topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink
 第31回全日本女子サッカー選手権大会 <前へ次へindexへ>
岡山の守護神・福元美穂。本田美登里監督も絶対の信頼を寄せる。
ベレーザを支える積み重ねてきた強さ
第31回全日本女子サッカー選手権大会 準々決勝 岡山湯郷Bellevs.日テレ・ベレーザ

2009年12月23日(水)14:00キックオフ コカ・コーラウエスト広島スタジアム 天候:曇のち晴れ
試合結果/岡山湯郷Belle1−5日テレ・ベレーザ(前0−2、後1−3)
得点経過/[ベレーザ]大野(7分、63分)、永里(44分、74分)、[岡山湯郷]宮間(66分)、[ベレーザ]岩渕(82分)


取材・文/西森彰

 なでしこリーグは6位に沈んだ岡山湯郷Belleだが、チームの主体となって参加した新潟国体では優勝。相変わらず、カップ戦に強いところを見せた。

 ノックアウト方式に強いのは単なる偶然ではなく、明確な理由がある。至近距離からでも神がかりのセーブを見せる、守護神・福元美穂である。その存在が、対戦相手にPK決着を避けたいというプレッシャーをかける。早い時間から前傾姿勢をとってくる相手に、一発のカウンターを決めやすくなるわけだ。

「ウチは、PKまで持ち込めば勝ちに等しい。もちろん、ベレーザ相手に90分間、ゼロじゃいけないと思います。2点までなら、宮間あやのところで1点と、どさくさ紛れの1点で何とかなるんじゃないでしょうか」

 これが、岡山湯郷・本田美登里監督の胸算用だった。



ベレーザの先制点は岩真奈(緑・20)の突破から生まれた。
 岡山湯郷には試合開始から、日テレ・ベレーザとポゼッションを争う意思はまったくなかった。ボールを持たれる時間が長くなっても、無闇に足元へ飛び込まない。大野忍、永里優季がいるゾーンへボールを通さないように、ブロックを作ってジッと我慢。狙っているゾーンにボールが入った時だけ、人数をかけて奪いに行く。

 ところが7分だった。岡山湯郷がカウンターに入ろうとしたところで逆にボールを奪い返した日テレ・ベレーザは、岩渕真奈がドリブルに入る。岡山湯郷のディフェンダーは、大野、永里の動きを見ながら、ズルズルと下がる。岩渕はこれで生まれたスペースに、追ってくるミッドフィルダーに追いつかれないような、そして味方選手ができるだけフォローに上がってこれるような、絶妙のタイミングで持ち上がる。

 そして、ペナルティボックスに最終防衛線を敷いた岡山湯郷のディフェンダーたちに勝負をしかけると見せて、右のスペースにパス。全力で駆け上がってきた近賀ゆかりが中央へ折り返すと、これに大野忍が頭を合わせる。本田監督が覚悟していた2点のうちの1点が早い時間帯に入った。

 余裕を持ったベレーザがカサになって攻めることなく、しっかりとボールをコントロールし始めた。岡山湯郷も焦ることなく、この流れを受け入れた。そのため、試合はスローダウン。

 ゲームが再び動いたのが前半の終了間際だった。

 まず、チャンスを掴んだのが岡山湯郷。この日、フォワードで起用されていた中野真奈美が、ディフェンダーを交わし、ベレーザ最終ラインの裏に抜ける。しかし、最後のパスが弱く、中央で待っていた松岡実希の前に飛び出した松林美久に抑えられる。

 その1分後、今度はベレーザがチャンスを掴む。岡山湯郷のゴール前までベレーザがボールを運び、混戦に突っ込んだ永里に、ディフェンダーの伸ばした足がかかってPKの判定。これを永里がきっちりと決めて2点差とする。

「とにかくゼロイチで帰ってきてくれと思っていたんですが、あの2点目が痛すぎた」
(本田監督)

 決定機を捉えられるかどうか。そこで、明暗がくっきりと分かれた。



永里優季は(緑・19)勝負を決める3点目を奪う。
 さらに、ベレーザ・星川敬監督の采配が、ゲームの流れを磐石にした。

「ハーフタイムに選手を入れ替えて、サッカーのやり方を前半と変えた。それがうまくいった」

 小林弥生に変えて南山千明を入れて、4−4−2から4−3−3へシステムを変更。ピッチをよりワイドに使い、1対1の場面を増やし、より危険なゾーンにボールを運ぶ。そして、63分、スローインから近賀が中央の岩渕へ預けると、澤を使った岩渕がゴールに迫る。岩渕に意識が集まった瞬間、ボールはもう一人の小兵ストライカー大野へ。右足を振り抜くと3点目が生まれた。

「あの3点目で、監督という立場にある私の中ではギブアップ。でも、選手たちはそうじゃなかった。あれが、あの子たちらしさ、女子サッカーらしさなのかも知れないけれど」(本田監督)

 絶望的な点差にも関わらず、岡山湯郷の選手たちは諦めなかった。66分、ベレーザのバイタルエリアで生まれた混戦で、岡山湯郷の選手たちが体を張り、ひとつふたつとつないで、宮間の前にボールを流す。託されたボールを左足で打ち抜いたエースは、ボールを拾い上げるとセンターサークルへ疾走。チームの士気も上がり、昨年のTEPCOマリーゼ戦で見せた反撃が始まるかに思えた。

 ここで、再び流れをベレーザに引き戻したのが、永里だった。雨上がりのピッチの荒れた部分で、クリアをもたついた岡山湯郷のディフェンダーに襲い掛かる。そして、ボールを奪ってゴール正面で1対1。これでは福元であってもどうしようもない。ゲームにピリオドを告げる4点目がもたらされた。

 ベレーザは、82分にもディフェンスラインの裏に抜けた岩渕が、福元の頭越しにループシュートを放って5点目を奪った。一方、ベレーザのボールキープに振り回された岡山湯郷も、残り5分から反撃。85分に宮間のラストパスから中野、86分には津波古友美子のクロスから途中出場の有町紗央里、89分にも松岡からフリーの中野にラストパスが通ったが、どのシュートもゴールネットを揺らせなかった。



意地の1点を見せた宮間あや(白・10)。敗戦にもチームの未来に明るさを感じている。
今大会で素晴らしいパフォーマンスを見せ続ける原菜摘子。ベレーザの若手の成長株の1人だ。
 潜在的な能力は別にして、この日のゲームの内容だけを評価すると、ベレーザが負けるようなシーンは浮かばなかったが、スコアほど大差がつくゲームでもなかった。

「私も5点取られるような試合内容ではなかったとは思っていますが、やはり大事なところを決められる力がベレーザにはあると思う。それといくらウチのゴールキーパーが福元でも、あれだけフリーでシュートを打たせていれば……。それが5失点の原因かな。これまでのゲームに比べればチャンスは作れていたと思います」

「このチームに戻った時、今いる選手たちが本当に温かく迎えてくれた。だから、結果を残すことはできませんでしたが、何かしら次につながるものを残せればいいかなと思います」とチームメートへの感謝を口にしたエースは、チームへのアドバイスを求めると次のように語った。

「遅攻のバリエーションを増やすには時間がかかるけれど、速攻のパターンを高めるのはそこまで時間がかからない。中野、松岡を初め、みんなそれぞれ良いものを持っている。精度を高めれば、必ず良いものが出来上がるし、未来は明るいと思っています」



 リーグ戦よりも、格段の凄みを増してきたベレーザ。それは「リーグ戦で勝てなかった悔しさをこの選手権で」という選手の気持ちだけではない。「きちんとテーマを持って1年間、チームを作ってさえいれば、完成度が高まるこの時期にチームが強くなるのは当然のこと」と星川監督。それを体現したのが、チームに勢いをもたらす2ゴールを奪った永里だろう。

 今シーズンの途中まで、チーム事情から、ボランチでプレーすることが多かった。なでしこジャパンの佐々木則夫監督は、代表チームに与えられた日数を考えて、現実的な選手起用を行う。既存のコンビをそのままそっくり活かすことも多い。短期的な代表選考面からは、やや不利にも思えた。

 しかし、きちんと意識を高く持ってプレーしていれば、どのポジションをやっていても、身につくことはたくさんある。事実、これまでと異なるピッチ中央でのプレーは、永里の幅を広げた。

「ボランチでプレーしていると、360度全方位から相手が寄せてくる。これまで以上にボールを大事にしようという気持ちが強くなった。また、フォワードに戻った時に、これまで以上にゴールへ向かうという意識も高まりました。これからも、チームに求められる役割を果たしていきたいと思います。もう、2トップがいいとか、3トップがいいとか言っている場合じゃないでしょう」

 これまで続けてきたサッカーから、また新たなアプローチを続けてきたベレーザは、2010年の元日、圧巻のエピローグを見せる。後から振り返れば、ここは、まだその序章にしか過ぎなかった。


(岡山湯郷Belle) (日テレ・ベレーザ)
GK: 福元美穂 GK: 松林美久
DF: 安田邦子、保手濱真奈美、津波古友美子、井関夏子 DF: 近賀ゆかり 岩清水梓 豊田奈夕葉 須藤安紀子
MF: 中川理恵、宮間あや、松田望、中野真奈美(57分/有町紗央里) MF: 岩渕真奈、小林弥生(HT/南山千明)、原菜摘子(76分/南山千明)、澤穂希
FW: 松岡実希、田畑沙由理 FW: 永里優季(76分/荒川恵理子)、大野忍
<前へ次へindexへ>