。後悔して帰るのだけはやめよう』と話していました」(田中静佳)。本田監督も「日テレに勝つなんてことをやらかした後、中2日で気持ちを入れ替えるのは難しい。それなら、このムードのまま送り出したほうが緊張しないで済む分だけ良いだろう」。気持ちを切り替えるよりも、勢いを持ち込むことに賭けた。
置かれた心理状態も、立場も、全く対照的な両チームは、元日、国立霞ヶ丘陸上競技場に集まった15,050人の前に姿を現した。
0対0の時間が長引くことは、TASAKIにとって厭な展開だ。山郷のぞみの浦和レッドダイヤモンズレディースをPK戦で負かしているとは言え、岡山湯郷のゴールにも福元美穂がいる。今シーズン、代表でもレギュラーポジションを奪い、存在感も落ち着きも増した守護神は「今期、ひとりで勝ち点15くらい稼いでいる」と本田監督が感謝するほどの充実振りを見せている。深い時間帯になればなるほど、間違いが起こりやすい。
いざ決戦の舞台へ。後は自分たちのサッカーをぶつけ合うだけだ
逆に言えば、岡山湯郷がとるべきゲームプランは、一本一本、愚直なまでにタッチに逃げてプレーを切り、自軍のリスタートに時間をかける。日テレ戦同様に専守防衛からの一発だったはずだ。しかし、岡山湯郷は自陣に引きこもるのではなく、攻守の切り替えの速さでTASAKIに対抗しようとした。そして、どちらのチームも欲しがっていた先制点は、前半の9分という浅い時間帯に生まれた。
中央で宮間あやがボールを持った瞬間、岡山湯郷の選手たちは少ないチャンスを活かそうと2トップ、2枚のサイドハーフ、そしてボランチまでが一斉に選択肢を増やすため、前にかかった。TASAKIのDFとの競り合いで軽い接触から宮間が倒されたが、深野悦子主審はノーファールと判断。そのままロングボールが今大会初先発となるTASAKIのエース・大谷未央に渡った。
大谷は、寄せてくる岡山湯郷のDF2枚の間を一瞬のスピードで割って、そのままシュート。左ポストに当たったボールは、中央に詰めてきていた鈴木智子の前に跳ね返った。これを鈴木が落ち着いて流し込む。「あのシュートまで持っていく形は、私が理想としているものだったし、ゴールが決まっていれば最高だったんですが、点につながりましたから良かったです」とゴールのきっかけを作った大谷。TASAKIの背負った重いプレッシャーを取り去り、岡山湯郷に重たいダメージを与える1点だった。
「9分という時間で、自分がボールを奪われて失点につながってしまった。リーグ戦でも、相手のペナルティエリア付近でボールを奪われた後に、長いパス2本くらいでゴールを奪われることが多かったし、あの失点は完全に私のミスです。私がボールを取られると周りが思っていないのであれば、なお、取られてはいけなかったと思います」
先制点の責任を感じた宮間は、20分前後に数回訪れたセットプレーで、TASAKIのゴールを幾度も脅かす。しかし、守るTASAKIの選手も気合十分。「準決勝の浦和戦で、それほど崩されていないのに、ちょっとしたミスで2失点した反省があった」という磯ア浩美を中心として、いやらしいポイントに落ちてくるボールをことごとく跳ね返す。
そして相手の時間帯を耐え切ると、38分、甲斐潤子の出した長いボールに鈴木が追いつき、進路上にしっかりと壁を作った福元をトップスピードのまま左足のタッチで右に交わす。普通はそのまま体が流れてしまうものだが、鈴木は鍛えられた下半身の踏ん張りで体勢を復元し、再び右足でゴールを陥れる。試合の行方を九分九厘決する2点目だった。
後半に入ってもTASAKIの優勢は続く。宮間にボールを渡す回数も減った岡山湯郷は、反撃の糸口を見出せない。「特に宮間対策というのは指示しなかった」と仲井監督は言うが、ディフェンスリーダーの磯アは「今日の試合は準決勝のように一発で裏を取られるか、宮間選手からのスルーパスしか考えていなかった。絶対に宮間選手を自由にさせない。そのために守備をしている時はもちろん、攻撃をしている時も絶対に目を離さないように指示していました」。
宮間にボールが渡ると、TASAKIの選手たちは2枚、3枚でかかり、絶対に自由を許さない。いつもなら、宮間が中央で相手のDFを引き付けることでサイドの田畑沙由理、中田麻衣子がフリーになるチャンスが訪れる。だが、この日はTASAKIにサイドから押し込まれる時間帯が長く、ボールを奪った後のスタート地点が低すぎる。TASAKIの新甫まどか、中岡麻衣子のチェックでビルドアップに時間がかかり、堅い陣地を構築されてしまう。
57分、ようやく目の前にある分厚い壁をドリブルで突破した宮間が、ゴールまで30メートル以上残した位置からロングシュートを放った。「(佐々木)香織ちゃんが前に出てきていたので、最初から狙っていた」その一撃は、「準決勝のミスを取り返したかった」佐々木が戻りながら目一杯伸ばした腕とゴールバーに弾かれ、ピッチの中に戻ってきた。千載一遇のチャンスは去った。
岡山湯郷の本田監督は、最後まで選手交代を行わず、試合終了の笛を聴いた。今大会、チームを救った加戸由佳と田中、中田の3枚は代えづらいし、そこにボールを配給する宮間と田畑も下げられない。しかし「負けるなら同じ」という考えの下に、DFを1枚削って神成美紀を投入する手はなかったか。若いFWには国立のピッチに立つだけで、良い経験になったはずだが…。
うれしくも、悔しくもある準優勝。更なる飛躍を誓う
シーズンを通して固定メンバーを貫いたメリットももちろんある。本田監督がS級受講のためチームを離れている期間中も「ほとんど毎試合、同じメンバーだったので、それまでのゲームを振り返りながら、互いにいろいろと要求し合えた」(田中)。また、フィフティゲームを拾って4位に滑り込めたのは、試合の局面局面で意思統一ができたからでもある。
その代償として、控えの選手たちからはゲーム勘が失われたのは間違いない。接戦が続いていたために選手を代えられず、それがまた選手交代に踏み切るきっかけを失わせる悪循環にも繋がった。長いシーズンを戦う上で分厚い選手層の構築が、来期以降の課題となる。
それでも、全てがうまくいった結果でも、リーグ4位、全日本女子準優勝という結果は褒められて良いものだろう。
「リーグの4位については、本当に危ない試合をつなげてつなげてきた結果だから、自分たちも成長したと思います。全日本女子の2位については、ほとんど運が運んできてくれたものだと思います。実力でベレーザに勝てたわけではないし、特殊な戦い方で勝ったもの。これからは普通に戦って、勝っていきたいと思います」(宮間)
これまで勝敗に関わらず、ほとんどすぐインタビューに応じてくれていた仲井監督が、なかなかミックスゾーンに出てこなかった。ようやく控え室から出てきたかと思うと、今度は喫煙コーナーに移動してタバコに火を点ける。ここに返り咲くまでの日々に思いを馳せているようだった。
勝てなかった日々を過ごして手に入れたタイトル。次はリーグ制覇を狙う
「タイトルを取れたことには非常に満足しています。最後にしっかりと勝てたことは嬉しいと思います。しかし、今シーズン一番取りたかった地元の兵庫国体、そしてリーグ戦…。シーズンを通しては決して満足のいくものではありませんでした。来シーズンは、今シーズン取れなかったタイトルをとるのはもちろん、ここからもうワンランクはレベルアップしないと。日テレには勝てない。代表に呼ばれても出られない。アジアでも勝てない。世界にも通じない。そんなことでは困りますから、世界へ向けての選手作りを続けなくてはいけないことを自覚しています」
世界に通じるレベルまで個を高める。この日の2得点に結びついた鈴木、そして大谷のプレーは、その指標になるものだった。リードしてから左右にボールを散らして、相手に足を使わせるゲーム回しも、ここ数年目指してきたひとつの形。勝てなかった時期に積み重ねてきたものが、この日、ようやく陽の目を見たわけだ。
指揮官は一呼吸入れて、来シーズン以降を見据えたが、プレッシャーから解放された選手たちには、もう少し喜びに酔う時間が与えられても良いだろう。代表でも、所属チームでも主将である磯アは、胃に穴が開きそうになる1年だったはずだ。
「体力的な部分だけじゃなくて、精神的にもずっと緊張していました。今日も朝早くから起きて眠れなかったりしていた。本当にそういうしんどい生活が続いていました。『こんな事を感じながら生活できるのも、嬉しくて泣いたりできるのも私たちだけかな。幸せなのかな』。そう感じられるようにしなければいけませんよね」
そういった後で、なでしこジャパンのキャプテンは「でも、今は本当に疲れちゃっているので、とりあえずは全てを忘れて休みたいな」と、涙の跡がまだ残っているその顔に笑みを浮かべた。
| (岡山湯郷Belle) | (TASAKIペルーレFC) | |||||||
| GK: | 福元美穂 | GK: | 佐々木香織 | |||||
| DF: | 安田邦子、藤井奈々、城地泰子、佐藤シェンネン | DF: | 甲斐潤子、磯ア浩美、下小鶴綾、佐野弘子 | |||||
| MF: | 北岡幸子、田畑沙由理、宮間あや、中田麻衣子 | MF: | 新甫まどか、中岡麻衣子(76分/白鳥綾)、阪口夢穂(87分/清原万里江)、山本絵美 | |||||
| FW: | 田中静佳、加戸由佳 | FW: | 鈴木智子、大谷未央(62分/大石沙弥香) | |||||
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